第2話 奈由香とのバトルゲーム

 家


「どうしたの? その子」


 俺の母親である、有村加奈が聞く。


「初めまして霜月奈由香と言います」

「もしかして彼女?」

「違いますよ、ただの友達です」


 母さんは何を言い出すんだ。こんな可愛い人と俺がカップルなわけないだろ。俺はそんな所に立つのは身分違いすぎる。


「そういうわけで、今から上行くから」

「ああ、うん」


 そりゃあ母さんも困るよな。こんな可愛い子が急に家に来て、友達って言って乗り込んできたんだから。俺にも信じられない状況なのに、母さんに信じられるわけがない。たぶん母さんはしばらく不思議に思うだろうな。あとでちゃんと言ってやらないとな。俺も現状をよく理解してないけど。


「そう言えばさ、有村くんは家でいつも何をしてるの?」


 そんな質問答えられる気がしない。正直に言うと毎日ゴロゴロとゲームか漫画かしかない。ただ、そんなことを伝えたら幻滅されるかもしれない。そんな恐怖がある。ただ黙っているのもおかしいだろう。嘘をつくのも違う気がする。つまり俺は正直に答えるしかないのだ。


「ゴロゴロしてゲームとか漫画かな」


 迷いに迷って正直に答えることにした。もし嘘をついて勉強してますとか、本を読んでますとか言ってもすぐにバレるだろう。


「そうなんだ、普通だね」


 普通、それは普通に発した言葉なのか、それとも軽蔑の言葉なのか、分からない。全く美少女との会話は頭を使いすぎる。まるで正解以外選んだら死ぬようなゲームだ。


「まあ、一般だな」


 これが一〇〇点の回答だとは思わないが、でも、まあ七十点ぐらいの回答をしたと思う。


「私は勉強とか、小説読んだりとか、バイオリン引いたりとかだね」


 全くこの人は素で最高の趣味を持っていやがる。好きだ。


「それで今から何します?」


 何します? だとか言われても困る。何を言ってもダメな気がする。今は俺のホームのはずなのになぜか俺がアウェイみたいになっている。この、俺の好きな人に嫌われないように行動しなければならない。なんと難しいことだろう。


「うちの家にあるのはボードゲームぐらいだけど」


 俺は相変わらず当たり障りの無いようなことを言う。もっとギャグっぽいようなことを言えたらいいのに。


「なるほど、ビデオゲームとかはあります?」

「ちょっと待ってください」


 彼女はビデオゲームがしたいらしい。俺はすぐにゲームカセットを取りに行く。運がいいことにうちの家には大量のゲーム機がある。というかむしろ周りに散らばって置かれてある。これでは俺が片付けが苦手なことがばれてしまう。幻滅してないといいんだが。まあそれは置いといて、うちに大量のカセットがあるからビデオゲームをすると言うのは簡単な注文だ。


「これですこれです」


 俺はこれですを二回続けて言う。言った瞬間、何を言ってんだ俺っとなったが、まあいいだろう。


「ふーん、カートレースゲームもあるし、すごろくゲームも、戦争ゲームもあるね」


 彼女はそう言いながらゲームカセットを見ている。


「これとかいいんじゃない?」


 彼女がそう言いながら見せてきたのは、一対一のバトルゲームだった。


「私、こういうゲームやったことないんだ」


 なるほど、たしかに彼女だったらこういうゲームはしたことないだろう。何しろ彼女の口からゲームなんて言う単語なんて聞いたことないのだ。


 ここからは俺の考察になるが、彼女自身こういうゲームに憧れがあったのだろう。しかし、ここで問題が出てしまう、俺自身このゲームはあんまり得意ではないのだ。何しろこのゲームは買ったはいいものの、すぐに飽きたものなのだ。もし彼女に負けてしまったらどうしよう。そんな不安が俺の心の中を支配する。


「じゃあ私はこのキャラを選ぶね」


 彼女はそのゲームで最強と名高いゴリラのキャラを選んだ。所謂第六感というやつか、まさか一発でこのゲームの最強キャラを選ぶとは思っていなかった。


「じゃあ俺はこれで」


 俺はこのゲームの中でも一番得意な子供キャラを選んだ。彼は身体能力自体は弱いが、その代わりに特殊能力で遠距離攻撃をするキャラだ。


「そのキャラでいいの? なんか弱そうだけど」


 彼女は純真な目でそう言う。このキャラは別に弱くない。確かにあのゴリラのキャラには負けるが、別に弱いキャラではない。むしろかなり強いキャラだ。


「いいんですよ、このキャラ強いですし」

「ふーん」

「まあじゃあやりますか」

「はい」


 そして俺は対戦ボタンを押し、戦いが始まる。


「うう、ちょこまかと」


 彼女は文句を言う。俺は相手から距離を取りながら、特殊能力で雷の球を出し、それをコントロールすることで、ゴリラにすこしずつダメージを与える。今思い出したのだが、このキャラは友達に嫌われるキャラだった。


 やばい嫌わないでほしい。


「ならば接近戦で行こう!」


 なんかキャラが変わっている気がする。もしかしてなんかハンドル握ったら正確変わるみたいな感じなのか?


