第149話 一蹴


来た。

二人とも怯んでいない。

崖の向こうでドワーフが

ひっくり返っている気もするが今は無視。

本当の二撃目が、来る。


『バチュッ!』


残像が見えるほどの速度で肉薄され、

到着した風圧で砂が舞う。

桃子猫は、防げている。

獅子巨人は失速しまた

片膝を地面に着くと思いきや、

手を地面につき体を浮かせた。


『バキッ!』

「キャッ!」

「!?」


獅子巨人が蹴ってきた。

完全に初見の行動、予想外の斜め上から来た。

このゲームを少し舐めていたことを、

今ここで分からされる。


「GRRR……」


ほんの一瞬、奴の足の裏が見える。


「ぶッ」


顔面を蹴られ後方へ吹っ飛ばされる。

視界が縦横無尽に回転した。

そこら辺の岩に衝突し直進が止まる。

目はまだ開ける。

即死は免れたようだ。

HPはあといくつ残っているだろう。

残量の計算なんかせずに、

雑嚢から薬草を引っ掴んで口に運ぶ。

そうして咀嚼しようとした時、

また獅子巨人が蹴りの予備動作に入った。

飲み混むのも間に合わないだろうと覚悟した時、

視界は足の裏ではなくピンクに覆われた。


『ガキン!』


硬い衝突音とともに、柔らかく後ろに飛ぶ。

ピンクを両手で包みながら転がる。

落ち着いたところで目を開けると、

ピンクの正体はやはり桃子猫。

間に挟まって衝撃を和らげてくれたようだ。

あの衝突音は、弾き損なった盾の音だろう。


「大丈夫ですか!?」

「ウン、それより聞いて」

「はい」

「多分ダケド、矢を撃つ隙が無さすぎて

私の回避を待つ余裕なんてナイ、

だから待たずに私ごと撃って」

「でも」

「それでしか勝てナイ」

『バチュッ!』


有無を言わさず肉薄した

獅子巨人と攻防を繰り広げ始めた。

舞踏のような攻撃は、

第一段階よりも連撃の密度が濃い。

考えろ。

獅子巨人に浴びせた矢は七本。

そこから桃子猫の攻撃で第二段階に移行した。

最大HPの半分で

第二段階に移行したと考えると、

最低でも九本要すると考えていい。

桃子猫の攻撃で、

表皮の防御力が下がっていれば、

それよりは少なくて済むだろう。

問題は先程よりも激しく動き回る獅子巨人に、

どう攻撃を当てるか。

特定の軸足などはなく、重心も不規則。

見極めろ、モーションの脆弱性を。


『バチュッ!』


やはり、盾の腕輪で弾いた際の、

一瞬の硬直しかないか。

ただその反動とも言うべき硬直を狙うと、

やはり桃子猫の被弾は免れなくなる。

桃子猫の言った通り、これしかないのか。


「火球」


矢に火球をつけつがう。

弾いたタイミングで

撃つことすらもう遅い領域だろう。

狙うは弾く直前。

ここ。


『バチ


弾いた時特有の音が、爆音でかき消された。


『バチュッ!』


砂埃が晴れる前に、またその音。

もはや私の攻撃など、

意に介さず殴り合いを続けている。

攻防の風圧で砂埃が腫れ、

桃子猫の姿が顕になる。

爆発範囲の中にいたはずなのに、

毛先が少し焦げている程度だ。

もはやどういう理屈で

ダメージを緩和しているのか分からないが、

考えて長引かせるほど

桃子猫を不利にさせてしまう。

ノンストップでやらせてもらう。


「火球」

「火球」

「火球」


毛が黒く、染まっていく。

もれなく二匹。


『バチュッ!』


それでも応酬は止まらない。

五本目。


「火球」

『バ


弾きに寸分違わず火球を重ねて、

桃子猫がもろに食らうのが見えた。

砂埃はすぐには晴れず、

新たな弾きの音も聞こえない。

やがて晴れた時、

盾と拳を付き合わせた両者が見え、盾が落ちた。


「桃子猫さん!」

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