第55話 徒党を組む



大通り。

人のごった返す中で、

特定の商品を売る店を見つけるのは、

なかなかに難しい。

一旦いつもの店に行くか。

足の切り返しに、

桃子猫は何も言わず着いて来てくれる。


「おう、いらっしゃい」

「ご無沙汰してます」

「…チワ」


商品を見回す。

多少の入れ替えはあるが、種類は変わらない。

標準的でリーズナブルな、駆け出しのための店だ。

そして相変わらず、

エルフの装飾品が雑多に置かれている。

黒字が出ているのだろうか、この店は。


「店主さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「あんだい?」

「この店に、弓矢とか鉤爪は置かれてない?」

「あー、ちょっと待っててくれ、見てくる」


そう言って店主は裏へ消えた。

大したものは期待していない。

今のうちに、情報と交換できそうな品を定める。


『ギュ』

「へへ」

「ふふ」


なんというか、

やはり桃子猫はここに来ると性格が変わるらしい。

文字通りの猫かぶりで、こちらを癒してくる。

本人にその自覚があるかは定かではない。

時折、実家の猫を思い出すことがある。

桃子猫を見ると特に、それが起こる。

だからなのか、反射的に額を撫でてしまった。

親指で優しく擦るやつ。


「あっごめんなさい」


さすがにそこまでは求められていないだろう。


「…」


反応は無い。

怒らせてしまったか?。


「…続けテ」

「あ、はい」


先程と同じように、額を指でなぞる。

続けるうちに、桃子猫の体が振動しだした。


『ゴロゴロ…』


猫がよくする、骨密度が上がるとかの効果がある音。

再現性が高く、声で発しているように感じない。

いやむしろ、猫と同じ構造から発されているのか?。

このゲームの再現度なら、有り得る。

店裏から物音。


「いやぁーすまないね、無かった」

「そうですか…」


適当な篭手を掴む。


「お、お目が高いねぇ、

そいつは新しく仕入れた商品さ」

「はぁ」

「徒党の篭手って名前でな、

なんでも仲のいいやつと紋章や色を合わせると、

冒険者ギルドが一党として認めて、

クエストが受けやすくなるらしいんだ」

「へー」


おそらくは

パーティ機能のことを言っているのだろう。

変なことに躍起になっていたせいで、

方法を調べることを忘れていた。


「徒党の腕章ってのもある」

「なるほど、桃子猫さんはどちらをつけます?」

「ンー、コッチ」


腕章を指差した。

妥当な判断だろう。


「おいくら?」

「二つ合わせて銀貨十枚、

これに関してはビタ一文まけられないよ」

「分かりました」


実用的な装備にしてはかなり安い。

運営の配慮なのだろう。


「代わりと言ってはなんですが、

さっき私が言った装備を売ってる店、知りませんか?」

「知ってはいるが、教えるのは勘定を済ませた後だ」

「はいはい」


財布から銀貨を取りだし、装備と交換する。


「ここから大通りを少し奥に行って、

冒険者ギルドの向かいの道を進むと

武器を手広く売ってる店がある、そこへ行きな」

「どうも」

「毎度あり」


必要経費で情報も得られたのは、

何気に収穫が大きい。

早速装備したいところだが

どちらの腕に装着すればいいのだろう。


「ヨシ」


桃子猫は早速右腕に通していた。

真似をして右腕に嵌める。


「エへへへ」

「ふふ」


桃子猫が笑うと、ついつられてしまう。


「あ」

「ドシタノ?」

「色とか装飾の話、聞きそびれてました」


現在の色は無地の藁色。

これでパーティとして

機能しているか分からないので、

道中のギルドで確認しよう。




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