大文字伝子が行く106改

クライングフリーマン

火災現場の『変なモノ』

 ========== この物語はあくまでもフィクションです =======

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。

 渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。

 青山たかし警部補・・・元丸髷署生活安全課所属。退職した後、EITO採用。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 金森和子1等空曹・・・空自からのEITO出向。

 早乙女愛警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。

 大町恵美子1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈2等空曹・・・空自からのEITO出向。

 安藤詩3等海曹・・・海自からのEITO出向。

 浜田なお3等空曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか1等陸佐・・・陸自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。

 稲森花純1等海曹・・・海自からの出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。後に警部補。後に警部。妻はEITO出向の、みちる。

 南原蘭・・・南原の妹。

 南原(大田原)文子・・・南原の押しかけ婚約者だったが、結婚。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 福本祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間で、福本の妻。

 福本明子・・・福本の母。

 福本日出夫・・・福本の叔父。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部コウ・・・服部の妻。

 久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

 橋爪警部補・・・元島之内署の警部補。後に、丸髷署に転勤。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。剣道が得意。EITOに入隊。エマージェンシーガールズに参加する予定。

 藤井康子・・・伝子のお隣さん。EITO準隊員待遇。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前11時。福本家。

 久しぶりに高遠と伝子は、愛宕や服部夫妻を連れて、訪れた。

 福本の母明子は、福本の叔父日出夫と共に、初見の服部の妻コウに挨拶をした。

 特別にケージに入れられた、犬のサチコやジュンコにもコウは挨拶をした。

「音楽の先生もしたことがあるんですか。音楽が縁ですね。」と、明子は言った。

「はい。見合いで、一目惚れして、すぐに妻にしてくれとお願いしました。あ。一目惚れって言っても、容姿のことじゃなく、性格や才能のことです。」と、コウは照れながら言った。

「僕の書いた譜面を見て、いきなり土下座されて、驚きました。」と、服部は言った。

「コウさんは、音楽が分かる人と巡り会いたい、とずっと思っていたそうです。」と、高遠がフォローした。

「服部は奥手だし、フリーミュージシャンだから、心配していたんですよ。」と、伝子もフォローした。

「ウチの英二も、言ってみれば、フリーアーティストだからね。英一も心配していました。大文字さん。お聞き及びかも知れないが、公務員だった英一も、私の弟の英太郎も、区役所の火事の時に亡くなりましてね。」と、日出夫が言い出したので、「申し訳ありません。初耳です。」と、伝子は言った。

「別に、秘密にしていた訳じゃないないですよ、先輩。」と、福本は言った。

「宅建の資格取ったこともか?」と、伝子は詰め寄った。

「私の知り合いの不動産会社に非常勤事務員として採用されたこともな。実は、社長は昔演劇青年だったらしく、英二の演劇活動を許可、応援するそうです。」と、日出夫が言った。

「そうか。服部夫妻を招待した裏には、そういうシナリオがあったんだ。流石だな、福本。」と、高遠は笑った。

「じゃあ、就職祝いに呼ばれたんですね。じゃあ、後でお祝いの歌を歌いましょう。」と、服部は言った。

 2階のベビールーム(予定)を福本が案内した後、皆で昼食を食べ始めた。

 午後12時半。伝子のスマホが鳴動した。出動だった。

 伝子は、福本家から、程近い土手下に走った。

 やはり、のんびり休めないな、と思っている伝子の前にはオスプレイが止まっていた。

 午後1時半。千代田区神田神保町。古書街の裏手のアパート。

 エマージェンシーガールズ姿で、やって来た伝子に、鑑識課長の井関権蔵が言った。

「最初は単なる一酸化中毒を利用した集団自殺かと思われた。練炭があったし。新興宗教らしい連中が出入りしていた、と付近の住人が言っていたが。そのディスプレイを見てくれ。」と中津警部補に井関は合図を送った。

 画面には、《よく言いつけを守った。ご褒美に命を貰ってあげよう。リヴァイアサンバージョン3》と、映し出されていた。

「吐き気がするよ。死体が運び出されたからじゃない。正常じゃない連中の発想がだ。」と、中津警部補は言い、天井を睨んだ。伝子は釣られて上を見たが、何も無かった。

 エマージェンシーガールズ姿のなぎさがやって来た。

「おねえさま。理事官が、一旦EITOに戻れ、と。」「了解した、副隊長。」

「あ。失礼しました。隊長。」と、なぎさが言った。まだ井関以外の鑑識が残っていたからだ。

 午後3時。EITOベースゼロ。会議室。

「訳が分からない。どういうことなんだ、バージョン3って。バージョン2と別口か?」

 理事官の問いに、「単純に考えると、そうなりますね。バージョン2は、恨みを持つ人間を操る為の闇サイトであり、枝は、そんな人間の弱みにつけ込んで、わざわざ武器や兵隊まで用意して復讐を叶えさせようとする。それを邪魔する我々に対抗する。その筈でしたが・・。」と、伝子は応えた。

