第16話 告白練習

「ねえ練習しない?」


 放課後にこそっと周りに聞こえない程度の声で、麗華が言ってきた。


「何を?」

「告白の」


 そう言う練習か。そう言えば一昨日言っていたな、応援するって。


「というわけで奈由香、雄太もらってくね」


 と、今度は大声で奈由香に聴こえるように麗華が言った。


「え? なんで?」

「二人きりでしなきゃならないことがあるから」

「わかった」


 奈由香はすんなりと引き下がったようだ。俺だったら理由聞くけど、そこら辺奈由香はルーズなのかもな。


「さてと、練習だけど。私も誰かと付き合ったことがないからあんまり助けにならないかもしれないけど……」


 麗華はそう前置きをして……。


「私に告白してみて!」

「は?」


 と言ってきた。告白してみてと言われましても。


「練習よ練習。物は試し。やってみて」


 やってみてと言われても……俺にはその勇気も無いし。


「ねえなんで私を呼び出したの?」


 そんな事を考えていると、もう麗華が役に入っている。もうとにかくわからんけど頑張らなくちゃ。


「れ、れ」

「ちょっとストップ。私は今から奈由香よ。練習から真面目にやらないと!」

「でももし誰かにこの現場を見られたらどうするんですか?」


 よく考えたらここ安全じゃないよね。廊下だし。


「確かにそうね、勘違いされる可能性があるわね……」


 麗華は考えるそぶりを見せる。適した場所はないか考えてるのだろう。


「じゃあ雄太私の家に来なよ!」

「え!?」

「練習だもん、ほかにいい場所ないからいいでしょ」

「わかりましたよ」


 どうやら人生二度目の女子の家に行くことが決定したらしい。まさかこの短期間で二人の家に行くことになるとは。


「お母さんただいま!」

「ただいまってその子は?」

「ああ友達、告白の練習をするの!」

「え? どういうこと?」


 麗華のお母さんは動揺しているようだ。それも無理もない。普通こんなことを言われたらそんな反応は普通だろう。


「雄太が奈由香のことを好きなの。でも告白する勇気がないって言うし、なら練習しようってわけ」

「わかったわ。楽しんできてね」

「告白の練習に楽しむとかないから!」


 麗華がツッコミを入れ、俺たちは上の部屋に行く。


「さて始めましょうか! まず設定を確認するわね。私は仮想奈由香で、ここは校舎裏っていう設定ね。分かった?」

「はい!」


 とは言ったけど……どうしていいかわからん。


「ねえ、急に呼び出して、何?」


 麗華が役に入る。もう開始か。緊張する。


「ここに呼び出したのは話したいことがあって」

「なーに? そんな真剣な顔をして」


 はあ緊張するし、なんからしさがある。ただ前にいるのは麗華だ。緊張することはない! しかしわざとなのかわからんけどあざといかんじをだしてるな。


「す、す……」


 やばい言葉が出ない。こんなに緊張するタイプじゃないのに。奈由香さんじゃなくて麗華。奈由香じゃなくて麗華。そう暗示するけど、無理かも。


「大丈夫? 顔赤いよ。熱でもあるの?」


 うん。麗華さんもかわいい。うん、無理だ!


「ごめん……何でもない。ただ……」


 言え、演技でもいい! 言うんだ!


「奈由香さん好きです」


 これでいいんだろ、麗華さん!


「なんで急に……」


 まだ演技を続けるのか。てか演技はいりすぎだろ。


「前から好きだったんですよ」

「でも私は……」


 奈由香(中身麗華)は言葉を貯めて……


「そんなこと言われると思っていなかった」


 そう言って奈由香(中身麗華)はその場から立ち去った。


「数日後」


 麗華のナレーションが入る。ナレーションも担当ですか。


「私、考えました。考えた結果私は友達でいたいから、ごめんなさい」


 あれ、断られるパターンなんだ。


「どうしてもだめですか? 俺じゃあだめですか?」


 こうなったらとことん乗ってやる。これに!


