第56話 同じ同じ同じ


冒険者ギルド前。

人がごった返すのは常だったが、

前まで溢れるのは初めて見た。

パーティ機能との関連性は腕を見ればわかる。

各々、同じ形の腕章や篭手をつけている。

説明を乞うにしては多い人数。

登録作業などがあるのだろうか。


「ちょっとごめんよー」


隙間を縫い、中に入る。

と思ったら直ぐに抜けた。

どうやら建物一杯に

人が詰まっているわけではないらしい。

となると、入口側に何かある?。

よく見ると、集団は列をなし一方向を向いていた。

そこに何かある。

確かめるには、列に並ぶ必要があるだろう。

桃子猫に目配せする。


『ニコッ』


察して笑ってくれた。

おそらくは最後列の、

壁に当たって横に逸れた部分に立つ。

一番の懸念点は、

多くの時間を費やしてしまうことだが、

その心配は必要なかった。

列はパーティ事に消化されていくので、

断続的にだが列は早く進む。

何か暇つぶしを始める前に、最前列に到着した。

出張染色サービス。

立てかけられている看板には、そう書かれていた。

三人の受付らしき男達が、長机の向こう側にいる。


「いらっしゃいませー

こちら商業区染色屋出張サービスとなっておりますー徒党シリーズの装備はお持ちでしょうか?」

「あ、はい」


私は篭手を、桃子猫は腕章を見せる。


「確認いたしましたー

染めたい色をこちらからお選び下さい」


一枚のシートが差し出される。

虹の順番で14色、

ピンクと白黒灰で合計18色が描かれている。


「どれにします?」

「コレ」


迷わずピンクを選んだ。

まあ異論は無い。


「これにします」

「かしこまりましたー簡単な模様もお付けできますがよろしいでしょうかー」


シートが裏返され、

幾何学的で簡素な模様が示される。


「コレ」


私が何か言う前に、ハートが選ばれた。

ピンクとの組み合わせで正直恥ずかしいが、

後ろを待たせているので四の五の言ってられない。


「これにします」

「かしこまりましたー、では装備を拝借します」


言われた通り、篭手を外して差し出す。

桃子猫の腕章も揃うと、

受付は下から何かを取り出した。

指ほどの大きさの結晶。

洞窟で見たものとは違い、

はっきりとしたピンク色がついている。

結晶が装備に触れると、

瞬く間に篭手がピンク色になった。


「オー」


不思議な光景だ。

このアイテムさえ手に入れられれば、

同じことができるのだろうか。

染め終わった後、

受付は石炭のようなものを取り出す。

そして、その石の黒さとは裏腹に、

地よりやや濃い丁度いい色で、ハートが描かれる。

寸分狂わない模様に、

今やっとNPCらしさが垣間見えた。

瞬く間に作業は終わる。


「ご利用ありがとうございましたー」


そそくさとギルドから出る。

改めて、染色された篭手を見る。

なんというか、

一部分だけ魔法少女の装備のように見える。


「エヘヘ」


色を突き合わせて笑う桃子猫は、

かなり気に入っている様子だ。

こうして見ると、

確かに一体感が生まれたような気がする。

名実共に運命共同体…というのは考え過ぎか。


「こういうの、ナンテ言うんだっケ…」

「…運命共同体?」

「そうソレ!」


まさかの。


「丁度同じことを考えてました」

「ウェーイ」


手を繋ぐ。

少し怖くなってきた。

この手と手の距離よりも、近しいような気がして。




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