異具材【ル】

楠本恵士

異具材【ル】

第1話・都市伝説のラーメン店

 オレがそのラーメン店のコトを知ったのは、インターネット内での小さな囁き書き込みだった。

『一度食べたら最後、脳が虜になるヤバすぎるラーメンがある』


 投稿されたその情報では、店舗は普通の住宅を改装した店で看板もなく。

 いつ開店しているのかも不明らしい。

 それでいて、一度食べたら。その味に病みつきになるリピーターは多く。

 二度、三度と中毒性で足を運んでしまうらしい。

(いったい客は、どうやって開店を知るんだろう? 店のアプリとで知らせてくれるのだろうか?)

 店のホームページらしきモノも一切無く。アプリのようなモノもない。


 数少ない情報源から、わかったコトは。

 男性店主が一人で調理している店であるコト。

 店の名前は『マヨイガ麺【ル】』と、いう変わった店名であるコトだけだった。


 自称ラーメングルメレポーターのオレとしては、ぜひともその都市伝説のラーメンを食してみたくなった。

(とりあえずは、情報集めからだな……馴染みのラーメン屋を数軒回って聞いてみるか)


 オレは最初に、脱サラをして店を出した。初老の店主と、店主の親戚でアルバイトの女の子が一人いる。

 ラーメン店へとやって来た、客はオレを含めて数人いた。


 いつものように、注文をして運ばれてきたラーメンを食べながら。

 オレは厨房で自家製チャーシューを、切り分けている店主に話しかける。

「ここの店のラーメンは、いつも美味しいね」

 笑顔の店主。

「ありがとうございます」

 オレは、この店の雰囲気が好きだった。思いきってオレは都市伝説のラーメン店のコトについて聞いてみた。

「ところで、マヨイガ麺【ル】って、ラーメン店、知らないかな……探しているんだけれど?」

 バイトの女の子が、コップを床に落として割る音が響く。コップを床に落としてしまった女のコの蒼白した短い悲鳴。

「ひっ⁉」


 店内に広がる、ひんやりとした雰囲気。

 店主が怯えた表情で、片付けをしながらオレに言った。

「今日はもうスープが無くなったから閉店だ、今食べているラーメンの料金はいらないから……食べ終わったら店を出ていってくれ!」

「スープまだ、寸胴に残っているじゃないか?」

 初老の店主は、慌てて寸胴にフタをすると、準備中の表示を店外に出した。

 オレは釈然としないまま、ラーメンを食べ終わると店を出て別の店に向かった。


 その店は店主と、数人の若いバイトがやっているラーメン店だった。

 そこでもオレが、マヨイガ麺【ル】の店名を口にした途端。

 店内の空気は一変して、オレは店から追い出され。準備中の札が店のドアに掛けられた。


 他の店でもマヨイガ麺【ル】の店名を口にすると、同等の対応をされた。

(これは、ますます。都市伝説のラーメンを食べたくなったな)


 オレはラーメン愛好仲間の横の繋がりを利用して、なんとかマヨイガ麺【ル】の常連客と、公園で待ち合わせて会う約束を取りつけた。

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