第27話 塩もいいけどやっぱタレだね

「いやまぁ……彼らも生存競争をしているだけで、べつに悪という存在ではないのですが……」


 オラオラオラとオラついている主人に、一応説明する彭侯ほうこう

 鳥たちも戸惑いつつも、どこか反抗的に羽ばたいている。


「わかってるわよ。でも強いんだったらほかでも餌は採れるでしょ? だったらこっちが遠慮してやる言われはないってことよ」

「……ようするに良心の呵責に苛まれないので、やりやすいと?」

「翻訳ご苦労。そういうことよ」

「……まぁべつに良いですけど……。そういうたわむれも強者の特権です」

「それはそれでヤな言い方ね?」

「失礼いたしました」


 さして悪く思っていなさそうな、優雅な姿勢で頭を下げる彭侯。

 そろそろ全部刈り合わる。

 大豆も、ツタの別班が根こそぎ収穫してきた。

 よしよし、これで冬も主食に困らないぞと安心したところで、


 ――――ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!!!!


 突然、付近に地鳴りと地響きが鳴った。


「おっと……出てくる気ですかね?」


 落ち着いたようすで沼を見つめる彭侯。

 水面みなもの中心に、大きな渦巻きが発生している。


「あ~~~~……なんだっけ? 大鰻鯰おおうなぎなまずだっけ?」

大鯰鰻おおなまずうなぎでございます弥生様」


 ごごごごごごごごごご――ジュゴバァーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 渦巻きはどんどんどんどん大きくなって、やがて吹き荒れる竜巻のように沼の水分を巻き上げて巨大な水柱を作った。


「私にビビって隠れてたんじゃなかったっけ?」

「餌場を荒らされている怒りが本能を超えたんでしょう。所詮は野蛮な魔獣です」


 ばしゃぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!


「グゥオオォォォオオォォォオオォォォオオォォォォォォオオオォォッ!!!!」


 凶悪な唸り声、爆発したように水柱が弾ける。

 中から現れたのは二人の予想通り、巨大な鯰、いや鰻?

 それらを足して二で割って、さらに恐竜のように大きくした。

 そんな感じの魔獣。


 ぐごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。


 殺気に満ちた赤い目。

 圧倒的捕食者のオーラをまとい、弥生たちを威圧的に見下ろす。

 その後ろには『兄貴やったってくださいよ』と言わんばかりにピラニアバードたちが回り込んで羽ばたき、同じく殺気を放っている。


「ほぉ? やる気かね?」


 ボキボキと指を鳴らす弥生。

 彭侯は半目開きで三歩後ろに下がった。

 そして持参していた調味料を確認。


「……お昼は焼き鳥と蒲焼にしましょうか」





「う……うんまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」


 仕留めた大鯰鰻おおなまずうなぎとピラニアバード。

 それぞれさっさとさばかれ、下味をつけられて、いまは仲良く焚き火の上でこんがり焼けている。


 醤油、酒、水飴。これだけ塗って焼く。

 表面がちょっと焦げたらまた塗って焼く。


 扇子のように広げた串に刺され、ホックホクに重ね焼きされた大鯰鰻おおなまずうなぎの身はとっても柔らかく、ぷりぷりジュ~~~~スィ~~。


 辺り一面は岩の槍が無数に突き出て、まるで地獄の針山のようになっていた。


「さて、これどうしましょうかね……」


 ひときわ大きな岩槍に串刺されている大鯰鰻おおなまずうなぎ

 肉の一部(おいしい部分)はカットして袋に入れたが、とても全部は持って帰れそうにない。

 ピラニアバードたちも小さな槍に貫かれ、まだまだ無数に残っている。


「ここらへんって猫人の縄張りでしょ? だったら置いておけば?」

「そうですね、そうしましょうか」


 猫人をはじめ、亜人が飢えているのはこの付近の魔獣が彼らより強いからである。

 なぜそんなところに住処を作っているのか……いろいろ事情はあるのだろうが、競争力のない彼らは毎年ギリギリの生活を送っているようだ。


『持ってっていいよ。喧嘩しないで分けなさい』


 大きな木看板にそう文字を掘って、沼の入り口に刺しておく。

 悪戯心いたずらごころで龍のうろこも貼り付けておいた。


「……大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。どうせ今の時代じゃ価値なんてわかんないって。でも魔除けの効果もあるみたいだし。いちおう私なりのエール」


 10万年以上前、魔法全盛の時代。

 黄龍の鱗は伝説のアイテムとしてとても貴重に扱われていた。

 宝石として、錬成素材として、そして何より信仰の対象として。

 新陳代謝で自然にゆるくなってしまったものが、飛行中とかに抜けてしまい、それが地上で拾われてしまってるのだが、人にしてみればそれは正しく神の贈り物。

 それを知ってから弥生はなんとなく自分で抜いて(毛づくろい的な)取っておくようにしている。


「……魔除けというか、膨大な魔力が詰まっているので、それを恐れて魔物が避けているだけなんですがね」

「え、そうなんだ? まあどっちでもいいじゃん。今日はもう帰ろうよ。そんでまた明日は別のところを探そうよ」

「そうですね。もう袋もいっぱいですし」


 弥生は龍の姿に戻ると彭侯を背に乗せ飛び立った。

 その背中を草むらに隠れつつ見送る数十匹の猫たち。


 にゃ~にゃ~と、思い思いの鳴き声で感謝の気持ちを送っていた。

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