第47話 トーナメント開始

その夜、宿泊棟の食堂にてささやかながらも笑顔溢れる祝勝会が行われた。

誰もがアヤナの勝利を讃え、その勝利を無駄にしないよう大会の優勝を誓い合った。

そしてその祝勝会が終われば全員の表情が引き締まる。

翌日の第一試合に向けて。




「よし、では行くぞ」

本日のトーナメント第1回戦。

ノア達はその戦いの場となるカレイドスコープ第二会場へと乗り込んだ。

「おおー、やってるやってる」

そこでは現在第一試合の真っ最中で、対戦する二校が白熱の戦いを繰り広げていた。


『それでは次の問題。かつて『それでも地球は回っている』という有名な言葉を残した歴史的天文学者と言えば――』

ピンポーン!

『はい、茨城県チームどうぞ』

『ガリレオ・ガリレイ』

ブッブー!

『はい、問題はまだ途中ですよ。――ガリレオ・ガリレイですが、『見たわよ』という言葉を残した千葉県出身の有名な家政婦と言えば誰?』



「今の見た? 酷いひっかけ問題だよー」

「一般教養問題と思わせてのメイド問題だったかー」

「私達も引っ掛からないように気を付けなきゃ」



その後、給仕と指定食材を使っての料理、染みの正体を突き止めての染み抜き勝負などが行われ『総合』競技が終了、屋外のバトルフィールドに移動して『格闘』競技が行われた。『格闘』競技は終始ワンサイドゲームで、先に二勝した地元千葉県チームが勝利。合計ポイントで僅かにリードした千葉県チームが二回戦に進出した。

地元出身の有名家政婦の加護によるものだろうか。



「さて、そろそろ第二試合の選手が会場入りして控室が空く頃だろう。控室に移動するぞ」

控室に入ると、流石に全員の顔に緊張の色が見える。

「まあ一回戦目だし緊張するなと言っても無理だろうな。だから敢えて言おう『頑張らなくていい』と。やり過ぎず、程々に、いつも通りに、そこそこに。そんな感じで充分だ」

「「「「「ええーーー」」」」」


「特に一年生、君達は絶対に『やり過ぎる』なよ? 本当に、どうしても、止む無く、やならきゃ負ける、そんな局面になるまでは上級生に任せるんだ。いいか、先生との約束だ」

マキエ先生の言葉に一年生は若干の不満顔、そして上級生からは軽い笑いが零れる。

どうやら皆いつもの調子が戻ったようだ。


「まあ正直君達には何の心配もしていない。第二回戦からは全校生徒が応援に来るから、サクッと勝って皆を迎えようじゃないか」

「「「「「はいっ!!」」」」」




第二試合が終わったようだ。

呼びに来た係員の誘導に従い、ノア達は試合場に移動した。


『さあ、本日の一回戦第三試合は、静岡県代表聖バスティアーナ学園・ロゼメアリー学園対福岡県代表トゥルーロード学院の戦いです。奇しくも強豪校同士が緒戦でぶつかり合う事となったこの試合、果たしてどのようなドラマが繰り広げられるのでしょうか!』


選手達の邪魔にならないよう離れた場所に設置された実況席から、アナウンサーの声が小さく聞こえてくる。


『引き続き実況はわたくし過多味かたみキミタカ、そして解説は奈留橋なるはしハルナさんでお送りいたします。さて奈留橋さん、この両校をどう見ますか?』

『そうですね、静岡は前大会ベスト四に進出したメンバーが後輩達をどう引っ張っていくかが見所でしょう。一方福岡のトゥルーロード学院は執事学部とメイド学部が併設された単独校ですので、毎年素晴らしいチームワークを見せてくれていますね』

『なるほどー。そうしますと――――』



「さてと、最初はクイズね。回答者は四名で、予定通り私とミサ、リアさんとモモカさんで出場するわね」

今大会のチームリーダーに任命された真名アイリが仕切る。


『おおっと、静岡は真名まなアイリ選手、苑森そのもりミサ選手、揮雅ふらがリア選手、鴨百かもももモモカ選手と三年生四名で固めてきたぞ。ここで参加した選手は次の種目に出られないが大丈夫かあ!?』