「『ご褒美』って何でしょう。殺して貰うご褒美なんて聞いたことないわ。」と、珍しく馬越が発言した。

「アンバサダー。何かの比喩ではないでしょうか?殺されたことと直接関係ない言葉の。」増田の発言に、「何か暗号的に使われていた、ということでしょうか?殺された連中と殺した奴または奴らと。」稲森も発言を添えた。

「考えられないわ。被害者が加害者側に、『何』かは分からないけど、依頼またはお願いするなんて。」と田坂が言うと、「ええと。えす、えむ、ですか、ね。ちょっといきすぎた・・・。」と、安藤が言った。

「闇サイトが2つ同時に存在する可能性は?草薙。」と問う理事官に、「あり得ます。充分に。アンバサダー。先日の闘いで、引っかかる所があるって、おっっしゃっていましたよね。」と草薙は伝子に『お鉢』を廻した。

「何故、河本は別行動を取っていたんでしょうか?それだけです。」伝子は短く応えた。

「確かに、白藤たちが捕まえていなければ、逃げられたかも知らないな。」と、理事官は言った。

「枝は帯刀以外にもいたのでは?と思いました。詰まり、協同作戦です。あの兵隊たちと河本が1グループで、それに安西を組み込んだ、という構図です。今回も、何か絡み合っている気がします。バージョン3も目眩ましかも知れない。」

 その時、伝子のマンションから緊急通信が送られて来たと、河野事務官が伝えに来た。

 全員で、一時、作戦室に移動した。

 伝子の固定電話が鳴った時、自動的に録音され、EITOに転送されるのだ。

 理事官は、転送された電話の内容を、管理システムを起動させて、確認した。

《『久しぶりだな、分かるか、大門。』『テラーサンタさんですね。』『そうだ。この頃、模倣犯が流行っているらしいな。私は練炭自殺なんて嫌いだ。教祖様でもない。バージョン3はまだ、ない。それと、幹事長誘拐はフェイクだったらしいな。そりゃそうだ。私の知らないことだったからな。今度は、本当に誘拐してやる。取り戻すチャンスをやろう。ヒントは楽するモノ、だ。簡単だろう?アナザー・インテリジェンス。』》

「楽するモノって・・・?」

 皆、会議室に戻った。

「誰が、貧乏くじを引く?」伝子は投げやりに言った。

「幹事長の警備ですか?フォローして貰えば、私、行きます。」と愛川静音が言った。

「お前は、まだエマージェンシーガールズじゃない。それと、幹事長の件は、よく調べないと動けない。」と、伝子が言うと、「どうしてですか?」と愛川は尋ねた。

「まずは、テラーサンタのヒントを基に、謎を解かねばならない。そして、事件を予測。日時が確定したら、未然に防ぐまたは現場対処。事件の優先順序は固定ではない。作戦はギリギリで変わることもある。加えて、敵は銃や刃物を使うかも知れないが、我々は限られた武器で迎え撃つ。あかり。お前が愛川の教育係だ。」

 伝子の言葉に、あかりは、たじろいだ。「え?私ですか?私、入って日が浅い・・・。」

「日が浅いのは、稲森と飯星だ。お前は、もうベテランだ。お前の変化球シューターは誰にも真似出来ない。嫌なら今回は降りろ。それと、2度と私のことを『おねえちゃま』と呼ぶな。」伝子は、きっぱりと言った。

