ガチめの人種差別主義ヒーロー

ちびまるフォイ

(私は)けして人を殺さない。

そのとき、地球に巨大な怪獣が現れた!!


「メーデー! メーデー! ミサイルが全く効かない!」

「ダメだ! 核攻撃も効かないぞ!」


「もう終わりだ……」


怪獣はあらゆる現代兵器に耐性をもち、

もはや人間になんの対抗手段もなくなったときだった。


「みなさん、落ち着いて! 大丈夫! 私が守ります!!」


マントをはためかせた一人のヒーローが来るまでは。


「いくぞ怪獣!! ヒーローアターーック!!」


ヒーローは自身の身長をはるかに超えるバカでかい怪獣をいとも簡単に投げ飛ばす。

尻尾をつかんで振り回したあと、めちゃくちゃに殴ってただの肉塊へと変えてしまった。


世界終焉の危機はものの数秒で解消されたのだった。


「ありがとう! ヒーロー!!」


「いつでもピンチのときは呼んでくれ!

 私はヒーロー。君たちが助けを呼ぶ声が私をヒーローにしてくれる!」


ヒーローは輝く白い歯を観衆に見せて最後にこう付け加えた。



「ただし、〇〇人だけは除くけどね!!」



全世界中継された映像を見ていた、〇〇国に住む〇〇人はただ青ざめた。



その後、世界を救ってくれたヒーローには多大な注目が集まった。

ヒーローは気さくでどんなインタビューにも答えてくれた。


「ところで、ヒーロー。これは答えにくい質問かもしれませんが……」


「なんでも聞いてくれ。私はみんなのヒーローだからね」


「一部記事で、あなたは人種差別主義者だともありましたが……事実ですか?」


「ああ。私は〇〇人だけはどうしても好きになれないね」


「それはどうして?」


「宗教上の理由かな。私の信仰する△△教では、〇〇人を敵だとしているのさ」


「ヒーローなのに差別するというのは……」


「あははは。面白いことをいうね。私はヒーローであり、人間だよ。

 好きな食べ物もあれば、苦手な人もいる。それが〇〇人だって話しさ」


「では、あなたは〇〇人を殺すんですか?」


「そんなわけないじゃないか。たしかに私はあの〇〇人を根絶やしにする力はある。

 でもね、私が絶対にやらないことがひとつだけある」


「それはなんですか?」


「人殺しさ。それをしたものはヒーローなんかじゃない」


このインタビュー後に、ヒーローの人気は加速度的にあがった。

ともすれば批判されかねない自分の主義を包み隠さずに話す姿に親近感を覚えファンが多くなった。


差別の対象だと名指しされた◯◯人は明日にも殺されるんじゃないかと、

びくびくしながら過ごしていたが、ヒーローに嘘はなかった。


けして、ヒーローは〇〇人を殺したり傷つけることはなかった。


ヒーローの登場で世界は平和になるかと思ったが、

バランスを取ろうとしているのか、地球に見舞われる危機は増え続けた。


「助けてヒーロー!! 大きな地震が!!」


「もちろんだよ!! 誰ひとり死なせやしない!!」


都市を襲った大地震にヒーローはかけつける。

深海にもぐって地表プレートをいい感じにして地震を抑えてしまった。


「大変だヒーロー! 宇宙人が攻めてきた!!」


「この地球は奪わせない!!」


ヒーローは宇宙人の母船を粉々に砕いて侵略を防いだ。

ヒーローを呼ぶ声はますます増える。


「もうダメだ! 助けてくれヒーロー! 津波がきたんだ!!」


「……」


「ひ、ヒーロー!? なんで助けてくれないんだ!!」



「言ったはずだ。〇〇人は助けないとね」



「うあああ! ごぼごぼごぼ!!」


△△国に巨大津波が押し寄せた翌日、ヒーローは母国でバラエティ番組に出演していた。

司会から津波の犠牲者について伝えられても顔色ひとつ変えずに答えた。


「ヒーロー、悲しい話です。あなたが助けに行かなったことで、

 △△国では子供を含めて何千人もの命が失われたそうです」


「いや、それはいいニュースの間違いじゃないか?」


「え?」


「〇〇人が死んだということは、他の尊い種族の比率が増えたってことだろう?」


「あなたは人殺しはしないはずでは!? どうして助けにいかなかったのですか!」


「勘違いしないでくれ。人殺しは1度もしていないだろう」


「見殺しにはしたじゃないですか!」


「ところで、君は楽屋にあったケータリングは全部食べきったかい?」


「あんな量ぜんぶ一人で食べ切れるわけ無いでしょう」


「でも、世界には飢えて死んでしまう人もいるのに、

 君ときたらそれを分けることもせずに食事を余らせている。

 これは見殺しではないのかな?」


「そ、それとこれとは……」


「同じことだよ。君は認識していないだけでね。

 私はヒーローで大きな力がある。

 

