想難者

白井 芽理

プロローグ

 「明日もまた会えるといいね!」

 吐き気のするようなLINEの通知を消し、スマホをベッドに投げ込む。

 外し忘れた腕時計を見ると、21時に差し掛かろうとしている。明日の試合のことを考えると、もうシャワーを浴びなければいけない。無気力感からスマホを手に取ろうとするが、すぐにやめ、自室を後にした。

 シャワーを浴び、自室に戻ると、スマホが振動していた。少々ドキッとしたが、手に取り、それが杞憂だったことに喜びを感じる。

 「もしもし、ごめんシャワー浴びてた。」

 「おっす、別に大丈夫よ。」

 何の用もなく時々電話をかけてくる高橋の声はなぜか安心する。いや、今日だけか。

 「今日は何したん?」

 いつもどおりの会話をすることで、自分の心を落ち着かせようとする。

 そんな考えをする自分を、自己嫌悪しないように会話に集中しよう。

 「いや、この前買ったイヤホンが届いたから、いろんな人に電話かけてんのよ。」

 「まじで俺に需要ないな、それ。」

 「俺の声聞けて、嬉しいだろ?」

 高橋は良くも悪くも、無意識にこっちの気持ちを理解してしまう。マイクの質が良くなっただけかもしれないが、今日はその言葉が、耳にすんなりと入っていった。

 「まあ嬉しくないといえば噓になるな。」

 「だろ、でも彩希にかけたら、『あんたからより、明登からの電話のほうがよっぽどうれしいわ』って言われて切られたんだけどな。」

 笑いながら、高橋はそういった。

 「あ、そ、そなのね」

 声が震えた。

 「じゃ、じゃあ、悪い高橋。俺明日提出の課題やんなきゃ。またな。」

 「急だな」

 笑いながら高橋は、じゃあな明登、と言い電話を切った。 

 濡れたままの髪は乾くことを放棄し、冷えた体に寒気をもたらした。

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