「了解しました。おねえちゃまの命令は絶対です。愛川は責任持って育てます。」

 あかりは涙ぐんで応えた、あかりの肩に、結城は無言でポンと手を置いた。

 河野事務官が言った。「警視庁から入電。京浜東北線で『飛び込み自殺』。、携帯していた鞄から、テラーサンタ関係と思われる文書発見。EITOに確認依頼が出ています。」

「河野さん。取りあえず、文書を送って貰って下さい。」と伝子は言い、増田に向き直って、「増田。大町を連れて幹事長宅のSPに加わるんだ。」と言った。

 伝子の言葉に、増田は緊張して言った。「了解しました。」増田と大町は出て行った。

「他の者は、一旦待機。今の内に、自宅から持ち出すモノがある者は、帰れ!」と理事官は命令した。

 会議室から皆が出て行き、あつこと伝子は最後になった。

「おねえさま。よく決断を・・・ありがとう。」「お前やみちるでは無理だと思ったんだ。」

 2人が出て行くのを、理事官はそっと見守った。

 午後6時。伝子のマンション。

「只今。」「お帰り。」「なんだ、来てたのか。」

 伝子がさっさと部屋に着替えに行ったのを見て、高遠と綾子は顔を見合わせた。

「婿殿。洗濯物干してる?」「いえ、今日は洗濯していないので。」「良かった。きっと、大雨よ。」

「あめ?なんで見せる前に分かったのかしら?」と、入って来た藤井が言った。

「え?何ですか?」「りんごあめ。作ってみたの。1人じゃ食べきれないし。夕食前に、無理かしら?」

「何で、藤井さんは私の好物知っているんですか?頂きます。」と言って、伝子はトレーからリンゴ飴を取って、バクバクと食べ始めた。

「お義母さん。洗濯しなくて正解でした。」

 午後11時。突然、EITOのPCが起動した。

 伝子はいち早く、移動した。高遠と綾子は、遅れて出てきた。

「大文字君。緊急事態だ。都内3カ所で火事だ。リヴァイアサンバージョン3の管理者を名乗る人物から、警視用に放火をした、と声明文がメールで届いた。そして、移民党の幹事長が誘拐された。警護している増田と大町をまいて、勝手に移動したらしい。幹事長の書斎から表に出る通路があるなんて想定外だった。増田が、幹事長の持ち物や靴に例のガラケーを忍ばせておいたのに、持ち出していない。ただ、DDバッジだけは身に着けているようだ。秘書官も一緒に消えた。火災現場には消防の他、MAITOも向かった。ああ、飛び込み自殺は遺書にテラーサンタと書いてあるだけで、本人の家宅捜索をしないと何も分からない。」

 DDバッジとは、本来は伝子の個人的なグループをDDと呼んでいたに過ぎなかったのだが、メンバーの身の安全の為にEITOが開発した追跡用バッジである。

 MAITOとは、EITOに影響を受けた陸自の陸将が、主に火災現場で活躍する為に結成した、陸自の精鋭部隊のことである。

 数秒考えて伝子は、「理事官。消防とMAITOに、火災現場に何か「変なモノ」があるかも知れない、と教えて下さい。火災現場Aには金森と田坂を、火災現場Bには馬越と安藤を、火災現場Cには浜田と日向を向かわせて下さい。捜索の援軍です。あつこと結城警部は、警官隊チームを率いて待機。私はEITOに戻ります。」

 理事官は、「了解した。何か考えがまとまったようだな。一佐は、もうそろそろ到着する頃だ。2人でEITOに戻ってくれ。」と言った。

 高遠は台所を開けようとしていたが、チャイムが鳴った。

 綾子が玄関を開けると、なぎさが立っていた。

 素早く着替えて荷物を持った伝子がやって来た。

「では・・・。」と、綾子と高遠に、なぎさは短く挨拶をした。

「じゃ。」と、伝子は短く挨拶をして駈けだして行った。

 藤井がやってきて、言った。

「神様が出動したのね。、日本を守る神様が。」3人は自然と手を合わせていた。

 綾子が言った。「柏手の方がよくない?」3人は、改めて、柏手を打った。

 午前1時半。火災現場A。

 もう鎮火していたが、全焼だった。

 消防隊員が、エマージェンシーガールズ姿の金森達に、「これですかね。玄関の所に、『セールスお断り』の隣に貼ってありました。」

 金森が確認すると、ステッカーに『小学校』という文字が印刷されていた。

 午前1時半。火災現場B。

 火事は半焼だった。

 エマージェンシーガールズ姿の馬越が、MAITO隊員に「犬小屋に、貼られていました。これですかね?」と差し出されたステッカーには『中学校』と印刷されていた。

 午前1時半。火災現場C。

 火事はボヤだった。応援に駆けつけた橋爪警部補は、エマージェンシーガールズ姿の日向に言った。「火元らしい、物置の近くにあった植木鉢に光るモノが見えたので確認したんですが・・・。」

