第39話 合宿所に行こう
12月26日。
登校すると入口のロータリーにロゼメアリー学園のバスが停まっていた。
「ふっ、待っていたぞ我が宿命の――」
「ノア! おはよう」
「アイちゃん! 久し振りー」
「我が宿命の――」
「ノア、待っていたのです」
「エイヴァおはよー」
「宿命の――」
「あ、カナカナもおはよー」
「おはよう」
「アク――」
「遅かったじゃねーかアクアルナ!」
「久し振りーアズミちゃん」
全ての言葉が遮られたアカリは目に涙を浮かべて顔を落とす。
「アカリちゃんもおはよー」
「……いじ……だ」
「え?」
「ノアは意地悪だ! 私が、私が最初に声を掛けたのにぃ」
「ええーっ、そんなわざとじゃないよー」
「せっかく、せっかくカッコよく『我が宿命の――』」
「「アクアルナさん初めましてっ!!」」
「「「「「あ……」」」」」
「うわぁーーん、もぅおうちかえるぅーーー!」
「アカリちゃーーん」
校門に向かって走り出そうとしたアカリ。
一瞬で回り込んだアイコとアズミがその肩に手を置き、エイヴァの相棒のパディ―がその足にしがみつき、それでも前に出ようとしたアカリはノアの出した【障壁】に顔をぶつけた。
「ぷぎゃっ」
ノアに優しく抱きしめられ、その頭をゆっくりと撫でられてアカリはだんだん落ち着きを取り戻してゆき――
「ライバルなんだから」
「うんうん、アカリちゃんは私のライバルだよ」
「宿命なんだよ」
「そうだね。きっと運命で宿命なんだよ」
「アクアルナとイグネア・アニュラスで――」
やがて完全復活を果たしたアカリは若干恥ずかし気に、でも満足の表情で、
「今日という日を楽しみに待っていたぞ。宿命のライバルが修行を共にし、そして共闘へと赴くこの日をな!」
予定していたセリフを全て言い切り、そして下がって行った。
「ええと、それであなたたちは?」
ノアは先程最後に話し掛けてきた同じ顔の二人組に声を掛けた。
「双子?」
「ぼくは三鷹マイ」
「ボクは三鷹セイ」
「「双子なメイド、『マイとセイ』!!」」
背中合わせでまっすぐノアに手を伸ばすキメポーズまで決めて、マイとセイは自己紹介をやり切った。
気分はまるで二人組の魔法少女である。
まあメイド魔法を使えるのだから、魔法少女と言えなくもないのか……
間もなく上級生達も全員集まり、バスでここまで来ていたロゼメアリー学園とここに集合のバスティアーナ学園の代表全員が顔を揃えた。
「よし、全員揃ったな。時間前だが寒いからもう出発するぞ」
バスは海沿いの道をひた走り、見覚えのある港に到着した。
「あれ? ここって夏にみんなでツーリングに行った時の港?」
「そうでーす。日出港って書いてあるのです」
「ここから貸し切りのフェリーに乗るぞ」
「おおーー、船旅だー」
三代目高速フェリーの『奇跡』にバスごと搭乗し、ここからは海路となる。
二代目までとは違いモーター駆動となった『奇跡』は、現時点で最高の効率化と精霊研究から得た新機軸の自然エネルギーにより実現した最新技術の結晶で、その速度は時速百kmを優に上回る。
また波の影響をほとんど受ける事が無いため船酔いも起きにくいという、乗客乗員にとっても非常に優しい船なのだ。
「おおー、速ーーい!!」
「まるで空中に浮いてるみたい!」
「っていうかさ、これ本当に浮いてない?」
キャビンに移動した生徒達は、その速さと快適さに驚いていた。
燃料を燃やさないため静かで匂いも無いのだが、ただひとつの弱点として、外に出てその潮風を肌で感じることが出来ない。時速百km以上という台風並みの風に晒されてしまうからだ。
「マキエ先生、合宿所へはどれくらいで到着するんですか?」
「南に千kmくらい行った所だから、移動時間は八時間くらいだな。日没までには到着する予定だ」
「結構掛かるんですね」
その感想にマキエ先生は軽く苦笑しながら一言添えた。
「まあ、普通の船で行けばその四倍くらいはかかるのだがな」
とはいえ、船の中で退屈などしている暇はない。
到着するまでの時間に自己紹介や大会の説明、それにチームの方針や作戦に関する会議や意識合わせを行う事になっている。合宿はもう始まっているのだ。
まずは自己紹介。
執事からは契約している精霊の紹介と得意技、メイドからは得意とするメイド魔法などが紹介された。
とはいえ、それぞれの学園での実技や合同実習において目立った生徒ばかりが集まっているので、予めお互いある程度は把握済みだ。特に上級生にとっては昨年の合宿で顔を合わせた者も多い。
そうでない者に関しても、性格や趣味趣向などは合宿の共同生活の中で徐々に分かっていくだろう。
そしてチームの方針と作戦についてだが、出だしの一言を聞き選手たちは面食らった。
「今回の大会だが、実は戦闘においては一年生を主戦力とする事を考えている」
誰もが予想だにしていない内容だったからだ。
不安そうな顔をする一年生と不満そうな顔をする上級生、予想通りのその反応に微笑みながら、マキエ先生は言葉を続けた。
「理由を説明しよう。君達も承知の通り一年生の主メンバーは、水月ノア、火輪アカリ、恋沫アイコ、桐野アズミの四名だ。そしてこの四名に共通するのは、『常識外れの力を持ってはいるが技術や駆け引きはまだまだ発展途上』という点だ」
一斉に頷く上級生。合同実習での格闘は見ていないが、トーナメントでの戦いを見た印象と今の説明は一致している。
「そこで我々が立案したのが、『この常識外れ達を対戦相手に真正面からぶつけ、相手が面食らっているうちに君達上級生が決着をつけてしまう』、という作戦なんだが……どうだろう、面白いと思わないか?」
ニヤリと笑うマキエ先生に、上級生達も悪い笑みを浮かべた。
「いいですねそれ。それなら一年生の弱いところを私達でカバーしてあげられるし」
「だったら一年生達にはその『常識外れ』に磨きをかけてもらわなくちゃね」
くっくっくっと、キャビンは低い笑い声に包まれた。
窓の外の抜けるような青空が、逆にタチの悪い冗談のように思えてくる。
と、ここでマキエ先生が軽く手を上げてその笑いを制した。秘密結社の集会か!
「そしてもう一つ、一年生の選手についての重要な情報がある。このチームの真の秘密兵器と言っても過言ではない、最重要情報だ」
マキエ先生が真剣な表情から発したその前置きに、選手達一同の表情が引き締まる。
そしてまさかという思いからカナタの表情が青ざめる。
「それは、一年生サブメンバーの
「「「「「なっ!?」」」」」
驚愕の表情を浮かべる選手達に、マキエ先生は説明を続ける。
「共有させられる人数についてはこの合宿で検証と強化を進めていく予定だが――想像して欲しい。もし主メンバー全員が上空からの視界を手に入れたとしたら、どうだ?」
サブメンバーは攻撃には加われないが、回復などの補助的な能力の行使はルールで認められている。つまりマキエ先生のこの作戦はルールには抵触しない。
ならば……
チームの全員、マキエ先生に言われるがままにその状況を想像し、思わず生唾を飲み込む。
そしてしばらくの静寂ののち、友愛のバスチアン
「全国優勝、狙えますね」
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