クラスの女子に好意を抱いてたが、告白する勇気が無くて困っていたら、友達になる? と言われたのですが

有原優

第1話 私と友達になる?

 俺は普通の子どもだ。勉強は中の下で友達もそこまでいる訳でもない。


 ただ一つ違うのは俺には好きな人がいるということだ。


 好きな人の名前は霜月奈由香しもつきなゆかと言う。俺は彼女のことが好きだ。そのしぐさ、その立ち振る舞い、彼女の目、彼女の口、彼女のしゃべり方、もう言葉では言い切れないほど好きだ。


 しかし、俺にはそのことを彼女に伝える度胸はなかった。何度かチャレンジはしてみたのだが、俺は毎回逃げてしまった。その回数は数えきれないほどである。


 例えば、移動教室の日に移動するのが遅れて彼女と一緒に移動した日や、帰りにたまたま彼女が一人なのを見かけた日など様々な日がある。


 しかし、そんな俺にもついに告白の絶好の機会が巡ってきた、その機会というのは放課後に彼女と俺が教室で二人きりになった時のことであった。俺と彼女は関係性で言ったら本来は知り合い以上友達以下であった、よって話す機会などほとんどなかったが、今日だけは違うようだった。


「ねえ有村君」


 有村雄太ありむらゆうたそれが俺の名前だ。彼女は何と俺の名前を呼んだのだ、そんなことは今までにはなかった。不思議と自分の心臓の鼓動が聞こえる。そのリズムは例えるのならまるで太鼓だった。


「はい、何でしょう?」


 俺はそう返事した、少し硬すぎる返事のように思ったが、それは仕方がない。返事ができただけでも褒めてほしい。


「今まで有村君とはあまり話してないような気がしたから。この二人になるのって珍しいしね」


 彼女はそう言った、俺に用などなかったのだ、しかし何も用などないのに話しかけるその勇気がうらやましく思えた。俺なんて用がある時でさえ人に話しかけるのもためらわれるぐらいである。しかも話しかける相手が異性である。俺は彼女のこういうところが好きなのだ、誰にも話せるそのコミュ力が。


「そうですね、あんまりこういう状況になるのってないですからね」


 そんなことを話しながら俺はもっとちゃんと話せと自分に怒った。これでは固すぎる。せっかく好きな人が俺に話しかけてきてくれているのに、なんで俺には普通に返せるぐらいの勇気(勇気ではないかもしれないが)がないんだ。


「有村君、もう少し普通にしゃべってよ、いつもそんなんじゃないでしょ。もしかして私が女だから?」


 彼女には俺が緊張していることがすでにばれていた。(あんな感じでしゃべっていたら当たり前だとは思うが)


 しかしどう返すべきか判断に困る。というかこれは告白のチャンスではないか? あなたが好きだからですと答える絶好のチャンスだ!


 しかし断られるのが怖いという感情。それが俺の行動を妨げる。しかし俺はなんとしてでも言わなければならない、そのチャンスがいつまた来るのかわからない、もしかしたらもう一生来ないかもしれない。ならなおさら言うべきだ。それはわかっている、しかし口が動かない。なんて言ったらいいのかわかってはいるが、その言葉の発し方が分からない。どうしたらいいのか誰か教えてほしい。


「いや、そういうわけではありませんよ。俺が恥ずかしがり屋なだけです」


 言えなかった、当たり障りのないことを言ってしまった、千載一遇のチャンスを無駄にしてしまった。後悔の念が襲い掛かってくる。しかし、まだ終わってはいない。この会話中のどこかで好きですと言えればいいのだ。そう考えると少しだけ気持ちが楽になる。


「ふーん、でももうちょっと勇気出してみてもいいと思うけどね。そういえば友達はいないの?」


 彼女は俺にそう聞いてきた。答えは当然NOであ。、友達なんて都市伝説だ。誰も趣味が合わないし、誰とも分かり合えない、俺が普段他人とするのはせいぜい公的な会話だけだ。


