第16話 差し伸べられる手


森から抜け平野部に出た時、城壁の全貌を知った。

いやデカすぎんだろ。

視界の端から端まで、城壁が連なっている。

まだ数百メートルはあろうというのに。


「ハへー」


桃子猫は上を向いている。


「なんか…アレに似てる」

「アレ?」

「私の国にアル…なんか長い壁」

「万里の長城?」

「多分それ」


私は実物を見たことは無いが、

何となく似ているという感想には納得出来る。

ただこの城壁は緩やかな曲線を描いている。

円形の可能性がある。

ただ。


「どっちに行きましょう」


見ている正面に門はない。


「アッチ」


桃子猫は左を指差す。


「分かりました」


円形だったら、どちらでも辿り着くだろう。

城壁に近づきながら、左に進む。


『ジロジロ』

『チラッ』


進むにつれ、徐々に人が増えてくる。

私のような人間や、獣人。

よくよく観察すればエルフやドワーフなんかもいる。

それらプレイヤーに共通する点。

それはソロでいること。

私たちと同じ方向を目指して歩いていること。

そして私たちを最低は一瞥すること。


「失礼!」


桃子猫はプリプリと怒っている。

かわいい。

ただ彼らの行いに、責められるところは無い。

ほとんど説明無しにゲームが始まったのだ。

ログアウトの仕方がわからず、

消耗している人もいるだろう。

だがより見られる理由らしい理由がある。

桃子猫が、

他の獣人に比べかなり小さいということ。

本人がキャラメイクの時点で、

かなり小さく作ったのだろうか。

後は私達が二人で行動していていることも、

関係しているだろう。

腹へりや乾きゲージが存在する以上、

他プレイヤーをライバルという

認識をしていてもおかしくはない。

むしろ私達の方が、平和的過ぎるのかもしれない。

まあその献身あって桃子猫と出会えたのだから、

お釣りは十分だろう。

進んでいく内に、また人は多くなる。

そのうち色々な角度から人がやってくる。

そして最後には右から。

右を見る。

門だ。

大きな門が、迎えるように広がっている。


「ヤッタ!」


桃子猫が抱きついてくる。


「おぉおぉおおうおほほ」


変な声が出てしまったが、

抱きしめ返すことには成功した。

十数秒間、回ったり上下したりする。

最後に深く抱きしめ合い、離す。


「「あ…」」


衆目を集めていたことに気づき、照れる。

そして改めて、門内を向く。

街だ。


「それであいつがさぁー」『へー』「それなー」「一緒にゲーム始めるって言ったのにまじありえないんですけど!」『まあまあ』「ちょっと飽きた」


そんな喧騒が聞こえてきた。

その喧騒に、足を踏み入れる。


「アワワ」

「う」


人混みに揉まれてしまう。


「桃子猫さん…」


かろうじて、桃子猫の手を掴むことが出来た。


「アウ…」


強く引っ張ってしまうのは、申し訳ない。

何とか人混みが薄くなる場所まで。

十分程で、たどり着くことが出来た。

公園のような、憩いの場のような広場。

そこの長椅子に、腰を下ろした。


「ふぅ」

「フー」


深く座り、椅子に体重を預ける。


「あ…」


手を繋いだままだった。

だがここまで来て、何も言わず突然離すのも、いささか気が引ける。

こちら側から繋いだわけだし。


「…これからどうします?」

「決めてなイ」

「そうですか…

私は今日はもう終わろうと思ってるんですが」

「エ?」


桃子猫はこちらを向き、両手で私の手を挟んだ。


「ッ」

「ワタシ、ランさんとここでお別れしたくない…」


それは、私もそうだ。


「このゲームを続けていたら、また会えますよ」

「違ウ」


桃子猫は私の手に額を着く。


「このゲーム以外でモ、会いたィ」




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