第153話 雨降って地乾かす


「桃子猫さん…?」


女の人がその言葉に反応し顔を上げた時、

その面影が見えた。


「突然どうして…いやそんなことより、

どうぞ中へ」


中へ導いて扉を閉める。


「タオルを持ってくるので、

少し待っててくださいね」


反応は無い。

だが雫を床に垂らされても

困るので言う通りにしてもらう。


「どうぞ」

「ン」


やっと声らしい音が聞こえた。


「ヘックチュ!」

「あ、寒いですよね、えっと…」


適当に服を掴んで脱衣所に

案内した桃子猫に渡す。


「着替えて、体を温めてください、

ドライヤーでも、お風呂でも」

「ン」


扉を閉めて一息つく。

連絡もなしに突然の訪問、

それもおそらく着の身着のまま。

というか一度来ただけでよく覚えていたものだ。

ドライヤーの音が聞こえ始める。

生きていてくれて助かったが、

あの悲壮感を見るとその希望が

風前の灯のように感じる。

非常に訊きにくい。

間違いなく三ヶ月音信不通だったことと

関係しているだろうが、

それを尋ねて答えてくれるだろうか。

まずは当たり障りのない話から始めてみるか。

うーむ…。

ドライヤーの音が止む。

だが扉は開かない。

どうしたのかと扉に耳を当てると、

微かな水音と嗚咽。

すぐに開けて入る

桃子猫が体育座りをして泣いていた。


「ど、どうしたんですか!?」

「グスッ…」


泣くだけで話してはくれない。

髪が乾ききっていなかったので、

代わりに乾かす。

それが終わったところで、

唐突に抱きついてきた。

何も言わず抱きしめ返す。


「…、…テ」

「…」

「私、何もかもがわかんなくなっちゃって…」


吐露し始めた。


「私が本当にランさんが好きなのか、

それともあの人に似てるから好きなのカ、

それがもし本当だったら私にランさんを

好きになる権利なんかなくて…」


知らない情報が飛び出してくる。

暫くは聞いてないことにして、

ケアに専念しよう。


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