トンネルを抜けると――
雨宮 徹
トンネルを抜けると――
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
私は不規則な音と揺れで目が覚めた。私は列車の中にいた。いつもと同じだ。列車に乗るとすぐ眠ってしまう。特に今回みたいに座っているとなおさらだ。
ふと窓の外に目をやると、満開の桜がきれいに咲き誇っている。桜は儚い。だからこそ、満開時の美しさが際立つ。
でも個人的なことを言うと桜は好きだが、春は嫌いだ。花粉が飛び交うから。
そんなことを思っているうちに、トンネルが見えてきた。
トンネルは列車旅の醍醐味だ。トンネルを抜けた先にはどのような風景が待っているのかわくわくする。そんなことを考えていると車窓が真っ暗になった。
トンネルを抜けると、そこはビーチだった。燦燦と降り注ぐ陽光に照らされて海面がきれいに光っている。浜辺にはビーチパラソルが見える。海は好きだ。サーフィンで波に乗っているときの時間は格別だ。
でも個人的なことを言うと、殺人的な暑さは嫌いだ。
そんなことを思っていると、またもやトンネルが見えてきた。やけにトンネルが多い。
トンネルを抜けると、赤色が目に飛び込んでくる。正体は鮮やかな紅葉だった。紅葉は桜とは違う美しさがある。特に下から紅葉を見上げた時に、日差しで透けている感じが大好きだ。
個人的なことを言うと、一番好きな季節だ。暑くもなく寒くもない。
それにしても、やけに季節が早く変わるぞ。何かがおかしい。そんなことを考えていると、次のトンネルが見えてきた。
トンネルを抜けると雪国であった。あたり一面が雪で真っ白だ。木々は雪の重みに耐えきれず、しなっている。雪を見ると子供のころに友達とした雪合戦を思い出す。
個人的なことを言うと、夜は冷え冷えするからあまり好きじゃない。
そんなことはどうでもいい。トンネルを抜けるたびに季節が変わるのは異常だ。すでに春夏秋冬を一巡している。
またもや次のトンネルが見えてきた。
トンネルを抜けると春だった。そこかしこに桜が植えてある。しかも、桜の木の位置が前と一緒だ。いよいよもって疑問が確信に変わる。季節が次々と変わるのも異常だが、同じ場所を堂々巡りしている。
その時だった。列車が大きく揺れる、異常なくらいに。次の瞬間、列車が急停止する。恐らく地震だったに違いない。外の様子が気になり窓から見ると、そこには手が
見えた。列車を鷲掴みしている! 大きさからして、巨人だ。先ほどの地震は巨人が原因だったのか!
私は逃げようと思ったが、足が恐怖のあまり動かない。早く、早く逃げないと! 足よ動け!
次の瞬間、声が聞こえてきた。
「健斗、模型作りはそこまでにしなさい。夕食の時間よ」
「はーい」
<了>
トンネルを抜けると―― 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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