第6話

 数日後、塾で美笛と顔を合わせた。


 僕はどんな顔で会ったらいいのかわからなかったけれど、美笛が授業の合間の時間に話しかけてきたので、僕はマジックでフツーと書かれたような表情をした。


「どう、受験勉強進んでる?」 


 そんなこと言われても僕はそれどころではなく、色々と詮索したくなる思いを、ぎゅっとてのひらで握りつぶして、


「うん、まあまあだね」そう答えた。

「そっかー、私もまあまあだね。それで今度、ゆっくり話したいことがあるんだけど」

「なに? ここじゃ言えないこと?」


 なんだろう、インスタのこと自分から打ち明けるつもりなのか?


「まあね。明日なんだけど予定は大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。予定があっても美笛優先だから」


「良かった」美笛は小首を傾げて、とてもうれしそうに笑った。僕の大好きなしぐさだ。


 塾の講師が入って来たので、

「じゃあまたLINEで連絡するね」と言って、数学のテキストを開いた。


 それを見て、僕も同じページを開いた。


 塾は夜の9時までなので、美笛はいつもお父さんが車で迎えに来て、帰って行く。


 僕はまだ美笛の家族に紹介されてないし、僕もうちの両親には美笛のことを話してない。


 両親に付き合ってる人がいるなんて恥ずかしくて教えたくない。モテないと思われるのも、それはそれで悔しいけど。


 僕はチャリで来ているので、チャリを漕いで急いで帰る。

 

 まだ10月の半ばなのに、北海道はこの時間になると肌寒い。ていうか寒い。本州ではまだ夏日の日があるとニュースでやっていたが、夏日なんてもう遥か昔のジュラ紀の出来事のようだ。


 もうすぐ雪虫と呼ばれる羽虫が現れた後、マンモスが寒さで次々に倒れていくような厳しい冬が訪れるだろう。

 

 僕はチャリを漕ぎながら、白い息を吐いた。

 手袋をしてくれば良かったと思った。手がかじかんでしまっている。


 僕が家に着くと、母が風呂に入っていたので、テーブルの上の食事を温めて食べた。母は風呂に入ると1時間半は出て来ない。父は夜勤でいなかった。


 僕が部屋に戻ると、莉緒からLINEが来ていた。今夜10時から新しい友達とインスタライブやるから見て。そう書いてあった。

 

 新しい友達って誰だろう? クラスの奴かな。でもそんな親しげにしてる奴なんていたかな。

 

 10時か。今夜は見ないとな。新しい友達も知りたいし。


 僕はスマホを開き、ライブが始まる時間ぴったりに画面上の莉緒のアイコンを押した。


 インスタライブは既に始まっていて、そこに莉緒ともう1人女子がいた。


 僕は最初、莉緒の親友の紗奈だと思った。でも紗奈は新しい友達ではない。


 よく見ると隣にいる子は違った。全然違った。

 

 莉緒の隣に居たのは、美笛だった。

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