第3話

「サリオス!会いたかった…!」


 私はドレスの裾を持ち、いつもより小さな歩幅でサリオスの元へと駆け寄った。


「ずっと会いたかった…!」

「マーレ…」


 サリオスの目は穏やかだが、口角はあまり上がってはいない。


(そら妻子いるからこんな表情にもなるわな)


 サリオスはしきりに目玉をきょろきょろ動かしている。その落ち着きのない様子に気づいた私は、すかさず彼の手を取り、娼館へ向かって駆け出す。


「ま、マーレ!」


 サリオスは私の行動へ一瞬驚きの声を出したが、私の手を振り払う事は無いまま私の手に引かれ娼館のドアの中に入る。


(やはり未練あり、か)


 娼館の中は既に客である貴族の男達と娼婦で一杯になりつつある。娼婦らが片手にワインの入ったグラスを持ったりして客との喋りに花を咲かせている様子を横目で見ながら、サリオスを自室へと素早く連れ込む。

 部屋の中の椅子にサリオスが座るように誘導させると、私は飲み物を用意すると微笑みを浮かべながら彼へ告げる。


「コーヒーをご用意いたしますね」

「わかった」


 私は階段を降りた先にいたボーイにコーヒーを用意するよう声をかける。しばらく待っているとボーイが階段を上った先まで持っていくというのでその通りにさせた。


(今の自分なら溢しそうだし、途中まで運んで貰おう)

「ありがとう。もう大丈夫よ」

「わかりました」


 近くに誰もいないのを確認してから、ドレスのポケットに隠してあった精力剤をさっと入れて、ティースプーンでかき混ぜて震える手でドアを開く。


「コーヒーお持ちしました」

「ありがとう」


 サリオスに両手でお皿に乗ったコーヒーカップを手渡した。サリオスはそれをさっと受け取ると一気に飲み干す。


(っし飲み干した!)

「おかわりいりますか?」

「ああ、よろしく頼む」

「では、お先にシャワー浴びられますか?その間にコーヒーをご用意いたします」


 サリオスをシャワールームへ案内させ、私はもう一度一階に降りてコーヒーをボーイに持ってきてもらった。


(それにしてもやけにサリオス素直だな…精力剤の効果が出るまで気を引き締めないと。でも足が痛い)


 慣れないヒールを履いているせいか、歩くたびに足の親指と小指がずきずきと痛む。なので今回は部屋の前までボーイにコーヒーを持たせてもらったのであった。


「忙しいのにごめんね」

「いえ、これくらい大丈夫です」


 ボーイは爽やかな笑みを浮かべて階段を駆け足で降りて行った。私はコーヒーを机に置くと、自室のベッド横にある椅子に腰かける。

 カーテンがかかった窓からもすでに日が落ち暗闇の世界が広がっているのが分かる。


(そういえばそろそろ…サリオスの妻から電話がかかって来る筈)

(とりあえず言い訳考えないとな)


 私は立ち上がって、部屋のドアを開けた。するとボーイがこちらへ向かって小走りで走って来るのが見える。


(やはり来たか)

「マーレ様!」


 私がお静かに。とボーイに声をかけると、ボーイは声のトーンを落とした。


「あの、サリオス様の奥方から…」

「電話なの?」

「は、はい」

(やっぱり。そしてサリオスにこの事が知られてはまずい)

「サリオス様はここにはいないわよ。奥方にもそう言ってちょうだい」

「えっでも…」


 躊躇う様子を見せるボーイへ私はもう一度念を押した。


「サリオス様はここにはいない。そう言いなさい」

「はい。かしこまりました」


 ボーイは駆け足で廊下を歩き、階段を降りていった。


(効いてるだろうか)


 私が部屋に戻るもサリオスはまだシャワールームから出てこない。


(何かあったか?)


 私は立ち上がり、シャワールームの二歩手前まで歩み寄った時、ガチャと扉が開いて裸のサリオスが出てきた。

 サリオスの身体は全身ほんのり赤味が出ている。そして股間のそれはすっかり鉄の棒のように硬くなり、熱く脈を打っている。


(おっもしや精力剤の効果か?)


 するとサリオスが突如倒れ込むようにして私の体へと抱きついて来る。私は彼を受け止めると大丈夫か?と声をかける


「すまん、あの机に置いてあるコーヒーをくれないか?なんだかさっきから体がおかしいんだ…」

「おかしいというのは?」

「体全体がほてって…ここも勃ったまま全く静まらないんだ…」




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