『これは経験豊富な三年生で弾みをつける作戦でしょうか』

『そして福岡は三年名島なじまチハヤ選手と五条ごじょうコウメ選手、二年中間なかまチクホ選手、一年香椎かしいミヤ選手と学年を分散させてきたあ』

『両チーム作戦の違いが際立ちますね』



とここで、アナウンサーの声が会場中に鳴り響く。

『さて、それでは『総合』第一種目は『知識』、回答形式は早押しとなります。問題は全部で十問で、正解すれば一ポイント、不正解またはお手付きの場合は相手チームに一ポイントとなります』

そして一呼吸おいて、問題を読み上げ始める。


『それでは第一問、織田信長の小姓と言えば森蘭丸と前田利家が有名ですが、執――』

ピンポーン

『おっと静岡チームが速かった。それでは回答をどうぞ』

「森蘭丸」

『せいかーい! 『――執事はどっち?』という問題でしたが見事正解。静岡チーム一ポイント先取です』


「やった!」

「いきなりこの問題とはラッキーだったな!」

『では続いて二問目。抹茶ラテアートにも影響を及ぼした有名な茶人と言えば、千――』

ピンポーン

『おっとまたも静岡チーム! 問題はまだ途中だが大丈夫かあ? それでは回答をどうぞ』


「ちょっとミサ?」

「……すまん、トチった」

『さあ静岡チーム、回答をどうぞ』

その時、焦るミサの横からマイクに向かってリアが答える。

「ミラノですわ」

『ミラノとの回答ですが…………お見事、正解っ!』


ホッと息をくリア。

一か八かの回答だったが、賭けに勝ったようだ。

「すまん助かった」

「いえいえ、困った時はお互い様ですわ」


『問題は『――千利休ですが、ラテアート発祥の地と言われているのはイタリアの何処?』というものでした。もし問題が『アメリカの何処?』だったらシアトルが正解でしたが、今回は『イタリア』だったので正解はミラノ、静岡チーム見事一ポイントゲットです』

アナウンサーの言葉にどよめく会場、そして渋い顔を見せる福岡チーム。だが勝負はまだ始まったばかりだ。

そこから『知識』は一進一退の攻防を見せ、スタートダッシュを決めた静岡チームが七対三とリードを保ったまま終了した。




『第二種目は『洗濯』、この白い布についた大きな茶色の染み、テーブルの上の食材を一つだけ使って綺麗に落としてください。今回は精霊やメイド魔法の使用は禁止です。では…………スタートお!』


この種目に出場したのは、ノアとアカリ、アイコとアズミの一年生四人組。

布を前に暫く悩んだ四人だったが、やがてノアが閃いた。

「あっ、これアレだ! みんな、これ私に任せてくれる?」

そう、昔お祖母ちゃんに教えてもらったアレ。

「ふっ、ならば我はアクアルナに賭けるとしよう」

「そうね、私もノアちゃんに任せるわ。アズミもいいわよね?」

「応っ」

ノアが選択したのはレモンだった。


『さあ、使う食材が分かれたぞ。静岡チームはレモン、福岡チームは大根だあ』


そして結果は――


『福岡チームは残念、ほとんど落ちていないようだ。そして静岡チームの布は真っ白、染み抜き成功だ――っ!!』

「やったやった!」

手を叩いて喜ぶノア達、そしてそのノア達に拍手を送るチームメイト。


『今回のお題、茶色い染みの正体は鉄錆でした。レモンに含まれるクエン酸の効果で錆を溶かした静岡チーム、お見事でしたね』

『一方の福岡チームは血液の染みだと判断したようですね。確かに時間を置いた血液の染みもこのような感じになります。そしてその染みは大根に含まれるジアスターゼの働きで落とす事が出来るんです。それを知っていた福岡チームも素晴らしいですよ』

『これこそまさに強豪同士の戦い。どちらのチームもレベルが高い!』




その後の競技は『掃除』が僅かなポイント差で福岡、『給仕』『調理』は両チーム同ポイントという結果で、ノア達がリードを保ったまま『総合』競技を終えた。

そしていよいよ、勝敗を決する『格闘』競技が始まる。

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