2-1

オドロイタ…

本当に驚いた…心臓が止まるかと思えるほどに…


--------------


村の入り口にある家。それがルカの家だと言った。

レンガ造りの壁と、板葺きの屋根。そこに、煙突が見える。

台所と、あとは二部屋、三部屋があるのみといったところか…。

裏には薬草などを栽培している小さな畑があるとも言った。

そんな小さな家だが、一人で暮らすには十分すぎる広さであろう。

ルカの家から、50メートル先くらいから、家や店が見えている。

「うちから4軒先が、宿屋兼食堂…というか酒場となっています」

そこまで送る、というルカの言葉を、シオンはむげに断るのも何か、と思い、

「頼む」

と答えた。

そんなところへ町人の一人が通りかかる。

「おや、先生、こんにちは」

「こんにちは、ミレポさん」

そうして、シオンを見て、一瞬驚いた顔をする。

「見慣れぬ人だねえ」

「旅の方だそうです、これから宿屋へ案内するところですよ」

そんなやりとりの流れで、シオンはミレポと呼ばれた女性へ会釈した。

「どうも」

「ずいぶんと…変わった剣だねえ」

ミレポは、シオンが腰にさす環首刀に目をやって、大仰に驚いていた。

「旅の途中で買ったのだが、これが意外と手に馴染んだものでずっと使っている」

「そうかい…。次の町までは、ここからまだ先だからねえ。ゆっくり休んで行きなよ」

「ありがとう」

ミレポは、二人に手を振って去って行く。

その背を見送りながら、ルカに尋ねた。

「先生って、ルカは、学校の先生か?」

「ええ、まあ…そのようなものです」

煮え切らない、何とも曖昧な答えだった。

先生と呼ばれるには、いささか若すぎる気がしないでもない。

むしろ、ルカの年齢ならば学士として、教えを請う身である方がしっくりくる。

そんな視線を受け取ったのか、ルカは、事も無げに

「この町では、学問や剣術を教える人材が、ほとんどいないので…不肖ながら私がその一端を担ってるのです」

と言った。


宿屋兼酒場、というその店に入り、

「サザビィさん」

ルカは店の中にいた、女主人に声をかけていた。

サザビィと呼ばれた女性は、ルカを見、一緒にいるシオンを見て驚いていた。

「おや!! 先生、珍しいね」

「旅の方を案内してきたのです。ご馳走してあげてください。」

ルカの言葉に、サザビィは何か言いたげな顔を一瞬だけしたが、笑いながらうなずいて見せた。

「それでは、何かありましたら言ってください。私でできる範囲でしたら力になりますので」

「ああ、ありがとう」

「先生、今日の夕飯はうちで食べなよ!ご馳走を振るうよ!」

「そうですね。今日はごやっかいになろうかな」

と笑い、それでは、と一礼をして、ルカは帰って行く。

サザビィはそれを見送り、シオンに向き直った。

「いらっしゃい、旅の人。うちは小さいながらも、食事は旨いし、安い宿屋だ。ゆっくりしていきな!」

と笑いながら言う。

「シオン・ガイルだ。世話になる」

なかなか雰囲気の良さそうなところだ。

シオンは、荷を下ろしながら、そう思った。

サザビィは、シオンに鍵を手渡しながら、

「悪いが、部屋までは一人で行ってもらえるかい? 案内をつけたいが、今、私一人なもんでね」

と、部屋の場所を教える。

「ああ、構わない…、ところで、隠遁の賢者について、この付近で見かけたという話を聞いたことはないか?この島じゃなくて陸地の方の話でもいいのだが」

「…いや聞いた事がないね」

やっぱりそうか、と頷きつつシオンは階段を上って行った。

その背を見送った後、窓の外のルカの去っていった方向を見たサザビィは不思議な表情をした。


家路につくルカは、ため息を一つこぼした。

……環首刀使いの、中央都市から来た青年、か……

軽く目をつぶり、何かを追い出すかのように頭を振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る