第12話 真実を告げる時

 あの後、憲兵がやってきていろいろと事情を聞かれた。


 その時にティミド様が子爵令嬢との婚約が破談になっていた事を知った。


 ティミド様は子爵令嬢との婚約が後ろ盾となった事で散財するようになり、そのため元々あった借金が雪だるま式に増えて言った事が破談の理由とか。


 その後、ベルキス家から除籍され、数多くの債権者から逃れていたらしい。


 私はティミド様との関係を正直に答えた。

 元婚約者で、彼の方から婚約破棄された事を。

 そして今日、突然室内に押し入りアルバを人質に取られ、金品を要求してきた事を伝えた。


 その前からティミド様にアルバの事で脅されていた事を言うべきか……話す事に躊躇しているとヴァリエ様が話し始めた。


「こちらは大切な妻と我が子を人質に取られ、一歩間違えれば取り返しのつかない事になっていました。厳罰に処する事を求めます」


 憲兵は神妙な顔で敬礼をし、部屋を出て行った。


 ティミド様が拘束された後、すぐにアルバを医師に診てもらった。

 二階の部屋に移りアルバをベッドに寝かせると、すぐにすやすやと眠りについた。


「君も疲れただろ? ゆっくり休むといい」

 …いつも私を気遣って下さる。


「……」


「ルクス?」

 返事のない私に、心配そうな表情をするヴァリエ様。


「申し訳ありません!!」

 私はヴァリエ様の足元に土下座をし、涙ながらに謝罪した。


「ルクス!? 何をやって…!」

 あわてて私を起こそうとするヴァリエ様の手を抗うように、私は首を振る。


 ティミド様に捨てられ、雨の中倒れた私を助けて下さったヴァリエ様。

 お腹にいたアルバを助けて下さり、私を助けて下さり、先程も……!

 何度この方に助けて頂いただろう…っ


 なのに私は……私は命の恩人を欺き、騙していたっ!

 血の繋がらない子を伯爵家の跡継ぎにしようとしていた!

 伯爵夫人になれば、ティミド様を見返せると思った!


 自分の事ばかりで人の人生を利用して…っ

 どこまでも浅ましく心賤しい自分が情けない…っ!!


「ア、アルバは…アルバは……っ ヴァリエ様のお子ではございません! ア…ルバは…ティ、ティミド様の…っ す…べて…全て私が悪いのですっ 罪を償います…っ 私はどうなっても構いませんっ ですがどうか…どうか両親は…っ 叔父たちは…ゆ、許して頂けないでしょうか! アルバを……どうか…っ どうか許して…許して下さい!!」


 私は床にぬかを突かんばかりに、泣きながら平伏ひれふした。


「……求婚状を送った時点で知っていたよ。君のお腹にアルバがいる事は。そして君が既成事実を作るために僕に抱かれた事も」


「え…っ」


 その言葉に驚いた私は、思わず顔を上げヴァリエ様を見つめた。

 彼はいつもと同じ優しい瞳を私に向けて下さっていた。


「…だから初夜以降は君との営みは持たなかったんだ。身体に負担がかかると思ってね。…とにかく一旦ソファに座って落ち着こう。きちんと話がしたいんだ」


「はい…」


 私はヴァリエ様に支えられながら、二人並んでソファに座った。


「……ヴァリエ様だったのですね。雨の中、倒れた私を助けて下さった方は。その金の百合のネックレス…覚えています。気を失う前に私の手を握って下さったヴァリエ様のお顔を思い出しました…」


「領地視察の帰りに、君が馬車から引っ張り出される光景を目にしたんだ。あの男は君に金をばら撒き去って行った。最初、男女の別れ話に他人が首を突っ込む事ではないと思い通り過ぎようと思ったよ。けど君が突然倒れたので、診療所に運んだんだ。君は譫言うわごとで何度も言っていた。“赤ちゃんを助けて、赤ちゃんを連れて行かないで”…と」


 私がティミド様に捨てられるところを見られていた、そして最初から私の妊娠をご存じだった……初めから何もかも…


「…全てご存じで…なぜこんな私を娶って下さったのでしょうか…なぜ私の嘘に知らないふりをして下さったのでしょうか…」


 私は力ない言葉でヴァリエ様に問いかける。


「……少し僕の幼少時の話をしてもいいかな?」


 ヴァリエ様は遠い目をされながら、子供の頃の事を話し始めた。





 






 















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