 だが、それをどう使うかは、私が決める」


ヒーローは爽やかに言い放った。


かつて、あらゆる兵器をも無効にする怪獣をやっつけたヒーロー。

その存在は核兵器よりも脅威だった。


いつだって自分以外のすべてを破壊できるヒーローが、

そのような凶行に出ないのはひとえにヒーローの良心に頼るしかなかった。


「みんな、応援ありがとう! 君たちの声が私をヒーローにしてくれる!」


バラエティ番組の出演を終えたヒーローは、

スタッフの用意してくれていた宿泊施設を訪れた。


ヒーローがベッドで眠りについた深夜だった。


部屋に設定されていた時限爆弾が大爆発を起こした。


「GO! GO!! ファイヤーー!!」


〇〇人の過激派グループが重火器を持って部屋に突入した。

黒焦げになったヒーローに銃弾の雨を降らせる。


「この差別主義者め!! 死んでしまえ!!」


弾倉が空っぽになるまで打ち尽くしたときだった。



ゆっくりとヒーローは起き上がった。



「おいおいおい……。寝起きバズーカは人に向けるものじゃないだろう?」



「あ、ああ……」


まさか立ち上がると思っていなかった。

武装した〇〇人たちは尻もちをついてしまった。


「こんなおもちゃで私が殺せるとでも思ったのかい?」


ヒーローは向けられてた銃を奪うと、

バルーンアートのようにプードルへと結び直して返した。


「私は君らのように野蛮でもじゃない。

 話し合いをしようか。なぜ私を襲ったのか教えてくれ」


余裕たっぷりに話すヒーローだったが、

突入した戦闘部隊は恐怖で歯がカチカチとなり続ける。


「ん? なにを怯えているんだい? 私は人殺しはしないと言っただろう」


「うわ、うわああああ!!」


恐怖に支配された一人が対戦車ライフルをぶっぱなすが、

ヒーローの額にぶつかって弾丸はつぶれて落ちた。


「……〇〇人は人が話したときは銃を撃っていいと教わっているのかな」


「おま、おま……お前が、〇〇人を……殺すから!」


「それは誤解だ。ひとりも殺してない。ただ助けないだけだ」


「それでもヒーローか!」


「私が助けなかったらもっと多くの人が死んでいる。

 ノーギャラでね。私は慈善事業でたくさんの人を救っているんだ。

 ちょっとくらい差別的な部分があっても認めてくれていいだろう。神じゃないんだ」


「……」


「こうして、おろかで野蛮な〇〇人と話すのも、

 私個人としては鼻持ちならないし耐えられないんだがね。

 

 それでも、私は殺しはしないと誓っているから、

 こうして理性的に、君たちに逃げるチャンスを与えているんだよ」


「あ、あわわ……」


「殺しはしないと言ったが、死ななければなんでもできるというふうには考えないのか?

 だから〇〇人は低能なんだよ」


「うわぁぁあ!!」


蜘蛛の子を散らすように突入部隊は逃げていった。

ヒーローは脅しこそしたが、誰ひとりとして傷つけることもなかった。


このニュースが世界中に出回ると、〇〇人への風当たりは強くなった。


「私達を救ってくれた英雄を殺そうとするなんて!」

「やっぱりヒーローの言うように〇〇人は野蛮だ!」

「ゲスな〇〇人を逃してあげたヒーローはやっぱり最高!」


〇〇人への風当たりと反比例してヒーローの人気は爆上がり。

一部の民族をのぞいて、世界の危機を救ってくれる英雄に人気が集まった。


人気もピークに達したとき、今度は地球外でトラブルが発生した。


「こちら宇宙管制塔。宇宙船シャトル1号応答せよ」


『こちらシャトル1号。どうされたか?』


「進行方向に巨大な隕石の接近を確認。至急、進路変更されたし」


『ぐっ。進路変更できない! 重力で引っ張られている!』


「このままだと衝突するぞ! 進路変更を!」


『やってる! 精一杯やってるが……! だ、ダメだ!』


「お、終わりだ……」


管制塔の従業員が手を組んで祈るしかない状況のとき。



「助けを呼んだかな?」



ヒーローが管制塔にやってきた。

誰もが救われたと歓声をあげる。


「……ということで、宇宙船が隕石と衝突すれば宇宙船は粉々なんです!」


「それは大変だ。私は宇宙にだって行けるし、隕石も壊せるよ」


「ああ、安心しました。あなたを呼んで本当によかった」


「だが……」

「だが?」



「この宇宙船には〇〇人も乗っているのだろう?」


ヒーローの言葉に管制官たちは言葉をつまらせた。

けれど真実を話すよりほかになかった。


「え、ええ……まあ。乗っていますね」


「私は〇〇人だけは救わないと決めている」


「そんな! あなたしか助けられないんですよ!

 それにあの船には〇〇人以外の人も乗っているんです!」


「しかし……。〇〇人だけ残して助けることは……」


「いくらあなたでもムリに決まってます。

 生身の人間なんです。〇〇人を残して宇宙に連れ出されたら死んでしまいます」


「くそ。ヒーローなのに助けられないなんて……ッ!」


「いやあなたが隕石を壊せばすむ話なんですよ!」


「だが、そうすれば〇〇人も助かってしまうじゃないか!!」


「ひとりふたりくらい助けたっていいじゃないですか!」


「〇〇人はみんな死に絶えればいいんだ!

 なのに私の手で命を救うなんてことは……できない!!」


「あなたが助けなかったらみんな死ぬんですよ!!」


「なんてことだ!! 乗組員に〇〇人がいるばっかりに……!!」


ヒーローが諦めてがっくりヒザをついたときだった。

管制塔に宇宙船から連絡が入った。


『こちら宇宙船。管制塔、応答せよ』


「こちら管制塔。どうされた?」



『こちら、シャトル1号。

 先ほど乗組員はすべてXX人だけとなった。オーバー』



連絡を聞くや、ヒーローは目の色を変えて飛び立った。



「ありがとう!! これで心おきなく助けられるよ!!」



ヒーローは隕石をやすやすと砕いて、宇宙船と乗務員の命を救った。

〇〇人を除いて。

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