第31話 論手司令官からの説明

「まず、害威対策組織ライングリムはみんな各国どこのクソガキだろうと知っているだろうが、レムレスを討伐することを基準とされた各国の軍人的立ち位置にある組織の名称だ。そこは、お前らの認識と合ってるか?」

「はい」

「ライングリムは基本的に、レムレスへの問題対処が優先される。特にレムレス関連といえど、学生では七不思議とかでも知られる怪異とも言った神者たちから一般人の保護、これもないわけじゃない」


 ……それは、俺の中にある認識もそうだ。

 論手はとんとんと教鞭を自分の手のひらで数回叩いてから別の説明をする。


「他にはどんなことをするんですかー?」

「よし、子猫嬢。悪くない質問だ。採用しよう……ライングリムは軍人扱いと言ったが、他国の戦争で必ず駆り出されるわけじゃない。あくまで基本はレムレス駆逐組織、って認識っていうのが正しい立場なー」


 ……確かに、その点は気になっていたところではある。

 害威対策組織レムレスと名を打っているのだから、戦争に駆り出されることも普通にあるのかと、学生時代の一部の生徒たちも噂にはしていたことだからだ。


「処刑人にある前は、他の子たちとかみーんな噂してたけどねぇ」

「というか、そこの部分をブレると自衛隊が数十年前に日本から消えるだけじゃなく、元々存在してる他の軍人たちの存在価値もなくなっちまうしなー? そもそもレムレスを認識できるのは普通だが、神者をちゃんと認識できねえ奴もいる時点で、戦えるわけじゃねえ職員もいるんだから当然って話だ」

「……論手司令官、一つ質問が」

「はい、鋼陽君」

「彼岸花失踪事件のように、アヒナ・ビーガンなどの処刑人ではない人間の敵対組織の名称は、なんと呼んでいるんですか?」

「共通名称はライングリム設立時アメリカで結成されたから英語名を採用し、ストレイドックスってなってる。日本での通称は野良犬だ。ライングリムは死神が仕事を常に行うが、腹を空かせた野良犬はどんな奴だろうと噛みついてくるだろ? そういう感じだ」

「……そうですか」

「まぁ、ライングリムに反感を持つ組織も各国では潜んでいる。俺らは一般人がレムレスから守るためにも、処刑人が神話の神様や妖精の類の存在、神者から力を借りている者もいれば、その神者様と混じった人間を混者が混在している。統烏院の先輩にあたる、猫本みたいにな」

「え、えへへぇ、照れますなぁー」

「誉めてねえわアホ」

「ひどいっ!!」


 しゅーんと、猫耳をたらし落ち込む中、少しうつらうつらと首を傾げているのに、猫本先輩が眠たくなっているようだ。

 普通、この程度で眠たくなるか? ……猫又の混ぜ物だから、だろうか。

 体質とかも一般的な人と違うこともなくはないか。


「21世紀の時代には考えられなかったが、それが今の世界の現状だ……強い奴がライングリムに所属するようになれば、人々が危機的状況から打開できる確率もぐんと上がる。神者様が処刑人と縁を組むのはある意味、お互いを守るためにも一石二鳥の関係ってこった」

「うー! ねぇ論手司令官ー! それ、ぜーんぶ一般常識!! 学校の授業じゃないんだから私の前で言った時にスマートで省略してまとめてよー!!」

「処刑人になる新人に必要最低限の説明をするのは俺の義務なの! わかりなさい子猫っ!! つーか居眠りしない!!」


 だるそうにゴロゴロする黒猫先輩は、駄々をこねる子供に見える。


「うにゃー……だって、話が長いんだもーんっ、ふぁあああ……ねむーい」

「はやすぎでしょ、子猫嬢」

「らってー……ぽかぽかするからぁ、んー……もう寝るー」

「あーもう、だからこの人選無しって局長に言ったのに……統烏院君はまだ大丈夫?」

「はい」


 うとうとと、テーブルの上で寝てしまった猫本先輩に頭を抱えて国木田先輩。

 剽軽な印象だったが、意外と彼は苦労人のようだ。


「ライングリムは世界的にも正式な組織として認知されているが、数十年前までは精神異常だのと分類された時期もある。だが、こうして神者たちが存在の認識が高まってきているおかげで問題も解決しつつある。以前より、一般人の目に彼らは認識されやすくなったのも事実だ。まあ、さっきも言ったように例外でまったく見えないって奴もいないわけじゃねえ」


