第2話

2話

《夏の銀河》

八畳の和室に布団を二組敷いて、俺と彼女はその上に寝転んでいた。

部屋の窓からは星が見えた。

開け放した窓からは、湿気を含んだ生温かい風が吹き込んでくる。

俺はいつものようにスマートフォンで星座早見表を見ていた。

彼女の家の玄関には、年季の入った大きな天体望遠鏡がある。

父親から受け継いだというそれは、もう何年も前から庭木の剪定にしか使われていなかった。

「哲也くん」

彼女が俺の名前を呼んだ。

「うん?」

俺はスマートフォンから視線をそらさず、声だけで返事をした。

彼女は仰向けだった身体をこちらに向けて、じっとこちらを見つめていた。

「別れてください」

彼女はもう一度そう言った。

俺は彼女の顔を見たが、部屋は暗く、その表情はよく見えなかった。

それでも彼女が泣いていることは分かった。

「そっか」

俺がそう言うと、彼女の目からはらはらと涙がこぼれ落ちた。

それは彼女の瞳の表面に水の膜を作り、その輪郭を滲ませた。

彼女は泣いて、泣いて、最後には声をあげて泣いた。

「嫌だよ」

と俺は言った。

「嫌じゃない」

と彼女は言った。

俺たちはそれから口をきかなくなった。

窓から吹き込む生ぬるい風が気持ち悪かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る