第4話
美笛の家は駅近くを流れる川沿いに建つ高層マンションで、僕は美笛を送って行き、小首を傾げたしぐさでバイバイと小さく胸の辺りで手を振る美笛に、
僕もバイバイと美笛より大きく手を振った。そして歩いて家まで帰る。僕と美笛の家の方角は駅を挟んで西口に美笛の家はあり、東口に僕の家があった。
駅の東西通路を通り抜けて15分ほど歩くと昔からの住宅街にある小ぶりな二階屋が僕の家だった。
僕が家に着くと、珍しく父と母が揃って居た。
晩ご飯は1人で食べることが多い。
製鉄会社で働いている父は勤務時間が三交代で、夕勤や夜勤の時は顔を合わせない日もある。母は夕方からパートで弁当屋さんで働いていて忙しいと閉店の9時まで仕事をしていた。
そういう時のために僕の食事はパートに行く前にテーブルに用意されている。
リビングのテーブルについて、母の作った出来立ての手羽先の煮物などを食べていると父が、
「今日、莉緒ちゃんに勉強教えに行ったんだろ」と言った。
「うん」
「帰りが遅かったけど、はかどってるのか?」
美笛と逢っていたから遅くなったとは言えない。
「いや、やっぱりみんなについていけてない科目がいくつかあるよ。莉緒は休むことも多いし、検査入院も1週間あるし」
父は莉緒の両親の営む美容室で髪を切ってもらってるので、顔見知りだ。母は店舗が移転してからは近所のヘアサロンに通っている。
母が箸を止めて、「莉緒ちゃんのこともいいけど、自分の勉強もしないとね。受験生なんだし」と言った。
確かにそうだ。僕の志望校は学区内で1番ハイレベルな公立校だった。
「うん、わかってるよ。自分の勉強は別にやってるし、莉緒に教えてると復習になるから、自分のためにもなるんだよ」
「なら、いいけど」
僕は食事を終えると自分の部屋に戻った。
英語の課題をやろうと思ったけれど、なんとなく気が乗らなくてYouTubeをザッピングしていると、莉緒からLINEが来た。
LINEは開かずにスマホの待ち受け画像を見た。
そこに莉緒からのLINEの頭の1行だけ出て来る。既読が付かないから、スルーにはならない。
そこには9時からインスタライブ……とあった。それだけ読めばわかる。
僕はそれを無視して、ザッピングを続けた。
すると9時半頃、LINE通話がかかってきた。
一瞬、美笛かなと思ったけれど、画面に莉緒の文字が出ていた。無視しようと思ったが、後で文句を言われそうなので出た。
「亜土、LINE見なかった?」
「うん、風呂入ってたから」嘘をついた。
「そうなんだ。意外と長風呂」
「うん、いろんなとこ、じっくり洗うし」
「なんかその言い方、オヤジみたいでエロくてキモくてグロい」
「オヤジみたいでエロくてキモくてグロいって、ひどい言われようだな。いっそ変態と言われた方が気持ちいいわ」
「変態っ!」
「やっぱ気持ちよくないわ! 気分悪いわ!」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいんだけどさあ、今夜のインスタライブ、亜土にも観て欲しかったな」
「またK-POP流して踊ったんじゃないの? TikTokにあげてるみたいなやつ」
「すごい、よくわかるね。前のダンスを少し変えてみたんだ。エモい感じに」
「それなら観なくてもわかるよ、大体。みんな観に来た?」
「まあいつものメンバーが数人だね。あ、あと1人知らない子が観に来てた。saku_miteki2007って子」
「えっ」
「ん、どうしたの? 知ってる子?」
「いや、別に」
「変なの」
saku_miteki2007は、美笛のインスタのアカウントだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます