TATAKAI!!!!COOL!!!!②
「じゃ...
突然、どこからともなくオルタナティブロックが流れ出した。
スピーディかつ重厚な音を出すドラムを中心に、リズミカルなサウンドが展開される。
ミックスボイスの男ボーカルが吐き出すシニカルで暗鬱とした歌詞は、どこか不安気な気分を誘う。
これは...SYOKEI!!!!!!!!
戦闘とはシーソーゲーム。
力量や精神力、ハッタリなどでその均衡が大きく傾いた時、精神的・肉体的にエネルギーが無意識に周囲へ流出する。
これが音楽として形を持ち、第8のチャクラとして具現するもの、これがSYOKEIである!!
要は、音楽として形を持ったアドバンテージと解釈していただきたい!!!!!!!!
これが発生すると、まず各自固有のエキサイティングな音楽が、どこか超時空の
先程も説明したように、これは人間の「波」が音楽として溢れ出したものである。
どこから、何の因果を持って、この現象が発生するのか、科学的解明には未だ至っていない。
この音楽には、発生者の筋組織や赤血球量を増加させる他、疲労感の低減や神経を興奮させる作用も持つ。
爆発的アドバンテージ!!!!!!!!
これが流れたら、死を覚悟せねばならない!!!!!!!!
死神の足音めいたミュージックなのだ!!!!
とくとくと流れ出すアライブマンのSYOKEIサウンド!!!!!!!!
キックマンの目前で地面を踏みしめる音が鳴った。
アライブマンが一瞬で距離を詰めたのだ!!!!
何たるスピード!!!!
これが、SYOKEIのアビリティか!!!!
アライブマンはキックマンのボディに強烈な右フックを叩き込む!!!!
その筋肉、縄めいて肥大!!!!
あまりの衝撃に、後方に吹き飛ぶキックマン!!!!
だが、並み外れたスピードですでに背後に回り込んでいたアライブマン!!!!
さらに、強烈な後ろ回し蹴り!!!!
これも直撃!!!!
またも大きく飛ばされる!!!!
更なる追撃を危惧したのか、キックマンは空中で辛くも体勢を立て直すと、バク転を挟んで早急に着地した。
しかし、その間合いにはもうアライブマンが!!
キックマンが気づいた時にはもう遅い!!!!
とどめとばかりに、キックマンの腹部に一撃必殺のアッパーカット!!!!
それから、オーバーキルめいたチェーンパンチ!!!!
キックマンの装甲が剥がれ、頭部はボコボコに凹む!!!!
勝負あったか!!!!
死体に鞭打つような頭部への超強力ストレート!!!!!!
キックマンの頭部が拳に合わせてめり込み、装甲が飛び散る。
反動でまたも後方へ吹き飛び、転がるように地面をバウンドして、街路樹に激突した。
空中に飛び散る鮮血!!!!
衝撃でベルトが外れ、地面に情もなく転がる。
キックマンの変身が溶けるように解除され、ひろの姿へと戻った。
体中から流血し、特に頭部のものが酷い。
鼻血や吐血、殴られた痕などが生々しい。
遠くでゆらゆらと
哀れと不安を抱えたような視線であった。
デジャブめいた光景。
このまま、ひろは前と同じように何もできずに無様に死んでいくのだろうか!?
...。
「クソッタレ...」
ひろはヨロヨロと立ち上がり、バックルのみとなったベルトを拾った。
衝撃で頭の中に溢れ出した過去。
会社の机に血痕が付いていた。
中学生の頃、飼い犬が殺された。
どんなに頑張っても何者にもなれなかった。
食卓の上にはいつも1000円が置かれていた。
やはり、ひろには何もなかった。
ただただ、判然としないまま自分を歪に形作っていたデターミニズムが彼の
不健康な正義と不明瞭な悪意が人の形をして歩いてる。
何が正しいかなんて、何が正しいかったかなんて、この世界じゃもうわからない。
なら...
「俺は...俺が許せる俺でありたい!!それが...それだけが、俺が生きてく最後の...!!最後の...!!」
そこから先はもう言葉にできなかった。
俺は嫌いだ。
理不尽も、挫折も、後悔も。
目の前の死が許せない。
目の前の悪が許せない。
何もできない自分を許せない。
空回ったて別に構わない。
凍える夜に縋りつける証を、生きてるって思える印を、傷跡を。
失敗も、後悔も、もう一度。
「何故、立つんだ?」
アライブマンが怪訝そうに訊いた。
「もう一度、もう一度だけ、まともに生きてみたい...だから今、立ってんだよ!!!!」
バックルを構えた右手が、何かわからないもので震える。
それを腹部にあてると小気味のいい音を鳴らしてベルトが装着された。
不恰好ながらポーズをとった。
幼い頃、必死に考えたかっこいいやつ。
ズルズルと粗末に腕を空中で動かす。
それに合わせて、腹部の巨大なバックルが俺に見合わない派手な変形を行う。
「...変身!!」
変身。
目の下に浮かび上がる涙のような鮮やかなモールド。
体が黒く変色し、筋肉が隆起する。
空中にアーマーが構成され、凄まじい速度で装着される。
アーマーの下やベルトから、圧縮された空気が蒸気めいて噴出した。
複眼が発光する。
キックマン。
...。
はっきり言って馬鹿げてる。
不安を抱いて、歩んで、痛んで、ただ漠然と生きるしかなかったこんな世界が大嫌い。
そんな世界でイジイジ生きる自分も大嫌い。
多分自分が一番わかってる。
自分なんかが頑張っても何にも変わんない。
けど...それでも、俺は...
負けたくないって...思っていたかったんだ...!!
キックマン...ひろは何度も立ち上がる。
それが、かっこいいと...正しいことだと、まだ信じていたいから。
遠くから見つめる少年のひろが、何やらハンドサインをつくった。
恐らく、地方局で再放送されてた特撮番組の主人公の決めポーズだったやつだ。
満面の笑みとサムズアップ。
しばらくして、少年は煙のように風に吹かれて消えた。
人工の青白い光は見下すように一人の青年を照らす。
足掻け、ひろ。
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