第2話 幼馴染との再開
「あ、ようやく来てくれたんだね。てっきり嫌われたのかと思っていたんだけどね」
退院し、明日から再び学校に通うとなったその夜だった。
お隣の家の窓から見知った顔がやってきた。
「……ごめん。ちょっと顔合わせるのが怖くてさ」
それは幼なじみの七瀬(ななせ)夕陽(ゆうひ)だった。
夕陽はうつむいたままそう言った。
「俺が……わたしが怖いと思うならともかく、お前が怖いと思うのはなんか違うんじゃないかな?」
「……もう。変わってなくて安心したわ。だけど……一人称、変えちゃったのね」
「この姿で俺とか言ってたら痛いでしょ?」
「それは確かに」
ここでちょっとだけ笑ってくれた。……よかった。
「それに、社会人になればどうせ私って言う羽目になるんだからね。今のうちに慣れておきたいだけだよ。予定がちょっと早まっただけ」
「それにしては、口調も柔らかくなっているみたいだけど?」
「どうしても譲れない所以外は柔軟に対応するよ。ただそれだけのこと。本質的には何も変わってないから安心して」
そう言って、確認も取らずに抱きしめた。
俺たちは一応恋人というわけではないが、共依存に近い関係にあった。
そういうことも、たまにしかけたことはある。
結局、邪魔が入ってできなかったけど。
だから、もしも自分に依存しなくなったとか考えたら怖かったのだろう。
それを、安心させる。
……ああ、いい匂いだ。いつもどおりのシャンプーの香り。
「……すぅ、はぁ。うん、いつもとは違う、ミルクみたいな甘い香りだけど、アンタの匂いはやっぱり安心する。……だいすき。はなれないで」
「離れるわけがないよ。たとえ好きな女の子とかが出来たとしても、やっぱりお前との関わりは断てないから。お前も同じだろう?」
「ううん……私はアンタ以外見えないから……そんな仮定すらできないわ。……アンタは私のこと、恋人としては見れないの?」
「見れるし、そうなりたいとも思う。でも、それ以上に……なんというか大切な存在だから?別枠として捉えちゃうんだ」
「んっ、やっぱりよくわからないわね。……移り気だからそれを正当化したいだけじゃないの?」
「まあ、そういうところもあるね。わたしは確実に一途ではないと思うから」
「……それとも、男にでも興味が湧いちゃった?今は女の子だもんね?」
重たーい嫉妬の感情をのせた一言だった。
しかし、そんなことはない。
「それはないない。男とは友情は築けても愛情は育めないよ。想像しただけで吐きそう。どんなに仲良くなったとしても、刎頸の交わりすら結べないと思う」
「ふんけいのまじわり……?なんかえっちなやつなの……?」
夕陽に思いっきり押し倒されて睨まれた。
いくら体の動かし方が下手になったと言っても、身体能力の差が凄まじいから逆に押し倒すことだって出来るけど、ドキドキするからこれでいい。
「そういうのじゃないよ。古代中国の故事だよ故事。互いのためならば首をはねられても構わない……って感じの友情だね」
「それ、おもいっきり重い関係なんだけど?その前段階まではいけるんだ?ふーん」
いかん、拗ねている。
この姿も可愛いけどなんとか機嫌を取らねば。
「いや、この例には有名なのが二つほどあるけど、片方は結局、不忠だの何だので殺し合う羽目になったから……その程度、その程度だから」
廉頗と藺相如の物語をその程度で済ませたくはないが、まあ仕方ない。
「……まあ、許してあげる。正直、女の子とアンタがくっつくだけでも許せないけど、男とくっつくよりはマシだから……女の子の恋人、後々のお嫁さんを作るくらいなら許してあげる」
ほっ、機嫌が治ったみたいだ。
しかし、押し倒されると凄くドキドキするもんだなぁ。
ここまではいったことないから、本当心臓がバクバクだ。
「そもそも、わたしみたいな男か女かすらよくわからないやつを恋人にしたいと思う女の子もいないだろうし、大丈夫だって。それに、自分以上に大切に思われている女の子がいる時点で嫌だよ普通は」
「でも、今のアンタ、死ぬほど可愛いからなぁ。なびく女の子もいるかも知れないわよ?許すといった以上、そうせざるを得ないけどさ。はぁ、なんでこんな尻軽ビッチに心底惹かれちゃったのかなぁ」
尻軽ビッチ……?そ、それは……合ってるのかもしれないけど、そんな不名誉なあだ名は嫌だ!
「それは流石に酷い。スマブラで勝った方の言い分を認めることにしよ?」
「アンタがスマブラが得意なのは知ってるわよ。ここは同程度の実力のスト2で勝負よ!」
「最新作じゃなくてスト2!?……仕方ないな。わたしのザンギエフでボコボコにしてやるからね」
「言ったわね?私の本田でボッコボコにしてあげるんだから!」
その後は今までの雰囲気がなかったかのように、ゲーム大会ということになった。
勝敗は……まあ、俺の負けですね、ハイ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます