第32話 カラオケ
「さあここだよ!」
と、奈由香は笑顔とは言い切れないくらいの、少し明るめな表情で言った。思うに、少し無理をしてるんだろう。本当は心身が辛いはずなのに。
もしかして俺が勢いで告白してしまったからかと思い、少しだけ申し訳ない気持ちになる。そしてそんな俺は、その原因が下村さんの告白だったらいいなと思ってしまう。
そして上を見ると、カラオケ屋さんの看板があった。つまり、奈由香の行きたい場所とはカラオケだったという訳か。
「やっぱり辛い気持ちを吹き飛ばすにはカラオケしかないと思ってね」
「…………そうですね!」
「何よ。今の間は」
「いや、奈由香なりに考えてるんだなって」
「それだと私が何も考えてないみたいじゃない。私は常に何かしら考えてるわよ」
まあ奈由香の成績俺より遥かに上だし、奈由香が考えてる事は知ってる。
「じゃあ入りましょう」
「はい!」
と、カラオケに入る。前回は四人だったが、今回は二人……麗華すらいないまさに正真正銘の二人きりのカラオケだ。正直言って申し訳ないが興奮している。実質デートのようかとのなのだ。状況が状況だけど。
「じゃあ先に選んで良いわよ」
「なんですか、その上から目線は」
「私傷ついてるから」
「それを言われたら、強く言えませんね」
そして、曲を選ぶ。
とはいえ、こういう時って何を選べば良いんだろう。今回は傷心旅行ではないが、奈由香の傷ついた心を癒すためのカラオケだ。奈由香のための歌を歌うべきなのか?
まあ、どうしようか。
「ねえ。早く決めてよ」
まあ、確かに傷心の奈由香を待たせるわけには行かない。早く選ばなければ。
「よし! これにしよう」
と、決めたのは、アニソンだ。それも奈由香が知っている。それはそう、前回見た花火のアニメだ。これのアニソン良いなと思って実は軽く聞いていたのだ。これならば、奈由香も楽しめるであろうし、俺も楽しめる。
あ、でも待てよ。恋愛と言う部分が入っている。もしこれが奈由香の下村さんの独占欲によって傷ついた心を刺激してしまったらどうしよう。まあ決めてしまったものはしょうがない。それに奈由香も、こういうケースは考え済みだろう。
「歌います!!!」
と、曲の前奏に合わせて体を揺らす。楽しい。
そして、曲が始まった。
「君と仲直りがしたくて待ち続けて2週間。君の注意を惹きたくて後悔した日々もあった。でも今はすまないと思っている。君に愛されたくて、君にこかれてほしくて君を愛した日々。愛がほしくて、君を守りたくて、そのすべてを求めた日々、その全てを愛に変えた日々。君に愛して欲しくて、ただ君を求めてる」
やはりいい曲だ。あの日スマホにダウンロードしといて良かった!
