第2話バイキング形式
「それにしても本当にマリスは変わってるエルフなんだな…」
マリスというのが先日こちらの世界で出会ったエルフの魔法使いのことである。
「
「まさか猿賀一族の一人息子が家業を放棄するなんてね…猿賀も終わりね」
「そう言うならハールンの一人娘がこっちに来ているのも問題だろ…」
マリス・ハールン。
エルフ長老の孫娘である。
何千年と続くエルフの中でもトップの大貴族。
その孫娘の彼女は責任を放棄してこちらに来ているのだ。
僕もそうだと言われれば…その通りなのだが…。
「でもさ…」
その様な言葉を前置きしてマリスは重苦しい表情を携えたまま口を開いていく。
「こっちの世界って…食べ物が…美味しすぎるんだよぉ〜!太っちまうよぉ〜!」
マリスは大貴族の孫娘とは思えない口調で嘆きの言葉を口にするとそのまま項垂れた。
「そうだな。本当に美味しい食事ばかりだ。特に和食は最高だ。もしも帰ることがあったのであれば…里の主食をこちらの和食にしようと思う」
「私はこちらの世界の農業をもっと学びたいと思ってるの」
「農業?確かにエルフは野菜が好きだったな…」
「そうだけど…そうじゃないの。私は野菜が嫌いなんだけど…こちらの世界のであればいくらでも食べられるから」
「そんなところもマリスは変わっているんだな」
「そうだね…昔は自分がエルフじゃないんじゃないかって思ったほどだよ」
「それはないだろ。あっちの世界の住人なら誰が見ても分かる。マリスはエルフだよ」
「そう…だね…。ありがとう」
「あぁ。それにしても…このサラダバーってやつは無くなるまで食べて良いものなのか?」
「良いんじゃない?だって食べ放題って書いてあるし」
「それにしても限度ってものがあるだろうよ…。店員さんが涙目でこっち見てるぞ」
「知らないわよ。私が食べたい分だけ取っただけだもの」
「そうかもしれんが…ほら見ろ。本日、野菜売り切れ御免。なんて張り紙張ってるぞ…」
「ふぅ〜ん。あんただって私のこと言えないんじゃないの?」
「何で?」
「ドリンクバーの飲み物…飲み干したじゃない」
「ん?あぁ。妖怪の忍者は体内構造が他の種族と異なるからな。口から飲み込んでいるんだが…体内の秘密の場所で貯水しているんだ。非常時に飲むようだな。ドリンクバーって給水所みたいなものだろ?」
「全然違うと思うけど?私は今食べているから良いにしても…あなたは貯水しているんでしょ?それって大丈夫なの?」
「何が?」
「犯罪じゃない?」
「妖怪の忍者に人間の法律が適用するか?」
「そんな言い訳こっちの世界の人に聞き入れてもらえるかしら?」
「ん?じゃあ会計して逃げるぞ」
「私も巻き込むの?」
「マリスだってサラダ食べ尽くしただろ…」
「そうだけど…」
「とりあえず会計だけ済ませるぞ」
そうして僕とマリスはドリンクバーとサラダバーを食べ尽くして会計に向かう。
店員の視線が痛かったがマリスは知らぬふりをしていた。
正規の料金を払うと僕らはレストランを後にするのであった。
「この後どうする?」
レストランを出るとマリスは僕に問いかける。
「会計の時。知らん顔したろ?その御蔭で僕が視線を集めることになったんだぞ」
「まぁ良いじゃない。それで何処行く?」
「なんか…知らん間に懐かれたな…」
僕らは次の目的地に向かうために街へと繰り出す。
その途中の路上でマジックショーをしている女性が目に入った。
「種も仕掛けもございません!これが本当のイリュージョンなんです!信じてください!」
だがマジックショーのお客は一人もいない。
僕もマリスも彼女を目の端に入れただけでスルーを決め込み街へと向かうのであった。
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