第9話 王子担当

「ロディ、どうして分かった?」


 ロディとは2番目の兄、ロディシスの事だ。


「父上、御側室は亡くなられた第3王子殿下の母君だけです。それも、王が望まれ大変なご寵愛を受けていらしたとか。それに、第3王子は幼い頃からよく出来た聡明なお方だと聞いていました。そんな王子殿下を御側室様が亡くなられて王妃殿下は放っておけなかったのではないでしょうか。兄王子殿下にしてもそうです。目の上のたん瘤ですよ」

「その通りだ。まだ首謀者が誰なのかはハッキリとはしない。だが、だからといって冷遇し迫害して良いものではない。王子殿下には変わりない。それ以前に1人の人なのだ」

「あなた、どうなさるのですか?」


 そうだよ。そのままにしておけないのはよく分かった。だからと言って、連れ帰って来てどうすんだよ。王子だぜ。そこら辺にいる子供とは違うんだ。どんな無茶を言ったんだ?


「ロディ、ココ。お前達、気を掛けて差し上げなさい。特にココ。今はエリアもいない。お前が1番歳も近い。分かるな」


 いや、王子殿下って何歳なんだよ。ロディ兄だって同じ位の歳の差なんじゃないのか?


「ロディは大人びているもの。クールだし。ココなら歳下だし、何も考えてないから気晴らしに丁度良いわね」


 おい、母よ。何も考えてないとはどうなんだ? 俺だって、色々考えてるっての。


「ココ、いいわね?」

「え……はい、母さま」


 母の目が怖くて嫌だなんて言えねー。


「先ずは体力を戻して頂く事だ。満足に食べていらっしゃらなかったんだろう。痩せ細っておられる」

「そうね。お可哀想に……」


 そうか、確かに細かったな。細いと言うよりガリガリだった。それに、王子殿下なのに質素な身なりだった。薄汚れていたよな。


「聡明で、控えめなお方なんだ。城でもじっと耐えておられた。お可哀そうに。ココ、配慮するんだぞ」

「……はい」


 なんだよ、俺ばっかさぁ。俺、王子担当に決まりかよ?


「さぁ、あまりお待たせできないわ」


 俺達は、王子殿下の待つ応接室へと移動した。


「お待たせして申し訳ない。王子殿下、紹介しましょう。我が家の子供達です」

「初めてお目に掛かります。次男のロディシスと申します」

「次女のココアリアです」


 俺はロディ兄と一緒に頭を下げる。


「フィルドラクスです。どうか、気楽にして下さい。これは、護衛のアルベルト、メイドのソフィリアです。世話になります」


 おや、王子殿下なのにえらく丁寧だな。それに、全然偉ぶってないな。


「フィルドラクス殿下、そう畏まらないで下さい。我が家だと思ってお過ごし下さいませ。先ずは、体力を戻す事に専念致しましょうね」

「夫人、ありがとう。インペラート辺境伯が助け出してくれなかったら私の命は先短いものだっただろう。心から感謝しております」


 そんなになのか!? 何て事すんだ! 王子殿下は何歳なんだ? まだ子供じゃないか。酷い事をしやがる。


「兄さま、ロディ兄さま」


 俺は、コソッと兄に話しかけた。


「どうした?」

「王子殿下はおいくつなんですか?」

「ココより5歳上の13歳だ」

「じゃあ、ロディ兄さまの5歳下ですのね」

「そうなるね。なのに、あの細さだ。身長も低い方だろう。まともに食べさせてもらえなかった様だと父上が言っていたから栄養が足りていないんだろうね。成長期なのにね」

「まあ、なんて酷い事を……」

「ああ、そうだね」


 そうだよ。いくら側室の子だからと言ってさぁ。やる事が大人気ないじゃん。大の大人がこんな子供を虐めてどうすんだよ。腹立つなぁ。カチコミかけちゃうか? 行っちゃう?


「ココが怒る事じゃないからね」

「兄さま、でもムカつきますわ」

「ココ、そんな言葉を使っちゃ駄目だよ」

「はい、ごめんなさい」


 兄がまた俺の頭を撫でる。それを見ていた王子が……


「辺境伯の子供達は仲が良いんだね。羨ましい」

「まだココアリアの上に、もう1人女の子がおります。今は王都の学園の寮に入っております。王子殿下。殿下をお連れしたからには、私の子供達と同じです。体力を回復されたらしっかり鍛練もして頂きますぞ。私の事はアレクで構いませんぞ」


 おいおい、父よ。それはないだろうよ。


「ありがとう。では、アレク殿、鍛練をご一緒できるのが楽しみです」


 え? やる気なのか? 父の鍛練は死ぬぞ? 俺は今でも軽く1度は必ず死ぬぞ。


「アハハハ、それは頼もしいですな。1番下のココと一緒に鍛練なさるといい」

「え? こんな幼い女の子なのに、鍛練されているのですか?」

「うちはやりますぞ。なんせ、辺境という土地柄があります。危険がすぐそこにあります。自分の大事な物を守れなくてどうすると教えておりますからな」

「ココアリア嬢、宜しく」

「は、はい。宜しくお願いいたします」


 なんだよ、やっぱ俺が王子担当じゃん。ズリーよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る