第40話 ゾンビの大群
「アァアアア! アァアアアア!!」
「くそ、なんでゾンビなんているんだ!? ゾンビ映画じゃねえんだから!!」
祓波は顔顰めながら叫ぶ。
なんでゾンビが新宿駅にいるんだ? しかも、あちこちにいるじゃないか。
ゾンビの恰好を察するに神者でもなんでもない……おそらく彼らはどこにでもいる一般人なのかも、しれない。レムレスでもない、ゾンビウィルスのサバイバルゲームなんてゲームの世界だけじゃないと、現実が訴えかけてくる。
「祓波君、大声を出さないで。でないとゾンビが襲い掛かってくる」
「え? で、でも……」
ゾンビたちがゆっくりとした足取りと、歩いている。
ここで、動かなくては上にいる一般人たちがゾンビ化してしまかもしれん。
俺は刀に八咫烏様の力である炎を刃に灯す。
「駆逐の時間だ――――逃げられると思うなよ」
ゾンビが主題となったゲームには、大抵火の火力さえあればゾンビは完全に動けなくなる……ここで、全てのゾンビどもを焼き払えば、新宿駅近くにいる処刑人たちも一般人も守れるだろう。
「ま、待てよ鋼陽」
「……なんだ? 祓波」
祓波は刀を構える俺に肩を掴んでくる。
「この人たち、本当は人間だからレムレスじゃないだろ? ……まさか、こ、殺す気か!?」
「では、上にいる一般人たちはどうするんだ?」
「落ち着いて、祓波君……ゾンビたちは普通の一般人の可能性だとは思われる。でも、ゾンビたちを拘束しても普通の人間に戻せるヒーラー役はこの場にはいない……ということは?」
夜部先輩が小声で祓波を諭す。
この場にいる大量のゾンビたちは神者とは到底思えない。ゾンビと言う存在自体、アンデットという認識でもここまで大量にいるはずもないのだ。
ん? 待て、よ。いるはずもない? ……なぜ、だ?
そもそもゾンビがなぜ、この新宿にいるんだ?
鋼陽は冷静に思考する中、祓波が質問する。
「……なら、夜部先輩。彼らを見捨てるんですか!? 俺たちは、処刑人です! 一般人を守るのが、処刑人の仕事でしょ!?」
「違うよ、論手司令官の指示を待ってできる限りゾンビたちに怪我を負わせなず戦うとするなら君が頼りだと言っているんだよ……祓波君」
「……俺、が?」
「君は陰陽師だろう? 影の拘束、この場にいる全員のゾンビたちにすることができるのなら彼ら全員を助けられる。その間、絶対に集中力を切っちゃだめだ……本当にできるのなら、の話だよ。そうでしょう? 論手司令官」
『……あー、本当に夜部はぺらっぺら俺の指示全部言っちまうなぁ、つまりはそういうこった!! 祓波、お前影の拘束時間は?』
「え、えっと……大勢であまりやったことがないので、考えられるとしても1、2時間程度かと……最大でも、3時間までしか無理かと」
『……短いな』
「いや、意外と長いでしょうよ!?」
ボソッと呟いた論手司令官の言葉は最もだ。
アヒナ・ビーガンと会った時も祓波は彼女だけの拘束はしていたが、対人はできないわけじゃないが、大勢となるとやや不安だから短く言ったのだろう。
「当たり前だろう、目の前にいるゾンビたちの人数を目視で確認しても10人程度ならば長いとはいえる……しかし、50人以上が徘徊しているんだぞ、ならばそれに対して、1、2時間で全員を拘束できるわけないだろうが。防御と会費をしながらと踏まえたのなら、論手司令官も短いと言う表現は間違ってもいない」
「あ、そ、そっか……」
『あー……賢い大型新人が俺の意図を汲んでくれんのは嬉しいけどよぉ、祓波、本当に最大で3時間までなら拘束ができんだな?』
「お、俺基本的に一人に対しての拘束しか、あまりやったことないですけど……集中してそこまで相手を拘束できたことがあるので……たぶん」
『たぶんかよ、はぁ……』
「す、すみません」
「なら、俺が補助をするよ。それなら問題ないでしょう? 論手司令官」
『なら早くイギリスにいるクラリッサ隊員を呼ぶから、お前らぜってぇ噛まれたりすんじゃねえぞ! ホントのゾンビ映画のゾンビになるからな!!』
「「「「「「はい!」」」」」」
論手司令官は一度通信を切ったのか、プツと音が鳴った。
よし、まずゾンビたちを拘束すら目の作戦を練らなくては。
「それで? どうするのリーダー」
国木田先輩が質問をし、夜部先輩は口元に人差し指を当てた。
「みんな、できる限り静かに……ゾンビは音で寄って来るよ。大声を出しすぎなければ、襲い掛かれることもない。ここにいる全員のゾンビは基本拘束できる言願の祓波君と俺ができるカバーする。先斬である鋼陽、剣城が俺たちを守って。癒手の国木田は鋼陽たちの基本優先で治療。盾守の猫本はゾンビたちの注意を引いてくれる?」
