第10話 甘酸っぱい
洞窟がこちらを喜ばせるかのように、
徐々に上り坂になってくる。
登ることに体力が消費されるものの、
歩調が浮つく。
先の竜を逃げおおせたことも、その要因だろう。
だが主な要因は、桃子猫からの伝染だ。
先にスキップしだした桃子猫と手を繋いでいる私は、やっぱり同じ速度で着いて行かざるを得ない。
決して苦しくはない。
むしろ一体感が生まれて、
なんだか楽しくなってきた。
「ぜぇ…ぜぇ…」
そろそろキツくなってきた。
桃子猫は止まる気配がない。
体勢を上げるのも辛くなってきた。
「あの…もうそろそ「着いタ!」
「え?」
少し息を整えて、ゆっくり顔を上げる。
「ぅ」
眩しい。
反射的に閉じた瞼を、手で保護しながら開く。
光だ。
今までいた場所が影に塗れていたとことを確信させる、紛うことなき太陽光。
外だ。
「匂いがしタ」
それで急いでたのか。
「ありがとうございます」
自然と感謝を口にする。
「ウン」
未だ桃子猫に手を引かれながら、歩き出す。
洞窟は、木に囲まれていた。
おそらく森の中なのだろう。
そして木々の中のいくつかは、果実を実らせていた。
「フフー」
変な鼻歌交じりに、桃子猫は果実の方へ寄る。
これの匂いが急がせたわけか。
「アウ…」
近づいてみたはいいものの、
高くて取れないといった印象だ。
近づきむしって、渡す。
「アリガト」
改めて果実を見る。
赤く、末端にかけての黄色い線が目立つ。
うん。
リンゴ。
齧る。
「うーん」
酸っぱい。
野生のリンゴはこんな感じなんだろうか。
再現度は立派なものがあるが、
やはり美味しくして欲しいものだ
「ハワー」
桃子猫も心做しか、
フレーメン反応のように顔を引き攣らせている。
だが足りない乾きゲージや腹へりゲージを
補うにはうってつけだ。
「うむ…うむ…」
桃子猫が食べにくそうにしている。
人間以外の種族の口も再現されている?。
このゲームなら有り得る。
「桃子猫さん、ちょっと失礼します」
「んア?」
桃子猫が齧り付いているリンゴに、
ナイフを食い込ませる。
皮の部分を大きめに削いで、
身の部分を擦り下ろす。
それを桃子猫の口に流し込む。
彫刻刀でできた削り粉を食べさせているような気分だ。
慎重にナイフを操る。
「あむあむ」
懐かしい気分だ。
風邪をひいた時、
母親によく擦りだしたリンゴを食べさせてくれた。
こんな原始的な要領ではないが。
実が半球状になったので、
残った身を刻み皮を皿にして、桃子猫に手渡した。
「ェ」
私も自分の分を食べなければ、
消費に補給が追いつかなくなる。
「ネー」
桃子猫が傍に駆け寄ってきて、
私がそちらを向くと、口を開けて待機しだした。
「アーン」
「…」
口に出すことも、
頭の中で思うこともはばかられるような、
そんな感情が芽生えた。
一瞬でそれを毟り、冷静になる。
「はぁ…」
仕方ないというふうに、膝立ちをする。
ナイフを使う必要はもうないので、
指で掻き出して桃子猫の口に流し込む。
「あむあむ」
咬合を得意としない歯が、健気に食んでいる。
その光景を見て、生えては毟って生えては毟る。
『ペロ』
「!」
毟りが追いつかなくなった時、ある感情が咲いた。
エロい。
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