第35話 惨劇と逆転


 「トウカ、生きていたのか!」


 俺は頬を濡らしながら彼女に抱き着く。


 「大丈夫だよアツヤ、落ち着いて」


 彼女は優しい声でそう言って俺の肩を掴む。 そして、俺の気持ちが収まった後に状況の説明を始めた。







 俺が時空龍に会いに行っていた日から十日後、彼女は自室で目が覚めたそうだ。


 そして、直ぐに学園に異変を感じて歩いて回った結果。


 「…その魔族が言っていた話は本当みたい」


 「そ、んな…ぉうぇぇぇ」


 俺は抑えきれない吐き気で、思わず吐しゃ物を地面に出してしまう。


 「…でも、アルトが見つからない様にアツヤの部屋へ残していたこの機械。 この中にある情報があればなんとかなるかもしれない」


 「…情報?」


 「えぇ、アツヤの空間魔法を応用した時を超える魔法についての情報」


 俺は思わず体を乗り出し、彼がメモを記録していたその機械に魔力を流す。


 (確か、前にこの機械の使い方を教えてもらったっけ…)


 俺は使い方を思い出しながら、アルトが死の直前に残したメモを探す。


 (こ、これか)


 すると、そこには死ぬ間際に彼が偶然創り上げた生物の時間を止める魔道具の所在。 それと、未完成だが時を超える方法を記したメモがあった。


 「確かに未完成だがこの理論を使えば────足りない部分は時空龍の魔法を応用していけるはず!」


 だが、俺の現在の魔力じゃ戻れるのはあの皇子とトウカが決闘した日までだ。俺は空間魔法でアルトが残した魔道具を掴み、トウカに渡す。


 「時間が無い! 俺が今からこの空間を過去と繋げ、決闘前のトウカを此方の世界に呼んでお前を始まりのあの日へ送る!」


 「このドライバーみたいな形をした魔道具は何に使えばいいの?」


 「皇子との決闘を避けて、学園の何処かに居るオルフにそれを突き刺せ!」


 「分かった、これをアイツに突き刺せばいいんだね!」


 俺はアルトの情報を頼りに理論を組み立て、そのイメージに沿って魔力を動かす。


 そして奇跡的に、仮説通りなら時すら超える空間魔法が発動した。


 「あれ、此れって何の魔法? …私がもう一人?」


 「任せた、トウカ!」


 「任せて、全て解決してくるから!」


 俺は彼女に願いを託し、トウカはそれに対して笑顔で答えた。




 …そして、俺は彼女がその転移門を潜った後、ボロボロの体で必死に維持していた魔力操作を止める。


 (もう、体が限界みたいだ)


 「え、アツヤどうしてそんな体に! な、なんで!? お願い死なないでッ!」


 「…大丈夫。 全部何とかなる」


 俺は泣きじゃくる彼女に笑顔を作って言った。


 「ほら、何とかなったみたいだ」


 目の前が、世界全体がが眩しい光に包まれる。


 「そっか…俺って────」






 「皇子の護衛が漸く終わりか」


 俺はアレックスやメイベル、それにトウカ達と集まりお疲れ会みたいなことをしていた。


 「まさか、あの寝坊助オルフが魔族の四天王だったとはな。 …ありがとな、トウカ」

 

 「いいの、大丈夫だから」


 俺は部屋の隅で固まったままの魔族、別の世界線で惨敗した人形面の魔族を眺めていた。 如何やら知らないうちに彼女がオルフを無力化してくれていたらしい。


 「まあ、それも含めてこの一か月は色々あったな。 アツヤが隠して飼っていた邪龍が生まれたり、皇子が小さい頃は────」


 「だな。 私としては────」


 アレックスとメイベルが感慨深そうにこの一か月の出来事を思い出していた。


 「ねぇ、アツヤ」


 「何だ?」


 

 「困ったことがあったら何でも言ってね。 もう、悲しい思いはさせないから!」


 「…何言ってんだ?」


 なんだか最近のコイツは少し過保護な時がある。

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