「OK、了解! ……で? 攻撃担当の二人の戦法はどうするの?」
「ゾンビは基本炎系の攻撃が効くとはいえ、駅構内だから酸素量に注意しないといけないね。ゾンビの一般人たちを新宿駅から出したら他の一般人たちに被害が及ぶ。冷静に対処しよう」
「それしかないわけだよねぇ……回復は任せてねぇ! みんなぁ、やっちゃってー」
「もう! 国木田ぁ、カッコつけられてないからそれぇ!!」
「鋼陽、剣城君。君たちが先斬として先陣を切ってくれるね?」
「はい! 頑張ります!」
「「「「「「……しー」」」」」」
「あ、っと……す、すみません」
剣城は口元に手を当てて、小声で言う。
周囲のゾンビたちが、ゆっくりとだがこっちにやってきている。
ゾンビだからと言って、走る個体はいるわけではなさそうだ。
……よし、任務開始だ。俺たちはまずできる範囲からゾンビたちに怪我を負わせないよう、戦闘を行うことなった。祓波に一通り、ゾンビを周辺に集めるように細心の注意を払って俺たちは武器を振るっていた。
「……数が、多いっ」
「でも、半分程度にまで落ち着いてきた、これならいけるかもしれないよ」
……なぜ、一般人のゾンビたちが封鎖された新宿駅に集まっているのかわからないが、それもおそらくアヒナ・ビーガンたちの策略か?
アンデットと化した目の前の一般人たちゾンビは何かしらの人体実験を受けていた……? いや、それなら夜部先輩が、論手司令官から彼岸花失踪事件の行方不明者たちの写真を目に通していたはず。
「夜部先輩、少しいいですか?」
「何?」
「……彼らが、行方不明者の可能性は?」
「いいや、俺の記憶では彼らは無関係の人間だよ。ゾンビ化していて白目をむいている人もいるけど、俺は記憶力には自信がある」
……なら、ここにいるゾンビたちは、行方不明者たちではないのか?
「……少なくとも、ここにいる人間全員が彼岸花失踪事件で失踪した人間たちではないとしても、なぜゾンビに?」
「……わからない。考えられるのはアヒナ・ビーガンたちがアンデットの神者の助力を借りたか、それとも何かの新薬を投与して一般人たちをゾンビに変えたのかもしれない」
アンデットの神者……吸血鬼の類は、血が関係するだろうからゾンビと直接的なつながりは低い。なら、グールやそういったものの類も……?
いや、グールの類に知性があったような記憶がない。
前者を考えたとしても、ゾンビを従わせるようなアンデットなんて……、
「誰かぁ!! 助け、ぎゃぁあああああああああああ!!」
「!! なんで一般人が!? はやく救助しなきゃ!!」
「待て、猫本!」
「私なら、大丈夫だから! 行ってくる!!」
「あんの、バカ……!!」
宙を浮きながら瞬間移動する猫本先輩に、苛つきを覚える国木田先輩を夜部先輩は声で呼び止める。
「待って、国木田。国木田は猫本の報告まで動かないで。君が俺たちの生命線なんだだから」
「……わかってるよ」
「鋼陽、剣城君……まだ体力はある?」
「まだ、全然動けます」
「同じく」
「……なんだか、嫌な予感がするな」
夜部先輩の言葉は吉出るか凶と出るか……それは、猫本先輩が戻ってくるまでわからない。
「国木田、国木田! いますぐこっち来て!」
走ってやってくる猫本先輩が、息を切らしながら走ってやってくる。
肘に手を付けて、息を整えてる猫本先輩に夜部先輩が声をかける。
「何? 要救助でもいたの?」
「そうなの! ヨルちゃんも来て! はやく助けてあげないと!」
「……本当に、子猫嬢なの? アンタ」
「国木田先輩?」
不審げに言う国木田先輩に疑問符を上げた。
国木田先輩が彼女を疑うなんて……どうしたのだろう。
ん? いや、待て? 浮いてもいないし、走ってやってきた、な。
瞬間移動もできる、あの猫本先輩が?
「え!? 何言ってるの? 私だよ、猫本ルナだよ! 何こんな緊急事態に変なこと言ってんの!?」
「本物の子猫嬢はそこまで馬鹿じゃねえよ――――アンタ、誰?」
猫本先輩はくすり、と愉快気に、そして不気味に微笑んだ。
「――――なーんだ。バレちゃったぁ。ざんねーん」
くすくす、くすくす。
笑う声は亡霊の囁きか。それとも、幻影の
人の姿をしていたはずの少女は、ゆっくりと黒い影に囚われる。
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