 呼猫も、おそらく聆月を見えていた当たり処刑人としての才能がないわけじゃない、とは思う……だが、論手司令官の言葉も一理あるのも事実。

 下手に、見えない人間に強要するのもまた違うからな。


「……んで、統烏院。ここまでは一般的な処刑人に対する説明だったわけだが、お前は聆月様の戦番の契りを交わしたというらしいのは、ある意味俺らの中ではトップニュース扱いではある」

「……そんなにですか?」

「んにゃっ、……そ、そうだよー!! 日本人の鋼陽君とは一切、縁がないもん! 不思議に思う人の方が多いってば!!」

「……それは、反論しがたいですね」


 寝ぼけているが猫本先輩の言い分は最もだ。

 だが、前世のことを口にしてもいいことか、迷ってしまう。


「前世、で戦番の仮契約をしていた場合は立証されてる。お前にも教えただろうが子猫ー!」

「え!? 二人は、そんなロマンス的なバディなの!?」


 ……意外と、簡単に気づかれるものなんだな。


「そうじゃなきゃ、あの気難しい聆月様がただの日本人大学生の戦番になる理由がないでしょー常識的に考えて」

「え!? そうなの!?」


 考えてなかった、うん。聆月悪い。

 心の中で謝罪すると聆月は乾いた笑いを零した。


『別に元々バレてしまうことは予見していたさ。気にするな』

『……悪い』

「どうなの!? どうなの鋼陽君! 聆月様と運命的な出会いとか、したの!?」

「……黙秘します」

「えー!? 教えてよー!! 誰にも言わないから―!!」


 キラキラとした目で、黒本先輩は袖を引っ張ってくる。

 長い袖から覗く指の先だけないグローブを付けた手で潤んだ目で見上げてくる。

 ……その目には屈さないぞ俺は。


「こら、やめなさい」

「あいたっ、もう論手司令官! 女の子の頭を叩くってどういう了見!?」

「痛くないように軽くしただけだろうがー! その程度で頭は壊れんわ!! プライベートな会話は仕事場じゃないところで話せや!!」

「だってぇ!!」


 軽く論手司令官は黒本先輩の頭にチョップを繰り出す。

 黒本先輩は頭を抑え抗議する。


「お口チャーック、シャラッープ!」

「むー……っ!! わかったよぉ」


 論手司令官に反論され、先輩は黙り込むと椅子に座り直した。


「……んで、聆月様のことはおいておいて。彼岸花失踪事件は後日任務として改めて説明を開始する。寝ないでちゃーんと聞けよ?」

「わかりました」


 ……その後、論手司令官の説明は続いた。

 論手司令官の言った内容を上げていくとこうだ。

 ライングリムでは仕事の頑張りに応じて、ボーナスや昇給がある。

 どんな仕事でも、努力をしない処刑人はクビになるのは一般企業と変わらない。

 役職名に関しては、別の担当の処刑人が俺に説明するということ。

 どこの所属になるかは、俺次第、と言うのも含めて。


「……で、話は終わりだ。お疲れ様」

「……ふう」


 息を吐いて、長い長い息苦しい説明を全て聞き切った。

 社会人になったら、こうやって説明の一つ一つをきちんと聞いておかなくてはいけなくなるのかと思うと、大変なものだ。


「んじゃ、子猫嬢。タク。他の施設の案内頼んだぞー俺は仕事に戻る」

「はーいにゃんっ」

「んじゃ、鋼陽君。行こうかー」

「……はい」


 国木田先輩から、気が付けば名前で呼んでいることにはあえてスルーしながらも俺たちは立ち上がって、二人に案内される形で会議室を出た。

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