売れない俺と、人気者のお前で始める同棲生活

カイザ

人気者の幼馴染

『くらえ、ジャッチメントスラッーシュッ!!』


 私の剣に全ての魔力を込めた一撃は魔王を撃ち、空をも真っ二つに斬り裂いた。


『んなっ、こ、この、わしが、このワシがぁっーーー!!』

『私が、………いや、仲間達と共にお前を倒したのだ!!』

『………そうか、これが……、絆の力と言う物か………!!』



 ***


 キリのいい所で、書くのやめ、俺はスマホから手を離し、ベッドに倒れ込む。うむ。我ながら会心の出来ではないか?


 俺、中村優は高校一年生ながらにして、小説家である!!


 ……小説家と言ってもweb小説だけど。


 俺は昔から物語を作るのが好きだった。幼稚園から、小学生の低学年までおもちゃ達集め、自分の頭の中で物語を作り、それに沿っておもちゃを動かしてよく遊んでいた。


 その創作好きが今に続いて小説という形で続いている。


 ……正直言って、俺の作品は人気が無い。俺が今投稿している作品『ジャッチメントソード〜神々に選ばれた私は裁きの剣で敵を薙ぎ払う〜』はもう既に200話を迎え、クライマックスも近づいてきているのに、ブックマーク数は5。pv数は1日に10を越えていたらいい方だ。


 人気作家になって書くだけで飯を食えるようになりたい。そう思うが、あくまでもこれは趣味。俺が満足出来たらそれでいい。そう思っていた。


 ………実際に投稿され、pv数という、誰が読んだという証拠を一度見てしまうと、期待は膨らみ、以前のようには満足出来ず、満たされないようになる。


 ……悔しい!なんで俺の作品より、こんな作品の方が人気なんだ!!そんな事を思ったものは数えきれない。

 きっと、その理由を知らないから、俺の作品には人気が出ないんだろうな……。


 だが、今回の話は違う。会心の出来だ!!今まで書いてきたものの中で最高の出来だ!!


 これを投稿したらきっと、きっと……、人気が爆発するはず…………。


「はぁ……、夢みんなよ。」


 深いため息を吐き、俺は目を閉じる。


 今までの中でいい出来でも、最新話だぞ?200話以降の話だぞ?こんな後じゃ、新規を呼び込むのは絶望的だろ。それに、会心の出来でも読まれなかったら意味ないだろ。


 ……寝ろ寝ろ。明日も学校なんだ。今は学業に専念しないと駄目だろ。


 逃げてるんじゃない。現実を見るんだ。



 ***


 俺には幼馴染がいる。幼馴染の名前は姫乃 雫ひめの しずく。雫とは幼稚園からの付き合いで家も割と近い事もあってよく遊ぶ事もあった。


 あいつは親しみやすい性格っていうか……、誰とでも気軽に話せて、その上美人だから学校の人気者。かと言って俺は別に雫の事は別に好きでも何でもない。ただの幼馴染であり、古くからの友人だ。


「みんなー!おはよー!!」


 教室に入ると、持ち前の元気でみんなに挨拶をして、コミュニケーションを始める。


 よくもまぁ、あんなに堂々と挨拶が出来るもんだ。俺なら恥ずかしくて到底出来ない。

 ……いや、もし仮にやったとしても「はっ、いきなり何、おかしくなったの?」と白い目で言われるだけなんだろうな……。


 あいつが持つルックスと内面。それが合わさっているからこそ、あそこまでの人気を確立する事が出来るんだろうな。


 それに比べて俺は………。勉強は出来ないし、運動はそこそこ。コミュニケーション能力もあまりいい方ではない。


 人気の出ない俺の作品と人気の作品達。

 何も持ち得ない俺と全てを持ち得る彼女。


 どうしても重ねてしまう。


 関係ないだろ。そう言い聞かせ、その度に俺は俺に嫌気がさす。


「おはよ、優。」

「………あぁ。」


 毎朝のように俺にも挨拶をする雫に小さな声で返事して、早くどっか行けよと心の中で思い続けていた。


「………。」


 いつもなら、すぐに違う所に行くはずなのだが、今日は長いな。それに俺を見る目も何だか………。


「んだよ。」

「……別に。」


 雫はそっけない態度で違う所へ向かった。………何なんだよ。よくわからない奴だな。


 まぁいいか。それよりも続き書くか。


 スマホのいい点はどこでも小説を書けるという事だ。学校でも、家でも好きな所で好きなタイミングで書ける。やっぱりそれが魅力的だよな。


 そう思いつつ、サイトを開いて小説を書こうと思っていたが。


「よ、優。今日も一人だな。」


 俺の友人である瀬田 彰人せだ あきとが声をかけて来た。最後の一言は余計だが。


「別に。一人の方が気楽だからいいんだよ。」

「そんな事言ってるから、誰とも付き合えないだぞ?」

「興味ない。うるさい。」


 こいつ。彰人は彼女がいる。それをいい事に俺に女がいないとかどうとかとネタにしてくる。


「本当に興味ねぇのか?……優は姫乃と幼馴染なんだろ?何で行かねーんだよ。」

「……あいつは幼馴染で、異性として見れないから。他に理由がいるか?」

「そんでも、可愛いとは思わねぇのか?」

「別に。見慣れた顔だし、何とも思わない。」

「………いいなぁお前!見慣れたって……、いいなぁお前ー!!」


 彰人は羨ましそうに、そして妬みの籠った表情で俺の肩を掴みゆらゆら揺らしてくる。引き離そうとするが、こいつの力が強くて離せない!


「は、離せよ!お前彼女いるだろ!?」

「それとこれとは話は別だー!」

「別じゃねーだろ!おま、これ彼女に言うぞ!」

「–––––それだけは勘弁してください。ほんっと、今度こそ殺されますから。」


 先程の拘束が嘘のように解かれ、一秒にも満たない速度で完璧な土下座を見せる。彰人がこうしてしまうほど、こいつの彼女は恐ろしいのだ。


 とまぁ、そんなやりとりをしていると、ホームルームのチャイムが鳴り、みんな自分の席へと戻って行く。


 ……その間、雫は静かに俺を見ていたのを知る事は無かった。







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