第19話 下村さんの来襲2
「有村くん」
「なんでしょうか」
翌日下村さんが教室に来て俺の名前を呼んだ。
怖いな。また何か言われるんじゃないだろうか。というかここ最近こういう事が多い、そろそろ本当にやめてほしい。
「昨日奈由香の家に行ったらしいね」
「はい、そうですけど」
テストの合格発表前のような緊張感がする。怖すぎる。本当何を言われるんだ。
「私の奈由香を取らないでよ。最近あなたのせいで構ってくれないの。本当どうしてくれるの? 私が女だから行けないの? あなたが男子だから奈由香と遊べるの? それとも待ったら来てくれるの? ねえ教えてよ! なんで私の奈由香がぼっと出のあなたに取られるの? 私と奈由香の友情はどうなるの? 私はどうしたらいいの? ねえ教えてよ!」
「俺には……なんとも言えません」
そう返す。そう返すしかない。焦っているのだろう。俺というライバルが出てきて。
「私はあなたの知らない奈由香を知ってる。勝った気にならないで」
「別になっていませんけど」
「そういうの良いから! 私は負けないわ」
そう言って下村さんは去っていった。
「また決意表明された……」
決意表明されても意味がない気がする。それに、俺を告白させようとしているのか?
「あ、そうだ!」
下村さんはまだ去っていなかったらしくまた話しかけてくる。
「あなた、今度勝負しない? 負けた方が接近禁止って言う感じで」
「嫌だ」
「ここは受けるとこでしょ。てか受けなさい」
「嫌です」
そう言ってその場から去った。「待ちなさい」という声が聞こえたが、無視をすることにした。
俺には彼女が可哀想な人間に見えるし、俺にとって大した人間では無い。ただ怯えているように見える。
奈由香と友達になる前まではこんなこと思っていなかったはずだ。それがなぜだろうか今はこんなに俯瞰して見えてる。そんなことを考えたら、ぼっちであることで余裕がなかったのだろうか。
「奈由香!」
教室に行ったらすでに下村さんが抱き着いていた。前までこんな堂々としたハグはしてなかったので、おそらく俺に感化されたのであろう。てか休み時間後二分なんだけど大丈夫か?
「もう絵里ったら」
奈由香もまんざらではないようだ。俺も抱き着きに行きたい。この瞬間だけ女になりたいと思ってしまう。
「奈由香」
と、話しかけてみる。このまま見ているのは癪だ。
「なに?」
「呼んでみただけです」
奈由香の興味を下村さんから俺に移すためだけだ。
「もう! 雄太君も抱っこしてほしいの?」
「俺は男ですよ!」
とは言いつつ抱っこはしてほしいけど。
「もう、遠慮しなくていいのに」
「遠慮しますよ。それは」
學校だからな。さすがに周りの目が怖すぎる。
「お前」
前田君が話しかけてきた。
「俺にその立場変わってくれよ」
そうだったもう前田君は告白自体をしてるから、もう好きって公言してもいいのか。
「嫌だよ」
「ケチだな」
しかし、よく俺に話しかけてくるよな。前殴りかけた相手なのに。
「俺にもワンチャンあると思う?」
「昨日の感じからしたら無いと思いますね」
「やっぱりか……」
と、前田君は再び考え始める。
「いらっしゃい」
と、今日も言われた。
「お母さん、今日も雄太と小説読むから」
「分かったわ」
昨日はいなかった奈由香のお母さんがはいはいと言う感じで了承し、自分の部屋らしき部屋に篭る。
「じゃあ早速だけど、読めた? 学校では聞くの忘れてたけど」
「まだ半分ぐらいだな」
正確に言えば四割なんだけどな。
「私に呼びかける暇があったら読んどきなさいよ」
「学校では無理ですって。まだそう言うの嘲笑の対象なんですよ」
真面目な戦前戦後らへんの小説なら行けるのだろう、だが、あれは無理だ。学校では読んではならない。
「でも学校で読んだら流行るかもしれないよ」
「でも奈由香だって読んでいなかったじゃないですか」
