第242話 マジか
大きくなったノワが嚙みついた尻尾から、湯気の様なものが上がりポタポタとどす黒いものが流れ出している。あれは、もしかして血液なのか?
「ココ、来るぞッ!」
「おうッ!」
もう1度同じ様に尻尾を上げる化け物。
その尻尾目掛けて俺は剣を振った。剣に聖属性魔法を付与して斬撃を飛ばしたんだ。
『鬱陶しい。お前、何者だ。お前達だな、解呪をしていたのは。なぜフェンリルとドラゴンがいる?』
まるで地獄の底から、聞こえて来た様な声が頭に響いた。その気持ち悪さに背筋が凍り付く。これは、目の前の魔族が話しているのか?
「ココ、念話だ」
「気持ち悪いわ」
「おう」
「お前、魔族なんだろ? 何をしようとしてるんだ?」
『ほう、念話も使えるか』
「だから、何してくれてんだって言ってんだよ!」
『グワッハッハッハ! この国を支配してやろうと思ってな! そのうち全世界征服だ!』
「馬鹿か!」
『たかがヒューマンが何を言う? 魔族の我に支配される事を有難く思え!』
何を言ってるんだ。支配だと? なんで支配されなきゃなんないんだよ!
『ヒューマンは直ぐに死ぬ。我が支配してやったらもっと有意義に生かしてやれるぞ』
「そんなのいらねーんだよ!」
「ココ、あいつらにとってはお遊びなんだよ」
「遊びだって?」
「おう、長い時を生きるからな。ヒマしてんだ。ちょっとちょっかい出して、遊んでやろうってもんだ。意味はねーんだ。こんな事をする奴は、魔族の中でもはみ出し者だ」
そんなので人の心を奪うのか? 精神干渉して操ったり、毒を盛るのかよ。
やってらんねーぞ!
「サキ、リュウ、行くぞッ!」
「はいッス!」
「はいぃ!」
「俺もやるぞ!」
「首元を狙えッ! 内側だ! 体の外側は外皮が硬いぞッ!」
「「「おうッ!」」」
咲が短剣を投げて意識を逸らす。その短剣もしっかり腹の部分に突き刺さっている。
隆がロングソードを振り上げ、首元を狙って斬り付ける。が、尻尾に阻まれる。
その尻尾にまたノワが噛みつく。
俺は聖属性魔法を、付与した剣を首に突き刺す。
堪らず、魔族は首を擡げて振り呻き声を上げる。
『煩いコバエ共だッ!!」
地の底から聞こえてくる様な、異様な雄たけびを上げながら大きな尻尾を回し体を持ち上げた。その力で部屋の壁や天井が崩れ出した。
「リュウ! 王を!」
「了ッス!」
咲と俺は、隆を援護しながら必死で瓦礫を避ける。隆は王を抱き上げそのまま飛んでくる瓦礫を避ける。
魔族は尻尾をグワンッと回して叩きつけようとしてくる。
ヤバイ、皆瓦礫を避けることで精一杯で防御が充分じゃない。
咲と隆が飛ばされ、自動展開するシールドに助けられる。だが、俺は尻尾に巻き取られてしまった。
「ク、クソッ!」
「「若ッ」」
「「ココ!」」
その時突然、ザンッ! と、その尻尾が切り落とされ俺は床に転がり落ちた。
「え!?」
「若ッ!」
「ココ!」
「大丈夫か!?」
え? 誰だ?
「ルティオ様! クララス様!」
って、誰だよ!?
「若、イーヴェル様のご子息ッス!」
ああ、母の兄の子だ。いつも朝早く出て帰って来るのも遅いから、俺は未だに会えていなかったんだ。
俺の寝顔を、ニヤけながらコッソリ見ているというキモイ従兄だ。その従兄2人が俺を庇うように剣を構えていた。
「お前は相変わらずだな」
「1人捕まってんじゃないぞ」
「え?」
「サキ、リュウ、あんだけ鍛えたのに情けねーな!」
「前世の方が強かったんじゃないのか?」
「「「えぇッ!?」」」
なんだ? 前世だと!? 意味が分かんねーぞ!
「話はあとだ! こいつをやっつけるぞ!」
「下がれ! 俺が魔法で攻撃するから、怯んだ隙にやっちまえ!」
「キリシマ、分かった!」
霧島がカッと口を開ける。ドラゴンブレスとはいかないが、魔法を放ったんだろう。口から白い光線の様なものを放った。
『な、な、なんだとーッ!』
魔族が怯んでいる。効いているぞ。
「ヤマト、サキ、リュウは下だ! 俺達は首を攻撃する!」
「「「おうッ!」」」
俺達は腰から出た2つの骸骨を、従兄2人は魔族の首を狙ってありったけの力で斬りつけた。
そして、ノワが大きな風の刃を飛ばし、そこに霧島がまた魔法の光線を放ち体を真っ二つに斬り裂いた。
――グアァァァァー!!
魔族は斬ったところから、黒い塵の様になって溶けながら消えていった。
「マジかよ」
「あっぶねーな」
「キリシマ、ありがとう」
「おうよ」
て、流してたけど『大和』って呼んだよな? 従兄の2人がさ。
「来てよかった」
「お前は昔から詰めが甘いんだよ」
「……て、誰だよ?」
思わず、ポカンと素で聞いてしまった。魔族を倒した事もあり、ちょっと気が抜けた。
「ガラスペンとかえんぴつとか、あれッ? て思ったんだ」
「決め手はあの文字の一覧表のイラストだ」
「は?」
「ああーッ!」
「うっそぉ!」
咲、隆、なんだよ!?
「若、分かんねーッスか!?」
「なんで早く言ってくれないんですかぁ!」
え? 咲と隆は分かったのか?
「偉大な姉を忘れたか? サクラだ」
「あんだけ鍛えたのにな、カスミだよ」
「えぇぇーッ!!」
忘れる訳ないじゃん。母の兄の長男、ルティオが咲良。前世の長女だ。
次男のクララスが次女の花澄だった。
てか、男じゃん! 前世は女だったじゃん! そこはいいのかよ!?
「まあ、慣れたな」
「おう、サクッとな」
「えぇ~……」
「「やぁまぁとぉ~!」」
2人に抱き着かれ、頭をグシャグシャっとされた。アハハハ。確かに姉貴だ。マジ、このノリは姉貴だ。
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