第12話

「今なんとおっしゃいまして?」


 私はもう一度聞き返す。クラウドは真っすぐな目線を私に向けてもう一度口を開く。


「マーレ様とお話したいのです。サリオス様から素敵な女性だとお伺いしていたので…!」

(これはまずい!私に矢印向けられるのは避けたい!)


 私は周りに悟られないよう考えを巡らせるが、良案は全く脳内に浮かんで来ない。するとサリオスが横から割るように口を開いた。


「おいおい、マーレが困っているぞ」


 このサリオスの言葉を真横で聞いていた私は、ほんの少しだけ安堵する事が出来た。しかしクラウドの目線はまだ私の方へ名残惜しそうに向けられている。


「クラウド様、焦らずとも私はここにおりますよ」

「マーレ様…ですが」

「クラウド、焦ってはいけない」


 サリオスにいさめられたクラウドは流石に反省したのか、その場で頭を下げて申し訳ありませんとか細い声で謝罪した。

 だが、時折放たれるクラウドのおもちゃを欲しがっている子供のような視線を見てもまだ安心はできないままでいる。


(ヤリ目かガチかまでは分からないけど…安心できんな)


 するとたまたま私の横をリズが通りがかった。ワインを片手に一人で移動しているように見える。私はたまらずリズに声をかけた。


「ねえリズ!」

「あらマーレ。そしてサリオス様とクラウド様こんばんは。お楽しみいただいているでしょうか?」


 リズは普段と変わらない気さくさで私とサリオスらに接してくれる。その姿はまさに頼りがいのあるものだ。

 私はリズに罪悪感を感じつつも、ちょっといい?と口元を手で隠しながら小声で告げる。


「クラウド様のお相手お願いできるかしら?」

「ええ、いいわよ。丁度暇だったし」


 即答だった。リズはにこにこと穏やかな笑顔を浮かべたままクラウドに近づくと、そのままクラウドの左手に自身の右腕を回す。


「クラウド様。ぜひお話してみたかったんです」

「えっ」


 クラウドの視線が私とリズをあちこち行ったり来たりしている。誰が見ても分かる通りの困惑っぷりを見せているクラウドに対し、リズはやや強引にクラウドを腕を引っ張りながら自室へと連れ込んだのだった。


(助かったー!!)


 そして私とサリオスだけが、娼婦と貴族だらけのホールに残されたのだった。私はサリオスを見上げると、サリオスは私の手を取った。


「では、私達も行こうか」

 


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