 しかしそう考える猶予もなさそうだ。このキャラは接近戦に対してはめっぽう弱いのだ。困った、距離を取りたいが、画面の端まで追い込まれてしまった。こうなっては打つ手はない。


 しかし、俺にも打てる手はある、そうそれは特殊能力をゼロ距離で放つというものだ。あんまりいい戦法ではないし、あのゴリラに対して効くのかは分からないが。初心者に負けるということはあってはならない。そしてそんなことを考えながら、こんな複雑なことをこの短時間で考えられる俺はすごいなと少し思う。



「うおおおお」


 有言実行、完全にこのキャラが接近戦に弱いと考えている彼女に対して、不意を付けたようだ、彼女のキャラはふきとんで、そのすきに俺のキャラは広い場所に行く。有利なのはまだ俺だ。



「ハアハアこれで決める」


 彼女はまた距離を詰めようとしてくるが、俺は冷静にその攻撃をよけながら、広い場所に逃げていく。さすがにまた接近戦に持ち込ませるほど俺は馬鹿ではない。


「また逃げて、正々堂々勝負しなさいよ」


 その威勢、好きだ。普段とは違うその勝負に対する熱意、最高だ。長くこの勝負か続けばいいのにと本当にそう思う。だが、いい加減勝負をつけなければいけない。


「はあ」


 特殊能力をコントロールしてゴリラに当てて、空に浮かしてから連続で攻撃を当てる。今までは防御のことも考えながら攻撃してたが、さすがにそろそろ終わらせないといけない。短期決戦だ。


「うまく動かせない、なんで?」


 そりゃあ当たり前だ、そうさせないようにうまく攻撃しているのだから。空中に浮いたゴリラなどただのでかいサルだ。だが地面につけば俺は終わる。慎重に慎重に地面に落ちないように連続で攻撃していく。


「地面におろさせてよ!」


 作戦がうまくいっている、だがこのゲームの勝利条件は敵のキャラを場外に出すこと。この攻撃じゃあダメージを与えられるが、敵を吹き飛ばすことはできない。ならばどうするか、それは別の攻撃方法を使うのだ。


 まずは敵のゴリラををいったん落とす。すると彼女は俺のキャラを狙ってくるはずだ。


  実際に狙ってきた。だがそこで今まで繰り出してなかったハンマー攻撃を繰り出す。このキャラの唯一と言ってもいい接近してきた敵に対する攻撃方法だ。当たる可能性は低いが、一直線に向かってくる敵なら当てるのは容易だ。


「行けええええええ」


 俺は叫ぶ。そしてゴリラは吹き飛ぶ、これはさすがに俺の勝ちか?


「いえ、まだよ」


 そう言ってゴリラは大ジャンプをしてきて、ぎりぎり崖に届いた。だがこのキャラの魅力がそこにはある。所謂、復帰つぶしというやつだ。それで雷の球を当ててゴリラを吹き飛ばす。さすがにこれには大ジャンプ祖ても届かない。俺の勝ちだ。


「さすがね有村君」


 彼女は俺をほめる。さすがにうれしすぎる。


「いえいえ俺なんか、それより霜月さんは初めてにしてはうまかったですよ」


 俺は褒め返す。


「ありがとう、本当にありがとう」


 彼女は泣き出した。


「急にどうしたんですか?」


「いえね、私あんまり褒められたことなくて」

「いつもみんなから褒められてるじゃないですか」

「まあそうなんだけどね、有村くんに褒められると凄く嬉しい」


 これはどっちの反応なのか。新鮮だから嬉しいのか、それとも俺のことが好きだからという感じなのか全く分からない。しかし、少し言えるのは。うれしいということだ。真偽は定かじゃないとはいえ、俺の一言で好きな人を嬉しいと思わせた、こんなに嬉しいことはない。



「それは俺も嬉しいです」


 自分の中の感情をありのままの言葉で伝える。


「さーて次は何をしましょうか」


 彼女は聞く。もう一回バトルゲームをやるつもりはないのだろうか。それとも別のゲームをしたいだけなのか。

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