第234話 何処に行くつもり?

 そして、とうとうやってきた。晩餐会の日だ。

 朝から準備で大忙しだ。俺以外がね。俺は優雅にオヤツを食べている。


「お嬢、余裕ッスね」

「だってあたしはする事ないんだもの」

「もう少ししたらドレスを着つけますよぅ」

「お、おう」


 で、キリシマはどこに行った? まさかこんな当日にまで……


「ワッハッハッハ! 俺様サイキョー!」


 ああ、やっていたよ。晩餐会当日だというのに、じーちゃん達と一緒に鍛練擬きをやっていた。

 動いていないと駄目なのか? 今日位は、何か準備するとかさぁ。


「お嬢も準備ないっスね」

「あたしは待機よ」

「待機ッスか」


 そうだよ。なんせ、この後あのピラピラなドレスを着せられなきゃなんないんだ。


「着せられるって何っスか?」

「え、だってドレスなんて着たくないもの」

「ああ、だから『着る』じゃなくて『着せられる』なんスね」

「そうよ」

「お嬢さまぁ」


 ごめんって。ちゃんと大人しく着せられるからさ。バックレたりしないよ。


「当たり前ですぅ」


 はいはい。咲もさっきから忙しそうだ。どうした?


「エリアリア様とアンジェリカ様も来られるのでぇ」


 ああ、ドレス一式の用意ね。


「はいぃ。どこかに剣を忍ばせられないかなんて仰ってぇ」


 なんだと? そっちなのか?


「ドレスだから分からないとか仰るんですよぅ」


 いや、何を忍ばせるって?


「だからぁ、剣ですぅ」

「そんなの駄目よ」

「そうなんですぅ。ですからぁ、短剣で我慢してもらおうかと思ってぇ」


 いやいや、短剣だって駄目だろう。


「え? そうですかぁ? 短剣なら分かりませんよぅ」


 もう、うちの人達は皆脳筋なのか? 剣を持っていないと不安なのか? ちょっとズレてないか?

 そういえば……


「サキとリュウも隠し持っているんだろう?」

「ッス」

「うふふぅ」


 あ、怖い。聞かない方が良い事もあるね。聞かないでおこう。


「ココちゃん、何してるの? お風呂に入るわよ」


 と、ばーちゃんに言われた。こんな朝っぱらから風呂だって?


「え? お祖母さま、お風呂ですか? これから?」

「当たり前じゃない。ピッカピカに磨き上げてもらわなくちゃ。さあ、サキ。お願いね」


 えぇ~……俺いいよ。このままでさ。


「お嬢さまぁ、何言ってんですか。ほら、行きますよぅ」


 咲にガシッと腕を捕まれた。その後、俺は人形だ。されるがままだ。

 風呂に入り、咲に磨き上げられ髪には香油を塗られ、ばーちゃんが言ったようにピッカピカになって出てきた。


「ココ、鍛練はしないのか!?」


 風呂から出るなり、ユリシスじーちゃんに声を掛けられた。じーちゃんはまた鍛練していたんだな。汗だくじゃねーか。


「お祖父さま、汗が凄いですね。お風呂に入ったらどうですか?」

「うむ、そうだな!」

「ココ! 俺と手合わせしようぜ!」


 しねーよ。霧島もじーちゃんと一緒に風呂入ってきたらどうだ?


「おう、そうするぜ!」


 なんだ、ドラゴンも風呂に入るんだ。


「棲家には風呂なんてねーぞ」

「そうなの?」

「ああ。ドラゴンは風呂なんて入らねーんだ」


 やだ、ばっちい。


「ぶわぁか! ドラゴンは風呂なんか入らなくても自浄作用があんだよ!」


 なんだそれ?


「知らないのか? なんもしなくてもドラゴンの体表は綺麗なんだぜ」


 え、霧島いつも小汚いじゃん。


「小汚いって言うなー!」


 アハハハ。ほら、じーちゃんが行っちゃうぞ。一緒に入ってきな。


「おう」


 フラフラ〜と、飛んで行った霧島。じーちゃんも霧島もマイペースだ。いつも通りだ。


「お嬢さまぁ、ドレス着ましょうねぇ」

「えぇ? もう着るの?」

「はいぃ。後がつかえてますからぁ」

「姉さま達?」

「はいぃ」


 なら仕方ないな。


「お嬢さまぁ、これを太腿に巻いておきますぅ」


 咲がバンテージの様なものを出してきて、しっかりめに俺の太腿に巻きつけた。


「こんなの巻いてどうするの?」

「決まってるじゃないですかぁ」


 と、言いながら出してきたのはナイフだ。しかも数本。


「サキ、これって……」

「万が一の時には投げてください。手首を斬ったりするのも大丈夫ですよぅ」


 何が大丈夫なんだ。スローイングナイフ、所謂投げナイフだ。刃も持ち手の部分も薄くなっていて隠し持つのに丁度良い。


「マジ?」

「はいぃ。私はいつものマジックバッグになったポーチを持って入りますからぁ、いざとなったら剣を出しますぅ」


 なんだと!? 物騒だな。


「何が起こるか分かりませんからぁ」


 おいおい。まさか姉達はこれプラス短剣なのか?


「もちろんですぅ」


 そんな物騒な指示を受けながら俺はドレスを着た。


「お嬢さまぁ、髪も仕上げてしまいますからぁ」


 はいはい。座れば良いんだね。と、俺はドレッサーの前に座る。


「髪飾りに毒を仕込んでますぅ」


 なんだと?


「で、ペンダントには念の為毒消しも入れてますぅ」


 な、なんだと?


「例の下着とネックレスで状態異常は無効化されますから念の為ですぅ」


 それにしてもだ。重装備じゃねーか。


「まだまだ軽いもんですぅ」


 そうなのかよ。


「エリアリア様のオーダーに比べたらぁ」


 姉は一体どこに何をしに行くつもりなんだ?


「お嬢さまぁ、必ずおそばにいますからぁ」

「ああ、分かった」

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