第155話 桃子猫の窮状


彼女とはそれ以降会うことはなかった。

その後、投資が成功して家が裕福になった。

大人っぽさを学んだ私は、

急に環境が変わっても余裕そうに

振る舞うことができた。

裏を返せば、四六時中窮屈の始まり。

人脈を広くしても、

家を広くしても息苦しさが続いた。

そんな折、VRゲームに出会った。

ゲームでは大人っぽく

振る舞う必要なんてなくて、

大好きな猫にだってなれた。

そこには窮屈さなんて無かった。

新しいゲームを買った。

ドッペルフリーというゲームで、

自分の好きな猫になれる神ゲーだった。

そしてランさんと出会った。

ランさんのアバターは、あの人にそっくりだった



「結局私は、ランさんが好きなのか

あの人が好きなのか分からなくて…」


また顔に涙が滲んだ。

落ちる前に拭いてやる。

施す側ではいるが、正直私も動揺している。

人の扱いに手慣れていたので、

恋愛経験豊富くらいに思っていたが、

まさか初恋の人とそっくりだと言われるとは。

悪言い方をすると、

代替品として見られたということになる。

いや、聞く限り性格は

似ても似つかないような気がする。

まあ私みたいな喪女は、

多少の補正がかからないと

人に好かれないということか。


「多分すぐに結論は出ない問題だと思います。

それで、今まで連絡がつかなかったのは

どうしてですか?」

「最近気が抜けてるからって、

ネット環境のないところに閉じ込められてタ」

「それって…監禁ですか?」

「どっちかって言うと軟禁カナ?

欲しいものがあったら

持ってきてくれたりするシ」


軽く言っているが大方の

人権は無視されている状況。


「誰に閉じ込められてるんです?家族?」

「ウン、ランさんに投資のこと教えたら

怒られちゃった」

「投資って…投資家であることくらいしか

知らないですよ」

「会って間もない人に教えるなって、

情報漏洩って言われタ」

「それは…そうかもしれませんが」


だとしても軟禁はやりすぎだ。


「それが嫌になってここに?」

「ウーン、ちょっと違う。

投資グループのメンバーと

お見合いさせられまくって、

ランさんのこともあるから断り続けてたら、

結婚させられそうになってここに来タ」

「荷物は…?」

「ン」


厚めの財布が差し出される。

これで海を渡ってきたというのか。

無謀というかなんというか。

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