 橋爪が差し出したステッカーには『高等学校』の文字が印刷されていた。

 午前2時半。EITOベースゼロ。作戦室。

 伝子は、3つの火災現場からの報告に満足した。

「草薙さん。幹事長が移動したエリアは?」「品川区付近のエリアです。」

「そのエリアで、小中高一貫校は?」「涼宮学園のみです。」「そこだ。ナイター設備は?」

「待って下さい・・・ありますね。高校野球大会にも出場するだけあって、立派な設備のようですよ。」

 午前4時。涼宮学園グラウンド。

 煌々とライトの明りが、グラウンドを照らしている。

 ピッチャーマウンドにベッドが置かれ、両手両脚を拘束された幹事長が横たわっている。猿ぐつわはない。

 ダイヤモンドの内野部には、武装した那珂国人が待機していた。

 エマージェンシーガールズが『入場』した。

 幹事長の横に立っている男が叫んだ。

「遅いぞ、エマージェンシーガールズ。」

 伝子は高笑いした。「宮本武蔵は、後から登場することになっている。ああ、知らないか。お前に50人の兵隊を動かせるのかな?お前のような小物に。」

 すると、どこからか、『更に50人』の那珂国人が現れた。

 伝子は、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、EITOが開発した犬笛のような、人間の耳には聞こえない、緊急連絡信号を出す笛で、吹き方によって、予め決めてある信号をオスプレイが中継し、EITOに連絡する。そして、EITO本部が判断し、指令を出すことになっている。

 伝子のブーメランが、金森のブーメランが、浜田のシューターが次々に武装集団の銃火器やナイフを跳ね飛ばす。田坂と安藤の、息のあった弓矢攻撃は、やはり銃火器を狙って落として行く。日向と馬越、大町、稲森は、なぎさと連携してペッパーガンで敵の攻撃力を削いだ。

 ペッパーガンとは、EITOが開発した、胡椒等を原料とした丸薬で出来た弾を撃つ銃で、火薬の入った銃弾は使っていない。

 凡そ40分。闘争は終った。

 秘書官が倒れた。どこからか飛んできた吹き矢ボウガンからの吹き矢だった。

 伝子は、長波ホイッスルを吹いた。

 オスプレイからホバーバイクが発進した。ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』をEITOが改造したバイクのことである。

 ホバーバイクから降りた、飯星と井関が、秘書官に血清を撃ち、介抱した。

 伝子が軽く頬を叩くと、気を失った秘書官は徐々に目を開けた。

「バージョン3はまだ出来ていない。お前は、テラーサンタの下の枝だ。だが、勝手なことをしたから、お前はテラーサンタから見放され、殺されかけた。血清は打ったが、もりもり回復とは行かないから病院に運ぶ。お前は幹事長を裏切り、国民を裏切った。そして、テラーサンタも。何故、私たちが、ここを突き止めたか分かるか?偶然じゃない。テラーサンタが、他の枝に命じて火事を起させ、私たちにヒントを与えたからだ。やりすぎたんだよ。お前は。一酸化中毒の件もバレてるぞ。」

 伝子が毒の含んだ言葉を吐いた時、救急車のストレッチャーが運ばれてきた。飯星は救急車に乗り、井関はホバーバイクでオスプレイに戻った。

 闘いを終えたエマージェンシーガールズが寄って来た。

「『今回は忘れず』、政府要人を護送しなくてはな。」と、少し離れた幹事長のベッドに向かって伝子は言った。

 武装集団の逮捕連行を終えた警官隊は、ベッドの拘束具を外し、幹事長を、もう1台の救急車に乗せた。

 いつの間にかやって来た、夏目が「アンバサダー。幹事長は私がお連れします。」と言った。

「お願いします。」伝子は言った。

 夏目が去ると、「おねえさま。幹事長は更迭?いや、クビかしら?」と、あつこが尋ねた。

「さあな。総理次第だが、まあ、そうなるかな。みんな、よくやった。夜中なのにな。」伝子が言うと、「おねえさまだから、みんなついて来るのよ。私たちの誇りだわ。例え名誉の戦死をしても悔いはないわ。」と、なぎさが言った。皆、揃って頷いた。

 筒井がホバーバイクでやって来た。

「遅いよ、筒井。」と伝子が言うと、「遅―い!!」と、彼女達は口々に言った。

「はいはい。吹き矢の犯人探してただけなんだけどな。」そう呟くと、筒井はホバーバイクで何処かへ去って行った。

 午前6時。

 何故かチャイムが校内に鳴り響いた。もう朝である。

 ―完―


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大文字伝子が行く106改 クライングフリーマン @dansan01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