第43話 手前の顔より大きい



ロッカーにトランクを収納し、

桃子猫は手首を回した。

やはり負担になっていたようだ。


「行きたいところあります?」

「ランさんと行けるならどこでモ」

「なるほど…」


嬉しい言葉だが、先程の後だと受け取りづらい。

そしてどこでもいいと言っても、

最低限の場所が想定されているはず。

そして日本特有の場所。

即座にルートを検索する。


「行きましょう」

「ウン」




浅草寺。

雷門と書かれた大提灯が眼前にそびえる。


「うぉー」

「オー」


近場の寺社仏閣で一番有名であろう場所。

中学校の社会科見学で行ったことがあるが、

やはりでかい。

そして人が多い。

様々な言語が飛び交っている。


「写真トロ?」

「あ、ああいいですよ」


桃子猫が腕を上げ、自撮りのように構える。

そして腕を組まれる。


「えーと、一、二、三、ナス!」


特有の掛け声か何なのか分からなかったので、

とりあえず笑っておいた。



「撮れタ!」



嬉々として写真を見せつけてくる。

確かに桃子猫が写っている。

撮り慣れているのか、かなり上手い。

映えるなー。

誰だよ隣のヤツ。

遠近法通用してないぞ。


「へへへ」


桃子猫がにやけながら中国語をタップすると、

写真の二人の顔が変わる。

動物の鼻と耳が着いたり、

アニメ調になったりと、可笑しく変わっていった。


「ア」


その中で、見覚えのある顔に行き着く。

おそらくは顔のパーツを

均整にする機能なのだろう。

だからこそ、

私が作り出したドッペルフリーの顔に近くなる。

川面に映る顔は、こんなだった。

桃子猫は大して変わっていない。


「似てル…」

「似てますね」


桃子猫はすぐにドラッグし、

ファイルか何かに運んだ。


「今保存しました?」

「ウフフフ」

「まあいいでしょう」


減るもんじゃないし。


「奥に行きましょう」

「ウン」


浅草寺は雷門だけでは無い。

見るものだけでも、様々なレパートリーがある。

本堂に五重塔、

日本庭園などのそれっぽい要素から、

浅草寺にしかない石みたいなものがある。

それらが一つの土地に囲われているので、

さながらテーマパークの様相となっている。

人が多いのも相まって。

仲見世はすし詰め状態だ。


「ア」

「桃子猫さん!」


桃子猫の手を取る。

危うくはぐれかけた。

その後も暫く、手を繋いで歩いた。


「エヘヘ」




「ウォー!」

「ヒャー!」

「イェー!」


桃子猫と行ける場所の全てに行き、

写真を撮りまくった。

その全てに写る顔は、笑顔だった。

また純粋さに当てられそうになる。

桃子猫のことが分からない。

いや、むしろ会って二三日しか

経っていないのだから、分からなくて当然だ。

なぜ私は、そんな桃子猫のことを

分かろうと努力しているのだろう。

一緒にいて楽しいのは、そう。

狭さで体が密着した時、

膨らんでいる部分の温かさが

伝わるのが好きなのも、そう。

でもたったそれだけで、

私が空港まで会いに行くことはしない。

それ以上の理由と、答えを、私はまだ知らない。

考えているうちに、寺を周り終えた。

時刻は16時。


「まだ時間、ありますよね?」

「ウン20時集合」


県外には遠出できないし、

かといって時間にはまだ空きがある。

東京駅周辺で時間が潰せる場所。

覚えがある。


「桃子猫さんって、今お金持ってますか?」

「三万円ト、カード」

「なら、買い物しませんか?」


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