第222話 温存

 クリスティー先生の見解では、1度全部解呪したのだったら暫くは大丈夫だろうという話だった。


『何故なら、魔法陣を描くにも相当の魔力が必要だからでっす』


 と、話していた。クリスティー先生は、相手がそうポンポンと魔法陣を描けないだろうと踏んでいるんだろうな。魔力量が膨大なクリスティー先生でさえ、魔法陣を作るのに何日も掛かるんだ。

 と、いってもクリスティー先生は、特大の魔法陣を幾つも用意してくれているらしい。

 それができるのだから、他にもできる人がいても不思議ではないと思うのだが、そうでもないらしい。


『エルフの中でも、自慢ではありませんが私は魔法に秀でておりまっす。その私と同じように、魔法陣を描ける人なんてそうはいません。エルフでも、長老夫婦位なのでっす』


 クリスティー先生、凄いじゃん。味方で良かったよ。本当にさ。


『全部出来上がったら、キリシマに送りまっす。少しずつ設置するより、一気にやってしまう方が良いでしょう』


 クリスティー先生は、一体幾つの魔法陣を用意しようと思っているのだろうか? ちょっと怖い。


「それまでは、こちらでもできる事をやっていこう」

「引き続き城の中の解呪と、近衛兵と接触したいな」


 グスタフじーちゃんと、ディオシスじーちゃんだ。2人が軍師みたいになっている。

 2トップが脳筋だからな、仕方ない。


「おうッ! 再度チャレンジだぁッ!」

「何度でもなッ!」


 ほら、脳筋だ。別の手も考えた方が良いんじゃないか?


「それとココちゃん、お店の方も協力してほしいわ」

「お祖母さま、あたしがですか?」

「ええ。王都のスイーツを食べ歩きましょうね。出したばかりのテイクアウトのお店も見て欲しいわ」

「はい」


 そんな事ならいつでも大歓迎だよ。てか、ばーちゃんもう出店していたのか。早いな。


「お祖母様、少し入ったところに新しいスイーツのお店ができていますよ」

「あら、エリアちゃん。そうなの?」


 姉は詳しい。食べ歩きでもしているのか? 王都の流行りは、学園の女生徒が作り出すとか第1王子が言っていた様な気がする。


「でも、ココちゃん。無茶はしないでね」

「アンジェ様、無茶なんてしませんよ」

「ココちゃんは、何が無茶と言うのか分かっていないわ」

「姉さま、そんな事はありません」

「分かっていない人は皆そう言うのよ」

「姉さま程じゃないです」

「あら、ココちゃん。そんな事を言うようになったのね。知らないうちに成長しちゃって」


 そんな事はないだろう。誰がどう見ても姉の方がお転婆さんだ。だって剣を投げて敵をブッ刺すんだからさ。


「お嬢……」


 なんだよ、隆。その目は。


「どっちもどっちッス」


 え、マジ?


「はいぃ」


 そんな事はないだろう。俺は大人しいぜ。超抑えているんだからな。


「ココには俺がついているから大丈夫だ!」

「キリシマ、本当に頼んだよ」

「おうよッ!」


 そんな事を話していた事もあったよね。うん。俺、ちょっと反省だ。分かっていなかったよ。

 何故かというと、ばーちゃんとスイーツの食べ歩きに出た時に簡単に拉致られたんだ。

 あっという間もなく、拉致られ馬車に押し込められたんだ。本当、声を出す事もできなかったよ。この鮮やかな手際はプロなんじゃねーか?

 今は馬車に乗せられ、どこかに移動している。猿轡を噛まされ、手も縄で縛られている。

 しくったぜ。この俺が、どうして拉致られたりしたんだよ。しかもまた咲と一緒だ。

 俺と咲が、ばーちゃん達とほんの一瞬離れた時だったんだ。

 ばーちゃんの店の外からテイクアウトのスイーツを見て、咲と一緒にあれは美味しそうだとか楽しんでいたんだ。

 2人同時に後ろから口を押さえられ、がっしりと抱きかかえられた。もちろん、声を出そうとしたし、魔法でやっつけようとも思ったさ。

 でも、耳元で囁かれたんだ。


「夫人やお付きの者を、殺されたくなかったら大人しくしろ」


 てな。ベタだ。超ベタだよ。こんな事があるんだな。

 咲を一緒に拉致ったのも、女だからと思ったんだろう。明らかに選択ミスだ。

 どうせなら、ばーちゃんにするべきだったんだよ。だって咲は、うちのメイドの中でも最強だからだ。

 それに、敵は知らないだろう? 俺には必殺、念話ってスキルがあるんだ。いつでもキリシマは俺の心を読んでいる。きっと今もそうだろう。


『あたぼうじゃねーか。ココ、お前あんだけ気を付けろって言われたのによぉ』

『仕方ないじゃねーか』

『思いっきり、足を踏ん付けてやればいいんだよ』


 あ、その手があったか。超原始的じゃん。


『今更だな』

『煩いわよ』

『まあ、俺様が付いているから安心しな!』

『居場所が分かるの?』

『あたぼうじゃねーか。もうじーちゃん達が動いてるぜ』

『でも、敵に見張られているかも知れないわよ』

『おう、それも踏まえて動いてるぜ』

『そう、頼んだわ』

『ココは大人しくしときな』

『はーい』


 な、最強の助っ人だよ。多分な。

 とにかく、俺は拉致られてどこかに連れて行かれるらしい。これって、もしかしたら敵の懐に入り込めるんじゃないか? 咲、もしかして態と捕まったか?

 馬車は王都の石畳の上をガタガタと進んでいる。どこまで走るんだろう? と、思っていたら以外にも直ぐに止まった。


「おい、出ろ」


 へん、なんだよ。偉そうによ。俺、暴れてもいいならやっちゃうぜ。喧嘩売ってきたのは向こうだからな。やっちゃうぞ。


『ばか、ココ。だから暫く大人しくしろって言っただろうが!』


 はいはい。霧島に叱られちゃったよ。

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