第2話

 私の学校生活はいつも一人だ。


 教室の一番後ろ、窓際隅の席。そこが私の特等席。

 誰からの視線も受けず、誰にも話し掛けられない。

 まさしく孤独を体現していると自負していた。


 いつも誰にも気が付かれないうちに席に着き、愛読書『豆腐メンタルブレイカー』と言うラノベを読んでいる。

 このラノベの主人公は私と似た性格なのに、何故か悉くで目立って、注目を浴び、友達もたくさんできている。

 今では八巻目。もう五人もの友達ができてきた。羨ましい限りだと、私は心にヒビを入れながら読み進める。


「いいな。こんな風に私も友達ができたら……って、夢見てるのかな、私」


 私なんてクラスでも全然目立たない。

 日陰も日陰。クラスの端っこ。最底辺ヒエラルキー。

 そう呼べるような、むしゃくしゃした歪み合いは、立見原高校にはないけれど、私自身はそう思っていた。


「配信も上手くいかない。ダンジョンだったら、少しは知ってくれる人もいるかと思ってたけど……」


 私は少しだけダンジョンに潜ったことがある。

 その時の経験から、少しくらいなら上手くできると思ってた。

 けど実際には失敗で、登録者数も十八人。

 同接で観てくれる人達が限界で、伸び悩んでいた。


「ダンジョン配信……このまま続けてもいいのかな」


 不安がいっぱい溢れ出す。

 朝から暗い気持ちになる私だったけど、突然教室の入口から明るい声が聞こえた。


「みんなおはよう〜!」


 ふと顔を教室の入口に向けると、そこにはクラスメイトの一人が居た。

 綺麗で艶のある長い髪を腰まで伸ばし、長身でスラッとしているからスタイルは抜群。

 目も大きくて、みんなからの注目の的になる。

 それがこのクラスの、いや学年一の美少女、瀬戸内麗翼せとうちうるはさんだ。


「麗翼ちゃん、この間の配信観たよ。すっごく盛り上がってたね」

「ありがとう。私も上手くできたと思ったんだ」

「踊ってみたでしょ。練習結構したんじゃない?」

「うん。空き時間に練習したおかげだよ」

「ダンジョン配信も凄く良かった。こう、背中から? パーッと、出す感じ!」

「そうだよね。私の能力かなり恵まれてたみたい。おかげでこの間は逃げ切れたよ。ふぅ、怪我しなくて良かったー」


 瀬戸内さんは明るく振る舞っていた。

 周りには友達もたくさんいた。

 人の目を惹き寄せ、中心の的になる。そんな才能を持っていた。


 いいな、と私は思った。

 だけど同時に大変かもしれないと思った。

 人の目を惹く。それだけ注目を浴びてるからこそ、友達も多くて配信も成功して、今や百万人もの登録者を有していた。

 けれどその分きた気に応えないといけない。

 私にはそんな気がしてならず、腕をサワサワして胸が締め付けられた。


「ん?」

「あっ!?」


 すると私はついつい瀬戸内さんと目が合ってしまった。

 完全に油断していた。

 人の波を掻き分けて、特に用があるはずもない私のところにやって来てしまう。


 どうしようどうしよう。私は焦った。プチパニックだった。

 頭の中が蒸発しそうになる。

 目が右往左往すると、目の前には瀬戸内さんが居た。


「おはよう飛鳥さん」

「お、おは、おはよう。えっと、瀬戸内、さん」

「うん、瀬戸内さんだよ」


 瀬戸内さんは笑顔で挨拶してくれた。

 私、飛鳥進夢あすかすすむの名前を覚えてくれていた。

 高校入学してからまだ一ヶ月ちょっと。それなのにこんな会話もままならない私の名前を覚えてくれていただけで、嬉しさが込み上げ涙が出そうになる。


「ど、どうしたの? 急に泣きそうになって」

「えっ、そ、そんなことない」

「そんなことあるでしょ。なにかあった?」

「う、ううん。なんでもないよ。なんにもないよ」


 そうだ。悲しいことなんてない。

 私はいつも一人で、ひとりぼっちで、それ以外に悲しいことなんてないし、誰かに迷惑を掛けてもいない。

 瀬戸内さんは優しいから、私に優しく接してくれる。

 それが如何してもむず痒くて仕方なかった。


「あっ、また泣きそうになってる。もしかして、私のこと怖いのかな?」

「そ、そんなことないよ! 瀬戸内さんはとっても優しくて、眩しくて……私の手なんて届かない場所にいる人」


 私はそう答えた。

 そうだきっとこれは単なる気まぐれだ。

 それでも話せただけで嬉しい。でも上手く話せなくて、逆に瀬戸内さんに迷惑を掛けちゃったかも。

 豆腐な私のメンタルが持たない。苦しくて仕方ない。


 あー、溶けてなくなりたい。豆腐みたいに崩れたい。私はそう思った。

 しかし瀬戸内さんは私の手をソッと取り、「なに言ってるの?」と馬鹿正直に当たってくれた。


「手が届かないところなんてないでしょ?」


 ニコニコした笑顔、眩しすぎて直視できない。

 今日も瀬戸内さんは輝いてる。

 視界が真っ白になり、温度差を急激に感じた。

 やっぱり、私と瀬戸内さんは月とスッポンだ。そう感じてしまい、精神がフラリとした。



 キーンコーンカーンコーン!

 キーンコーンカーンコーン!



 そうこうしているとチャイムが鳴った。

 みんな一斉に席に着く。


「あっ、チャイム鳴っちゃった。それじゃあね、飛鳥さん」

「は、はいっ!」


 変な声で返事をしてしまう。

 「あはは」と笑ってくれた瀬戸内さんの表情が眩しい。

 何処までも明るい人。私はそう思い、瀬戸内さんがみんなを惹きつける理由が分かった気がした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【あとがき】


 作品の概要として、成長ものではあります。

 書くのがとても大変で投稿頻度は遅めになります。加えて、ネガティブ表現も強めです。

 それでもよければ星・感想・コメント・ブックマークをいただけると励みになります。



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