夏の間にて

「諫早殿、大丈夫かの?」

 目を開けると喜八郎さんがのぞきこんでいた。



「僕は……そうだ、助けなきゃ」

 起き上がろうとするが、脱力感が全身に広がっていてうまくいかない。



「諫早殿、もう遅いのじゃ。手遅れなのじゃ」

 喜八郎さんは首を横に振りながら言う。



「そんなの嘘だ! まだ間に合う!」



「小僧、現実を見るんだな。お前はショックのあまり倒れたんだ。まあ、友人が死んだんだ。無理もない」

 声からするに磯部さんのものだろう。

 ゆっくりと状態を起こすと、現実を突きつけられる。夢ではなかった。悪夢ならどれほど良かっただろうか。



「そ、そんな……」

 暁を見ると、同じく呆然としていた。

 

「そんな……いい奴だったのに」暁がつぶやく。



「そうだ、夏央とは限らないんだ。焼け死んでいるんだ、誰か分からないはずだ。そうに違いない!」



「周平さん、残念だけど夏央さんよ。腕時計が一緒だもの……」由美子さんが目を潤ませながら言う。



 遺体の左手には、鈍い色をした腕時計が寂しげにぶら下がっている。



「じゃあこうだ。犯人が夏央の腕時計を死体につけたんだ」



「つらいことだが、現実を見ろ」草次さんはそう言いながら目をそらす。



 しばらくすると実感がわいてきた。夏央が殺された。それもむごい方法で。怒りが沸々と湧いてくる。

 


「犯人は誰ですか! 僕はそいつを許さない!」

 当然、誰も名乗り出ない。



「……諫早殿、暁殿、今から現場検証をせねばならん。二人には酷じゃろう。別室で待機してもよいぞ。みな異論はないの?」



「待ってください……。僕も参加させて下さい。夏央の仇をとらなきゃ……」



「諫早殿、落ち着くのじゃ。深呼吸をするのじゃ。現場検証に参加するのなら、冷静でなければ判断を誤りかねん」



 僕は深呼吸をする。



「覚悟は決まったかの」



「はい」



「つらければ、途中で抜けるのじゃ。無理をする必要はない」



「わかりました」



「よろしい。暁殿はいかがなさるかな?」



「もちろん、参加します」



「ふむ、では現場検証開始じゃ」

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