第9話


 鈴虫の鳴く音が聞こえてきそうな暗闇の中を歩く。

 そう言いたいところだが都会の喧騒と街を照らすネオンライトのせいで、秋を全く感じられない。

 夏が上がりきった気温を持ち帰り忘れた日のこと。

 俺は姫からのプレゼントのお返しで誕生日プレゼントを探しに、今日は渋谷を歩いていた。

 人がとにかく多く、すぐにしんどくなってカフェに並び、コーヒーを飲んで読書をし、回復を待って帰路に立ったところだ。

 うつ病も良くなってきたと思ったが、全然そんなことはなく人混みはしんどすぎた。

 ワンルームマンションの家に着き、真っ先にベッドに潜った。

 しばらくベッドで呆けて、スマホを取り出し女性にプレゼントするのに何が相応しいのか世間の意見を頼ろうとした。

 最初は街を歩いて、いいものがあればそれを買おうと思っていたが、やはり目星をある程度付けておかないと同じ事を繰り返しそうだ。

 

「コスメ、キャンドル、財布、香水、バッグか」

 

 コスメなどは俺は無知すぎるし、各々好みというものがあるのだろう。何もわからず手を出すのはリスクが高すぎる。

 キャンドルは絶対姫は使わない。それと財布、バッグもまた好みが大事になってくる。サイズからブランドまで言い出したらきりがなくなりそうだ。

 香水もまた、ブランドや身につける匂いの好みが出てくる。

 

「俺、姫の好み知らなすぎじゃねぇか?」


 普段からの会話で得ている情報は暑がり、そして寒がり。

 甘いもの、タバコ、そして多少の読書を嗜むくらいか。

 無難になりすぎるが、もこもこのレッグオーマーとかいいか。それとハンカチ、ケーキをお返しであげるとしよう。

 

「明日また買い物行くか」


 とりあえず今日は体を休める事を優先する。

 1人になるとどうしてもブルーになる事が多い。

 早く夜が明けないかなとか、寝たらもう目が覚めなければいいとか無駄にネガティブな思考になっていく。

 人生とは死ぬまでの暇つぶしと誰か偉人が言ってたな。誰だっけ。まあそれが本当なら、もう暇つぶししなくていいから終わらせたい。

 特にやりたい事も失ったし、生きると言う事をしていると嫌でもお金が発生する。その為に仕事をする。

 逆に捉えれば、生きると言う事を諦めれば、お金は発生しなくなり、仕事をする理由がなくなってくる。

 つまり働かなければ生きていけない。働かなければ死ねるのではないか。

 などと、簡単に死ねないのに、死ぬ勇気がないのに、こんな事を考える。

 みんなうつ病の人ってどうやって乗り越えているのだろう。

 きっと心の支えになってくれる人がいるのだろう。

 恋人、親、親友、友達。

 全て距離を自分からとってしまった俺はどうしたらいいのだろう。

 怖くて気持ちを他人に吐き出すことはできない。故に1人で全てを抱え込む。

 自分が全て悪いのはわかっているのに他人のせいにして楽になろうとしている自分もいる。

 助けてくれない。心からわかろうとしてくれない。

 過度な期待をしてしまった自分、距離を置いた自分、嫌な所を目立たせて友人を見てしまった自分、心の底を他人に見せれない自分。

 自分が変われば周りが変わる。一理あるのかもしれない。

 俺が心を開いて、話を聞いてもらって助けてもらう。

 みんながみんな助けてくれるわけじゃないだろうが、10人に打ち明けたとして、1人は助けてくれるのではないか。

 甘い考えだが、自分を変えることで1人でも助けてくれるならやはり、自分が変われば周りが変わると言うのはあっている。

 何度も同じことを思うがこんな過程の考えをしても意味はない。そんな簡単に変われるなら苦労しない。

 俺は何を欲していて、何を求めているのか。

 それすらもわからない。

 ただ今あるのは姫にお礼したいと言う気持ちだけで、かろうじてこの世にしがみついている。

 これが終わったらこの世に未練は残らなそうだ。

 

 

 

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