第17話 奈由香とクレーンゲーム
「おはよう」
と、教室に入るとすぐに奈由香と麗華に挨拶をする。この前までは挨拶をせずに黙ってクラスに入るだけだったのに、おはようと言える相手が二人もいるとは嬉しいことだ。
「おはよう、雄太!」
と、奈由香が返事をする。
「おはよう」
と、奈由香の隣に座っていた麗華も返事をした。
「そういえば昨日は二人で何をしてたの? 麗華に聞いても何も言ってくれなくて」
奈由香が純粋な顔で聞く。まさか奈由香にする予定の告白の練習をしていたなんて言えるはずがない。だからこそ麗華も何も言ってないのだろう。
「ああそれは二人で遊んでたんだよ」
と、咄嗟に言い訳をする。
「ほんとう? じゃあおとといのあれって」
「そういう事」
麗華が言った。
「じゃあ私も誘ってくれたらいいじゃない」
「それは出来ないのよ。秘密の遊びだからね」
「まさか、男女の遊び?」
「想像力豊かね。違うわよ」
そんな話をしている時に……
「ちょっといいか?」
と、前田くんに声をかけられた。
「なんですか?」
怖い、あの日以来だな。もしかして何か言われるんじゃなかろうか。行きたく無いな。もう帰りたい。
「ちょっと廊下に出てもらえないか?」
「ああ、いいですけど」
いや、良くない。何をされるのかわからない。最悪そのまま拉致されてなんかガムテープで縛られて海に沈められそう。と、これは偏見が過ぎるか。だが、恨みに思われてそうだからな。
「ちょっと恋の相談なんだけど」
「え?」
てことは前回通り奈由香のことか? もう時間よ止まれ。
「俺はやっぱり霜月さんのことが好きだ」
「また俺を脅すんですか?」
ビビりながらも言った。
「いや、そんなつもりはない。前のことは悪かったと思うし。ただ、決意表明だ。俺が取っても恨むなよ」
と、そう言って去ってしまった。なるほどこれは少し焦らないといけないのかも知れないな。
「あ、おかえり!」
と、帰ってきた瞬間、奈由香に話しかけられた。
「ただいま」
「何話してたの? まさかまた酷いことされたとか言わないよね」
「言わないよ」
「それは良かった」
本当のことを言ったら奈由香のことを好きって言う話だが、そんなこと言えるわけがない。
「霜月さん!」
前田くんがきた。有言実行、早すぎるだろ。せめて俺がいないところでやってくれ。
「この間は有村くんに変なことをしてごめんなさい」
「それだけ? 私は別に雄太に謝ってくれたからその話は済んでいるんだけど」
「俺はやっぱりあなたのことが好きです。今は有村くんより百倍負けてるのは認めます。でも、俺は諦めません。あなたが俺を好きになるその日まで」
「大丈夫! 私があなたのことを好きになることなんてないから」
奈由香さん、容赦なさ過ぎ……こうなってしまったら少しだけ前田くんのことを可哀想だと思ってしまう。
「いえ、俺は諦めません!」
「そう、まあ頑張ってね」
と、奈由香は棒読みで言う。これはもうオーバーキルだろ。
実際前田くんは暗い顔で帰って行った。もう可哀想すぎるだろこれ。
「あ、雄太。時間とってごめんね」
「あ、ああ」
奈由香さん恐るべし。鬼だな。
「雄太、今日も一緒に遊ぼう!」
「ああ、いいぞ」
「私も混ぜて!」
と、麗華も会話の中に入ってくる。
「やだ! 昨日二人だったんでしょ。嫉妬するわよ」
「だったら絵里と一緒に行こっかな」
「良いよ!」
奈由香は下村さんが奈由香のことを好きなことはやはり知らないみたいだ。ということはやはりこちらが優勢か……。
「今日は何をしますか?」
「雄太、タメ口」
「あ、そうか」
またやってしまっていた。
「で、何して遊ぶ?」
「そうね、またゲームというのはゲーム自体飽きたし、なんか面白い遊びはないかな?」
「面白い遊び?」
そんなことを言われても困るのは困る。気の利いた面白い遊びを提案できる気がしない。
「うん! なにかある?」
「ゲーム以外でしょ……」
やばい、そんなこと考えられるほど人生経験ないぞ。