 友達をくれるって言われたら当然ほしい。だが俺はそんな立場ではない。俺の話は面白くはないし、俺の逆に俺のダメな部分が露見してしまうだけだ。それにいつ俺に愛想つかされるのかわからない状態で友達の機嫌を取らなければいけない状況なんて嫌だ、俺は友達一〇〇人よりも親友一人のほうが欲しい。


「はい、いません」


 俺はそう答えた、シンプルな答えだ。だが今少し思ったが、友達になってくれませんかと言えばよかったかもしれない。だがしかし、そんなことを急に言う男子など怖いに決まっている。好意があると捉えかねない(実際にはあるが)。言わなくてよかったかも。


「そうなんだ、なんで?」


 彼女は聞いてきた、そんなもの決まっているし、いくらでも理由が言える。まあ理由をまとめると仲良くなれないのが怖いからということなんだけど。


「俺に勇気がないからですよ、友達作りなんて人に話しかける勇気がなかったらできないんですから」

「ふーんそっか」


 これはどっちの返事なんだ? 興味ない「そっか」なのか、それとも興味ある相槌なのかわからない。だが今はっきりとしている事実は一つ・彼女がかわいいということだ。さっきまで告白したいとか考えていたのに今は俺なんかが釣り合うわけがないということしか考えられない。それくらいかわいい。


「ならさ、有村君って友達欲しくないの?」

「もちろんほしいですよ」


 きた、俺の答えはもちろんyesだ半端な友達はいらないが、彼女の手前どんな人とも友達になりたいというのが正解な気がする。


「じゃあさ、私と友達になる?」

「え?」


 驚きの言葉しか出てこない。まさかこんなところで霜月さんにそんなことを言われるとは思ってもいなかった。


 そんなの答えはyesしかない。ただ彼女がどう考えているのか、それがまったくもって謎であった。こんな恥ずかしがり屋で普通の返事しかできないような俺と友達になるメリットは自分でいうのも恥ずかしくなるが〇に等しいと思う。


 俺の自己評価が低いだけと言われてしまったらそれで終わりなのかもしれないが、だがこれは本当だと胸を張って言える。まあ胸を張ってはいけないと思うが。


 そこでなぜ彼女がこう提案したのか理由を考察してみると、一つ目、俺のことが好きだから。この説が本当だったらうれしいが、俺のことが気になる可能性はゼロに等しいと思う。それぐらい俺は地味で面白くない奴なのだ。顔も普通だし。


 二つ目、俺のことを憐れんでいるから。こっちのほうが可能性が高い。彼女はもともと仲間外れを作るのが嫌いなタイプの人間である。ならばその可能性が高いと考えるのが普通である。しかし俺にとってはそれでもいいのだ、彼女としゃべれるというその事実だけで幸せだ。友達が霜月さんならば、どんな友達だっていい。


「じゃあ、ぜひお願いします」

「わかった、じゃあもうすこしお話しよ」


 俺には彼女の真意がわからない。俺を試しているのか? しかし、今は何も考えずに話そう。そう、決めた。


「ねえ、有村くんの家って学校から近いの?」

「はい、近いです」


 家の話になった。俺自身を嫌になる。「近いです」とかそういう一つ返事だったら会話が続かないと、よくなんかの専門家が書いてるのだが。俺にはそれ以外の返事ができない。もしそれが出来ていたら苦労などしないし、俺の周りには親友が溢れているだろう。まあ、それ以前に俺には勇気がなく、魅力がないことも知っているが。


「じゃあ今から行かせてよ」

「はあ」


 この人は何を考えているんだ。友達が多いのになぜ俺の家に行くと言う話になったんだ。もしかして俺に気があるとかじゃないか? と少し疑いたくなる。けれど俺は分かっている、そんなの自分の都合のいい解釈なのだと。


「というわけでレッツゴー」


 彼女は元気よく言う。俺にはこれが現実かどうか理解が出来ない。なぜこんな状況になっているのか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。


「ほら行くよ有村くん」


 彼女は俺の手を引っ張る。もう何が何だか分からない。けれど一つだけ分かるのはこれが幸せだと言うことだ。誰か俺の頬をつねってほしい。なんならそれで俺の頬が痛くなってほしい。夢ではないと言う証拠が欲しいのだ。


「うん」


 そして俺の家に向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る