「ばれた?」
「バレバレです」
「そうなんだよね、私も学校で読むなんて勇気はないね」
「やっぱりか」
オタクと言う言葉がようやく浸透してきて、オタクの人権が生まれたくらいだからな。まだ、学校ではきつい。
「というわけで第二回読書会開始!」
「いえー!」
「というわけで読みましょうか。紅茶でも飲みながら」
「そうだな」
そして今日も少しずつ読んでいく。小説を。だが、なかなか読み進められない。
「もしかして苦戦してる?」
俺の顔を見て察したようだ。
「とは言いたくないところだけどな」
本当はすらすらと読みたい。だけど、それを許さないのが俺のくせだ。だって他のこともしたいのだ。漫画を読んだりとか。だからこの小説を読む時間で何かできると思ってしまっている自分のことが情けなく思えてしまう。
「仕方ないね、それは。じゃあやる気が出るように応援するか」
と、奈由香は席を立ち……
「フレフレ雄太! がんばれ頑張れ雄太!」
応援し始めた。
「気持ちはありがたいですけど、逆に集中できませんって」
「えーそう言うもん?」
「そう言うもんです!」
そしてまた本を持ち読み始める。きつい戦いだが、なんとか頑張ろう。
あれから少し時間が経った。結構読めてる気がする。さっきはきつかったが、奈由香の応援の効果があったのか、読むスピードが速くなっている。良いことであろう。
「お、調子いいねえ」
その様子に気がついた奈由香が俺に話しかける。
「まあね。応援のおかげだ」
調子に乗ったら簡単に読める。先程までと違って読むペースがダントツに速いし、疲れない。スマホを触りたいという雑念はあるのだが、それでも俺にしては読めているのだろう。
「奈由香」
「なに?」
「アニメも見たくなってくるな」
「そうね。私もそんな経験したことある」
「奈由香もですか?」
「ええ」
実際この追加情報を踏まえてアニメを観たくなってくる。もう一周は観ているのだが、二周目も観たい。
「じゃあ一巻読み終わったらアニメ見る?」
「え?」
と、時計を見る。時間が足りるのだろうか。
「大丈夫よ、いざとなればここでご飯食べたら良いじゃない」
「さすがにご飯はお世話になれませんって!」
「そう……」
それこそもう付き合っている男女がすることだ。知らないけど。てか、奈由香との距離を縮めるにはご飯をお世話になった方がいいのか?
そう思ったらさっきの言葉を後悔してしまう。もっと考えて言えばよかった。
「まあでもご褒美にはなるでしょ」
「まあそうだな」
「ええ、じゃあさっさと読んでよ!」
「おう!」
そして五時半現在、一巻読み終わった!
「じゃあアニメね」
「はい!」
そしてアニメが流れる。小説を読んでからアニメを観ると今までとは違う感覚になった。小説に書かれていた文字が頭の中で軽く流れる。もう知ってるはずなのに知らないところがあるし、新たな発見もある。もしかしたらただアニメを見るよりも面白いかもしれない。
そして一話が終わった。
「なんかいつもと違うかったです」
すぐさま感想を言う。
「これが二番目の楽しみなのよ。小説を読んだ後のね」
「分かる。小説の内容とアニメの内容が若干違うところがあるから面白いです」
また敬語になってしまった。反省しよう。
「やっぱり分かるかー。残念ながら麗華とか絵里とかには分かって貰えないのよ」
「それはどんまい」
「でも今の私には雄太がいるから。もう友達じゃなくて親友と言ってもいいわ!」
「昇格ですか?」
「うん! 昇格!」
と言って奈由香は笑顔になる。もう一段ランクアップして彼氏にして欲しい所だが、さすがに高望みしすぎか。だけどもう望まない方がいいのかもしれない。奈由香の笑顔、趣味を共有出来るのは俺含めて数人しかいないのだから。
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