ナンバーワンの秘密
ぽぽ
11月
「俺たち付き合いましょう」
私が頬を赤らめたその台詞の、次に彼の口から出た言葉が、「風俗って大丈夫?」だった。風俗って何?大丈夫って何?私の脳味噌は疑問符で埋め尽くされる。当時、まだ箱入りだった私には風俗というものがどういうものがわからなくて、その時彼に、「風俗ってキャバクラみたいに女の人とお話しするみたいなところ?」と問うたのは覚えている。それに対して彼はしばらく時間をおいてから「そんな感じ」と応えた。「それなら全然大丈夫だよ」と純粋無垢な笑顔を向けたことも覚えている。
あの後は、付き合って初日というこの日を愛でるように仲良く手を繋いでキスをして、お互いの家に帰った。
それから数日経った時、私の好奇心はあの時彼が発した「ぴんさろ」という言葉に向けられていて、Wikipediaで調べた。私は嘔吐した。
「ねえ、もしも私がピンサロ嬢だったらどうするの?」
これは怒りの言葉のつもりだった。「そんなの絶対に嫌だ、ごめん行かない」と言って欲しかった。しかし彼は「全力で指名する」と言った。
「先輩との付き合い」「来月末行く予定」という彼の言葉がはたまた私の脳味噌をめぐる。
彼が先輩と行く予定のお店を特定するのは何も難しいことではなかった。先輩とどこで飲み交わすのかも、どこで夜遊びするのかも、私がどんな気持ちでいるかなんて微塵も知らなかったであろう彼は、私に全てを洗いざらい話した。
来月というのは11月だった。いよいよ肌寒くなってきたこの頃に、私はピンサロ嬢デビューを果たした。
あの時、可愛く「やめて」とひとこと言えばよかっただけなのかもしれない。しかし私はムカついてしまったのだ。実際にお店で対峙した時の顔を見てやりたかった。それだけが原動力だった。
それなのに!
それなのに!!
あいつ、私を指名しなかった!!!
私のことを指名したのは先輩の方だった。先輩は見事に私の本名を当ててみせ、私の彼氏が一緒に来ていることを仄めかした。
「顔写真見せてもらってたからパネル見てすぐにわかったんだよね」
すぐ隣のブースから彼氏の名字を甘く呼ぶ女の子の声がする。
なにこれ!むかつく!むかつく!!むかつく!!!
「お時間です」と区切りがついた。
私は隣のブースへ急いで移動して全裸で仁王立ちして客を睨んだ。
「!!!……先輩が先に指名したから!!!」
「うるさい!もう別れる!!!」
「待って」
というところで私は次の指名客の元へ行く。
それから私、ずっとここのナンバーワン。
ナンバーワンの秘密 ぽぽ @inudesu
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