そして奈由香の顔を見る。すると、ノリノリになっていた。良かった。俺の選択を間違ってはいなかったようだ。そして二番も歌っていく。
「良いよ! 雄太!」
そんな中奈由香がそう言った。
そんなことを言われたら、男として嬉しくないわけがない。どんどんと歌うのが楽しくなっていく。最高の気持ちだ。
ただ最高の気分なのはずるい気がする。奈由香が楽しい気持ちを取り戻そうと頑張っているのに、俺はただの奈由香の合いの手? で幸せになっていく。
俺はこんな簡単に幸せな気持ちになって良いのか? そんなことを考えながら歌っていく。
そして、最後ついに歌い終わった。
「流石雄太。私も少しだけ元気が出た」
「本当ですか? そんなうれしい言葉はないです」
「ねえ雄太。こういってみて? 本当っすか? そんなうれしい言葉はないっすねって」
「俺を量産型陽キャみたいにしないでくださいよ」
「えー、雄太の敬語キャラを卒業させるのにいいと思ったんだけどなあ」
そう言って奈由香は笑った。
「じゃあ次私歌うね。こういう時だから変な歌うたっちゃうかも」
「別にいいで……いいっすよ?」
なんとか奈由香の要求に応えようとする。しかし、本当恥ずかしい。どうしよう。
「あはは、慣れてなくてかわいい」
「かわいい?」
まさかそう言われるとは……まあ、奈由香の気分が良くなるんだったらいいけど。
「うん。まあっすよキャラは似合ってはないけどね」
「まあそうだけど」
「あれ、敬語じゃない」
「そりゃあ奈由香の命令は絶対だから」
言いにくい敬語じゃない言葉……標準語? をしゃべりながら言った。
「ふふ。なによそれ」
そんな会話をしながら奈由香は曲を選んでいる。俺としては何の曲を選んでもらってもいいところなんだけど。
「じゃあ行くよ!」
彼女が選んだ曲は……
「みんなー歌いますよー! 元気で行こうよ。そんなこと。悩む必要なんてないよ、元気に遊べばノー問題。巣t5おレス解消なんて簡単なの、そう、遊べばいいの。そしたら出来るよ絶対、どんな難問もね」
そして奈由香は俺の方に目をウインクしてきた。それに対してどうすればいいのかわからず、そのまま返す。
しかし、奈由香楽しそうだな。まあこれ奈由香のイメージを損なう可能性もあるな。まあ俺はそんな奈由香も好きなんだけど。
「さあ、歌いましょうよ。つらいときは。歌えば何とかなるって絶対! この歌を届けて、皆を笑顔にさせる。それが私の夢なの!! 歌う事って最高! この世の悪を倒してくれるよね。悪をうち、楽しさを生み出す。こんな幸せなことってないよね」
そして奈由香は歌い終わった。意外に短いなこの曲。とはいえ、聞いてるこちらも楽しかった、
「どうだった?」
「楽しかった!!!」
ノータイムでそう返した。こちらからいってもいいくらいのことだ。
「私、この曲人前で歌うの初めてだからさあ……喜んでもらえてよかった。
奈由香はそう言ってこちらを見て笑って見せた。そんなの……喜ぶに決まっている。奈由香好きにとっていろいろな奈由香の一面を見れるのは。うん。
「俺は……今最高の気分です。奈由香の楽しそうに歌っている姿を見られて本当に楽しいしうれしいです。だってさっきまでの奈由香は悲しそうで、もう……見ていられませんでした」
「ありがとう……でも、今ももちろん気分は沈んでるよ。友達の裏切りはそう簡単に振りきれない。でも、さっきの曲にもあったでしょ。楽しめばつらい気持ちは飛ぶって思っているから、今楽しんでるの」
「じゃあ、二人で歌える曲歌いませんか?」
「いいね! それ」
と、二人で曲を選び始める。
「私、アニソンとかもいいけど、今回はバンドの極致じゃそう言うやつ歌いたい」
「じゃあこれとか?」
それは人気歌手同士の夢の共演として出され、そのまま人気になった曲だ。
「いいね!」
そしてデュエットをした。デュエットをして、して、して一〇曲程度唄った。そして満足した俺たちは退出時間までまだ一〇分あったが、満足してカラオケを後にした。
「奈由香、気分晴れました?」
「晴れてなかったらまだカラオケにいるわよ」
「そうだったな」
「最近雄太、結構敬語抜けてない? まだたまにあるけど」
「そうかなあ」
「そうだよ。本当良かった。私も友達だって認められたんだなって」
「緊張してただけだって」
友達として……俺告白したんだけどなあ。もしかして俺、サイレントで断られた? え? いや、まだ希望はあるはずだ。
「俺は、ただの友達なんですか?」
「今それやめて!! あのこと思い出しちゃう!!」
「ごめん」
「あわてなくても返事はすぐに返すよ」
「ああ」
そしてその場は解散となった。
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