第9話 拾い物を大事に



そして何より目立つのは。

鱗を所々光らせながら、

体を緩やかに収縮させる竜の尻と尾。

全体的に広く薄く、短足で翼は生えていない。

サラマンダーの系統か。


「…」


二人が息を潜めるその間、竜のいびきが空間に響く。寝ているようだ。

行くか戻るか。

桃子猫がこちらを見る。

目の前に鎮座している竜を避けながら、奥を見る。

薄明かりで分かりづらいが、

確かに奥への道が続いていた。

桃子猫に目配せし、全ての音を殺しながら歩き出す。竜を視界に収めながら、ゆっくりと奥の方へ。

桃子猫は学習してか、耳を塞ぎながら歩いている。

竜は、カエルのような不細工な顔面をしていた。


「Brrr…」「「!!」」


足を止める。


「rrr……」


ただ身動ぎをしただけのようだ。

口の中で安堵の息をし、

鼻から暖かい空気が抜けていく。

竜が起きた時、

ノータイムで駆け出す心の準備をする。

獅子巨人と対峙した時のように、

緊張と集中を要する。

でも、結構楽しい。

奥の通路まで、あと十数歩といったところ。


「BRHOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


案の定竜が起きる。

振り返らずに、走る。

桃子猫は怯むことなく、前を走ってくれている。

通路へ至る3秒前。

2。

1。


「BRHOO!」


奥にすぼむ地形に竜が引っかかるのを後目に、

奥へ至る。


「BRHOOOOOOOO!!」


もどかしさに地団駄を踏んでいる。

ただそれだけでも壁面は掘削されているので、

気が気ではなく後ずさる。


「rrr…」


向こうもやや冷静になり始め、

こちらを見ながらも後退していく。


「何とかなった…?」


そう言った瞬間に、竜の喉が赤く明滅した。

それゃ出てくるだろう。

竜なんだから。

火球。

この一本道に、逃げ道はない。

耐性装備も耐性魔法もない。

こりゃまた死ぬか。

悟っている時に、脇から桃子猫が飛び出してきた。


『バチュッ!』


そんなよく分からない音をたて、

桃子猫は閃光と爆炎に飲まれた。


「桃子猫さん!?」


私は馬鹿だ。

桃子猫をすぐに抱え、視野を広げる。

竜はまだ移動しておらず、こちらを見ている。

次弾を想定し、すぐさま後ろへ駆け出す。

そして先程は見えなかった、

ほんの少しの壁の凹みを見つける。


「BRHO!」


思った通りの火球。

凹みに何とか体を突っ込み、これを回避する。

そしてまた駆ける。

一瞬振り返ると、竜の姿はもうなかった。

抱えていた桃子猫を抱きしめる。


「ごめんなさいごめんなさい…」


また嫌な思いをさせてしまった。

私が庇うこともできただろう。


「ごめんなさい…」


桃子猫の体はいつ消えるだろう。

その間、謝れるだけ謝っておく。

さらに強く抱きしめる。

抱きしめ返される。


「ごめ……ん?」

「ムフフ」


離す。


「あ…」

「やられたんじゃなかったんですか?」

「そんなこと言ってなィ」


それは確かにそう。


「じゃあどうやって?」


生き残ったのか。


「多分…これ」


桃子猫は右手を差し出した。

それに巻かれているのは、盾の腕輪。

こんなシンプルな構造の盾が、

火球のダメージをカットしてくれるのか?。


「なんか…急に広がっテ…」

「弾き飛ばしてくれた?」

「ウン!」


盾として機能する瞬間、

その勢いが相まって防御性能が向上する?。


「もしかして、橋を渡ったあの時も?」

「ウンウン!」


あの時、獅子巨人の拳が確かに盾に密着していたが、その衝撃などは全く伝わってこなかった。

もしかしたら、

彼女はとてつもなくいい拾い物をしたんじゃ?。

それよりも。


「よかった」


軽く抱きしめる。


「ムホホ」


若干喜び方がおじさん臭いような…。


「行きましょうか」

「ん」

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