第148話 チキンレッグメタ


『バチュッ!』


すぐ背後で盾の腕輪が展開される音。

振り返ると、既に拳を突き合わせた二匹。


「GRRRRRRRR」


索敵モーション中で、

視界にすら入ってなかったはずなんですけど!?。

魔法を探知する能力でもあるのか?。

そのまま二匹が殴り合いに移行する。

桃子猫が仰け反る様子もなく、

盾で防ぐことができている。

ここでも訓練の成果が出た。

爆発の半径を思い出しながら後ずさる。

攻防の風圧が届き、

獅子巨人が全力で手を伸ばしたら

届きそうな位置。

逆にその位置が拮抗を生むことを願う。


「火球」


獅子巨人が少し身体を傾けたが、

すぐに桃子猫との殴り合いに戻った。

目の前の人物からは目をそらさないほど、

僅かなヘイトを稼ぐらしい。

矢をつがえ、獅子巨人の顔に向かって引き絞る。


「いきます!」

「ン!」


桃子猫の回避見計らって放つ。

直ちに獅子巨人は爆炎に巻き込まれ、

煙でその姿を隠す。

と同時に、

煙からその剛腕と鉄拳が飛び出してきた。


「危ナイ!」

『バチュッ!』


泣け無しの防御態勢が発揮されることなく、

桃子猫が塞いでくれた。

火球矢が当たって怯みも無しかこいつ。

先程の魔力探知の時も思ったが、こいつ、

獅子巨人は火竜とは

また別格の強さを持っている。

直前の作戦がもう台無しになりかけている。

皮膚には砂が被っている程度で、

ダメージを負っている様子は無い。

石を小一時間投げたダメージと

総量はそう変わらないはずだが。

もしや、魔法に対する耐性が高い?。

魔力探知で魔法使いを速攻倒し、

反撃すら許さない耐性、

この組み合わせから

完全な魔法メタが予想される。

こちらのメイン火力は火球矢なので、

最高に相性が悪い。

その上動き回るときた。

長期戦は必至だ。

砂漠でそれ即ちジリ貧。

考えろ…何か策はないか。

獅子巨人をよく観察すると、

攻撃の中にある法則性を見出すことに成功する。

左右二パターンの、形の整った腰の入った突き。

正拳突きだ。

骨格や実践という差異のために、

本来とやや異なっていたので気づかなかった。

正拳突きが故に、

獅子巨人の脚は攻防が拮抗した場合

ほとんど動かない。

ここを攻撃すれば、

奴の機動力を削げるかもしれない。


「脚を攻撃します!」

「ン!」

「火球!」


もしかしたら初撃は

手痛い反撃を食らうかもしれない。

一発は許容範囲と思っておこう。

矢をつがえ脚に狙いをつける。


「いきます!」

「ン!」


桃子猫が飛び退いたと同時に矢を放つ。

爆発を突き抜けて出てくる拳を、

桃子猫がカバーしてくれた。

先程よりも早い突きに対応するとは、

やはりとんでもないプレイヤースキル。

爆発した箇所を見ると、

ほんのりとだが火傷が見える。

どんぐりの背比べのようなものだが、

下半身の方が柔らかい。

確かに上半身だけ鍛えた

ボディービルダーのような体をしている。

これは…いける!。

二度三度と足攻めを繰り返すうち、

獅子巨人の機動力はやはり削がれていく。

やがては正拳突きの

フォームにすら影響し始める。

桃子猫も余裕が出来始めたのか、

反撃を攻防に織り交ぜている。

奴の片足が黒く染まった時、

片膝を地面についた。


「GRRRRRRRR…」


こちらを睨みつけてはいるが、

間合いの低下を

隠しているような素振りにも見える。


「ランさん、ストップ」


唱えかけたところで制止が入る。


「次まで、温存シトイテ」


次とはおそらく第二段階のことだろう。

桃子猫は獅子巨人を鉤爪で切り付け始めた。

獅子巨人は必死に空間を掻き回してはいるが、

蝶のように舞い蜂のように刺す桃子猫は

微塵も捉えられていない。

獅子巨人に切り傷が増えていく。

三桁越えの力は、

獅子巨人の皮膚を容易く切り裂くようだ。


『ビクンッ』


獅子巨人の体が唐突に跳ね、

桃子猫が私の傍まで後退した。


「GRRRRRRRR…GRRRRRRRR…GRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOWWWWW!!!!!」


来た。

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