ヒーロー

キックマンがおもむろにベルトのボタンを押すと、淡い赤が装甲を縁取って変身が解除される。


流血しながら地面に仰向けになって倒れるアライブマンの変身者を見やる。

無精髭のどこにもいそうな男だった。


「...誘ったな。」


「悪かったな。」


「何、詫びてんだ。カス。」


男は、四肢を投げだして大の字に寝転がる。


「さて、俺は死ぬ。」


「...」


「お前、わざと急所外しただろ。殺せたのにな。どういう訳か、お前は俺に死んでほしくないみたいだ。だから、死ぬ。お前がこれからどんなアクションを起こしてもな。俺は『最悪』だ。」


「...。」


「俺を憎んでないのか?」


「...憎いさ。」


突風にひろの髪が揺れる。


「でも、俺には人を殺せない。一度でも、手を汚したら一生後悔する気がする。それに...」


ひろは、絞り出されるようにして出した自分の言葉に少しゾッとした。


「...お前は大勢に呪われて死ぬべきだよ。」


「と言うと?」


「人を大勢殺したんだ。一生、罪を背負って、貶されて、悔やみ尽くして、それで...あんたのせいで死にきれなかった人たちの分まで...」


ひろは掬うように言葉を紡いだ。


「『人』として死んでくれ。」


ひろの言葉を受けた男は、余力を振り絞って上体を何とか起こした。


「...なるほどねぇ。お前はそういう奴か。

よし、俺からも勝手な望みが一つあるぜ。」


左手で無精髭を撫で、嘲笑めいた微笑を浮かべる。


「俺の勘だ。お前は最悪の死に方をする。何もかも失ってな。」


「...失うもんなんてない。」


「これからさ。」


男は小さく息を吐いた。


「ま、そういう訳で...」


男は右の袖口に仕込んでいたサバイバルナイフを自分の側頭部に躊躇もなく突き刺した。


「惨めったらしく死んでくれ。」


ひろが何かアクションを起こす暇もなく、男は命を絶った。


男はうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない。

血溜まりがブロックに染み込みながら広がっていく。


...考え得る限り最悪な男であった。


ひろはしばらくその場に立ち尽くした。

突風が木々を揺らす。


それから、ゆっくりと両の掌を合わせ、目を瞑った。


祈る。

ただ、光に包まれてあれ、と。


彼は、長い間そうしたままであった。

ずっと。ずっと。


アライブマンは狂っていた。

この世界では、狂気に勝るものは少ない。

しかし、彼は勝った。


狂気に勝るのもまた狂気。


彼は真面目すぎるのだ。

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