「思いつかないんだったら昨日麗華とやってたことを教えてよ」
だからそれを聞かれたら困るんですって。まさか本人相手に告白練習するわけにもいかないし。
「なら……」
考えろ、考えるんだ。
「ゲームセンターとか?」
必死に考えて得た答えがこれだ。俺も正直行きたいのかは分からない。まあ奈由香と一緒だったらどこでも楽しいだろうけど。
「オッケー! なら行きましょう! 今すぐ!」
というわけでゲームセンターに行くことになった。よく考えたら提案した身で言うことじゃないかもしれないけど、ゲームとゲームセンターも被ってる気がする。
「さてと、今思ったけどゲーセンって家でゲームするのと似てない? カーレースとかあるし」
奈由香も気づいたようだ。よし! 言い訳しよう。
「違うゲームもあるじゃん、メダルゲームとか、太鼓の名人とか、クレーンゲームとか」
「まあそうだね」
「というわけで俺がやりたいのはメダルゲームです!」
やりたかったのは事実だ、数ヶ月行ってなかったし、そもそも奈由香と一緒に行ったらすごく楽しそうだし。
「なるほど」
「何がなるほど何ですか」
「だってメダルゲーム面白そうだし」
そしてメダル購入期の前に着いた。
「お金は五百円は各々で出すのでいい?」
「はい!」
そしてメダルをバケツに入れて、機械の前に行く。
「さてと、準備はいい?」
「うん!」
奈由香は元気よく返事をし、俺たちは最初のメダルを入れる。
「いけー!」
その奈由香の声に合わせてメダルが落ちる。
「あ、メダルの上に落ちた」
「それって駄目なんだよね」
「うん、まあそんな差はないと思うけど」
ただ若干落ちにくくなるだけだ。まあそんな差は無いだろうけど。
「そっか」
そして二枚目を投入する。
「行けー!」
そのメダルな当たって二枚落ちた。
「見て雄太、二枚落ちたよ」
「分かってますって」
興奮しすぎですって! まあそんな奈由香も可愛いけど。
「ルーレットも回ってるよ」
「見てますよ」
「あ、外れた」
「もしかして初めてだったりする?」
「うん、初めて。てかそんな感じに見えた?」
「うん。いちいち見てたから」
「え? いちいち見てたらダメなの?」
いや、そう言うわけでは無いけどな。
「だってこんなにもメダルあるし、いちいち見てたら一生終わらないし」
とりあえずそれっぽいこと言っておく。
「そっか、じゃあ入れまくるね!」
と、奈由香はどんどん入れていく。
「俺が入れるの待ってくださいよ!」
「なんで、どんどん入れてって言うから」
「限度があるだろ」
そう言いながら俺も奈由香が入れるスピードに合わせてどんどんと入れていく。
「あれ、当たった?」
「当たったな」
「やった!」
そしてメダルが何枚も流れてくる。
「うわああ、気持ちいい」
「これがメダルゲームの持ち味なんですよ」
「何先輩ずらしてんの」
「いいじゃないですか。てか次入れましょ」
そしてどんどん入れていく。喜びながら、叫びながら、そしてとうとう……
「ジャックポットチャンス来た!」
奈由香は喜びながら俺の手を取る。
「どれが来るかな?」
お馴染みの、ボールがどこに入るかどうかの演出が始まる。奈由香は見るからにワクワクしている。
「楽しみだね! 雄太」
「ああ」
奈由香の手やっぱり暖かい。
「あ、入る? 入る?」
奈由香が興奮していう。
「入った! え?」
ジャックポッドの隣の五百メダルに入った。残念ながら一番少ないところだ。
「なんでよ」
「どんまい」
ととりあえず慰める。
「あ、でもメダルがいっぱい出てくる! 気持ちいい」
「良かったな」
「楽しいわね、これ。癖になりそう」
「そりゃあそうですよ。こういうゲームなんて人を夢中にさせるためのやつだし」
スマホゲームほどでは無いだろうけど。
「そう」
そしてメダルを全部使って……。
「今度はこれやりたい!」
奈由香がやりたいと言ったそれはクレーンゲームだった。
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