「だめじゃないけど。友達のままでいさせて。このことは忘れたことにしましょう。それじゃあ」

「待って!」


 俺は奈由香(中身麗華)の手を取る。どうせこれは練習だ。失敗してもダメージはない。


「俺は友達じゃダメなんですよ。親友でもダメなんです。彼女がいいんですよ」


 粘る。現実だとこんなことを言える勇気はないが、今は練習だ。


「奈由香、試しに付き合ってみませんか? 物は試しです」

「でも……それで合わなかったら嫌なの」

「それならそれでいいじゃないですか。合わなかったらその時に考えましょう」

「わかったわ。怖いけど、とりあえず付き合いましょう」

「やったー!」


「というわけで練習一つ目は終りね」


 そうだった。忘れかけていた。これがただの練習だということを。乗りすぎた。


「てか、普通にめっちゃ乗ってた気がするんだけど。麗華」

「あはは、楽しくてね。まあそれは置いといて、次やりましょ」


 やっぱり楽しかったのか。


「まだやるの?」

「うん、色々なパターン練習した方がいいでしょ」

「ああ。たしかに」


 そして再び……。


「ねえ急に呼び出してどうしたの?」 

「好きです、付き合ってください」


 練習二回目だからだいぶ慣れてきた。


「ごめんなさい。他に好きな人がいるの」


 あーそういうパターンですか。


「じゃあその人よりも俺の方を見てくださいよ」

「私の好きな人をその人呼ばわり?」


 これじゃあダメだったか?


「そんな人とは思っていなかった。じゃあね」


「さてと」

「奈由香はそんなことを言う人じゃない気がするんですけれど。てか、麗華だったら奈由香が好きな人がいるかどうか分かるでしょ」

「私にも言っていない人がいるかもしれないよ」

「いないでしょ。流石に」


 奈由香はそんな隠し事をしない気がする。


「でも、知っての通りあの子モテるから。私にも少し分けてもらいたいぐらい」

「俺から言わせると麗華も十分可愛いと思いますけど」


 本心だ。奈由香の次に可愛いとは思う。


「ええ? ありがとう」

「別にお世辞では無いですけど」

「まあとりあえず、続きをやりますか」

「はい!」



「ねえ急に呼び出してどうしたの?」


 そこからか。


「えっと、好きです。付き合ってください」

「ごめんなさい。私別に好きな人がいるの」

「俺は、俺はそれでも奈由香のことが好きなんです」

「他にもいい人いるって、麗華とか」


 麗華、自分の名前出すなよ。それじゃあまるで告白されてるみたいじゃないか。


「それじゃあダメなんです。俺には奈由香しかいないんですよ!」


 なぜ振ったみたいな罪悪感があるんだよ。本当に。


「分かった。でもごめん」


 そして奈由香(中身麗華)は去っていった。



「というわけだけど……」

「麗華。このパターン俺に勝ち目あります?」

「無いね。てか地味に私を振ってなかった?」

「あの場合は仕方ないじゃ無いですか」


 自分の名前を出した方が悪いと思う。


「それで、この場面はどうするかだけど」

「諦めましょう!」

「え?」

「だってその場合俺に振り向いてくれる可能性ないじゃないですか」


 その好きな人が誰かにもよるし。予測は難しいだろう。


「まあそりゃあそうよね」

「だからそのパターンはもう無しで」

「だったらもうネタなくない?」

「てかそもそもの話、所詮練習だから言えるんですよ。本番だったらたぶん言えませんよ」


 緊張してもじもじとしてしまう自分がまじまじと思い浮かべられる。


「でも私も可愛いんでしょ。だったら練習にならない?」

「まあそうなんですが。なんか言いやすいんですよね。練習だからかな」

「そうかもね。じゃあまあ今日のところはもう解散しましょうか」

「そうですね」

「じゃあまた作戦考えておくね」

「ありがとうございます」


 やはり協力者というのはありがたい。あんなことを言ったが、今日の練習も絶対役に立っているだろう。


「それとも私に乗り換えてもいいんだよ」

「なんか反応しにくい冗談言わないでくださいよ」


 そして麗華の家を後にした。

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