第217話 司教様の兄弟

 霧島がトカゲの様なゴツゴツとした手を出して、大きな円を描いただけでこの場にいた人達が皆ブルルッと震えたんだ。

 そして、何もなかったかの様に皆其々お祈りしていたり、外へ出て行ったり。

 そして、魔法陣も見事に全部パキンッと消えた。


「信じらんない」

「お嬢さまぁ、キリシマちゃん凄いですねぇ」

「ね、意味が分かんないわよ」

「アハハハ、流石ドラゴンッスね」

「どうよ、俺様を保護して良かっただろうよ」


 何言ってんだ? そんなの力なんて関係なく保護するだろうよ。


「ココ、そうか?」

「そうよ。力なんて関係ないわ。キリシマはキリシマよ」

「ココー!」

「ああもう、大きな声を出すんじゃないわよ」

「あ、すまん」


 でもさぁ……俺、いらなくね? 霧島だけで充分じゃね?


「ココ、ほら奥から偉そうな人が出てきたよ」

「あ、ちょっと深そうですね」

「倒れたりするかい?」


 これは、じーちゃんだ。少し深いと俺が言ったから、解呪したら倒れたりするかと聞いてきたんだ。


「いえ、フラッとする程度だと思いますよ」

「じゃあ、やってしまおう」

「はい」


 俺はまた手でピンッと弾く。少し多めに魔力を込めた。

 すると、やはりフラフラッとよろけた。だが、それだけだった。ちょっと頭を振ったりしていたけどな。大丈夫だ。


「辺境伯様のお身内の方ですか?」

「はい、そうです」

「よくお越しになりました。どうぞ、まずはお祈りを」


 何に祈るんだよ。俺、神を信じてねーぞ。なんせ、前世は若頭でブイブイ言わせていたからな。


「お嬢、関係ないっス」

「そうですぅ」


 そうかよ、すまん。

 皆で中央を進んで祭壇の前で跪く。俺もそれに倣ってお祈りポーズだ。

 すると……頭の中に映像が流れた。


「辺境伯家の皆のお陰で私達は助かったんだ」


 これは、第1王子か?


「そうです、私も命を何度も救われた!」


 ああ、これは第3王子だ。


「私もだ。婚約者も救ってもらった」


 これは第2王子だ。

 王子3人が訴えている前にいるのは……第1王女か?


「ココ……ココ!」

「え……あ、兄さま」

「ココ、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」


 なんだ? 俺、寝てないぞ。起きているのにどうして例の夢みたいな映像を見るんだ?


「お嬢さまぁ」

「大丈夫よ」


 それより、今は目の前の事をだ。

 俺達が立ち上がるとさっきのお偉いさんらしき人物が声を掛けてきた。


「せっかくですので、ご案内いたしましょう」

「ありがとうございます。あの、あなたは?」

「申し遅れました。私は司教のルーカスと申します」

「辺境伯領の司教様をご存知ないでしょうか?」

「ああ、リーヌスですね。私の弟です」


 なんと!? あの司教様のお兄さんだった。てか、俺は初めて知ったよ。あの司教様の名前をさ。


「こちらと連絡が取れないと心配しておられました」

「え? そんな事は……え?」


 片手で頭を押さえている。混乱してきたか? 記憶が曖昧なんだろう。


「司教様、宜しければお話できませんか?」

「え、ええ。詳しくお伺いしましょう。どうぞ、こちらへ」


 と、案内された小部屋。ここも入る前に解呪だ。ドアの上下にしっかりと魔法陣があった。

 これってもしかしたら城よりも多いんじゃないか? どうなってんだ?

 そして、霧島も何も言わなくても指を出して部屋を解呪している。


「内密にお願いしたいのですが」

「大丈夫です。私以外の誰も聞いてはおりません。この部屋はそういう部屋です」


 とは言うが。


『キリシマ、結界張れる?』

『おうよ。まかせな』


 と、バッグの中から指の先だけ出してフイッっと宙で回した。普通では見えないが、透明の結界に包まれた。

 よし、これで大丈夫だと俺はディオシスじーちゃんに向かって頷く。


「先ほど、ふらつかれていたでしょう?」

「ああ、少し眩暈がしまして。なんともありませんので大丈夫です」

「いえ、実はあの時にこちらのココアリアが解呪しております」

「か、解呪ですか?」

「はい。実はその件で王都に参ったのです」

「え、いえ。そんな……解呪など……」

「にわかには信じられないでしょうが。では、どうして弟さんと連絡が取れなかったのでしょう?」

「それは……その……実は記憶が曖昧で……そんな筈は……」

「その解呪とは精神干渉なのです」

「精神をですか……!?」


 と、今の状況を話した。城の状況、そして、王都の状況。王と王妃の安否が不明な事。王子殿下を解呪した事。じーちゃんが丁寧に説明した。


「と、とんでもない事にございます……!」

「はい。事情を弟さんはご存知ありませんが、連絡が取れないので心配されているのでしょう」

「担当の者に確認致します」

「いえ、ご内密に」

「え? では、どうすればよろしいのでしょう?」

「この大聖堂に居られる方々も精神干渉を受けておられます。まず、正面入り口に大きな魔法陣がありました。それだけではありません。聖堂の中にも幾つもありました」

「何てことを……一体誰が何の為に……!?」

「それが全く分かっていないのです。ですので、ご内密にお願いします。解呪した事を悟られませんように」


 まだ司教様は信じられないのだろう。複雑な表情をしている。


「とても直ぐには信じられる事ではありません。ですが……私自身、先ほどふらつきましたが……それからは何と申しますか……頭がスッキリした様に感じます。弟の事もそうです。どうして、今まで気にならなかったのか不思議でなりません」


 精神干渉とは、そういうものなんだ。今まで解呪した人は皆口を揃えて頭がスッキリしたと言う。

 それまでは靄が掛かったようだとも言った。

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