第20話 如月さんは抱え込む

 公園に戻ると、神宮さんと如月はその場から動かずに待っていた。如月も神宮さんも心配した顔をしており、俺の姿を見つけるなり安堵していた。それを見て、神宮さんも俺のことを心配してくれていたのだなと場違いな感慨を抱いた。


「大丈夫だったか如月、神宮さん?」


「ええ、私は大丈夫だったけれど…。むしろ涼風君が犯人じゃないと分って安心したくらい。」


 神宮さんは、本当に大丈夫そうだ。軽口を言う余裕もある。いつもは、面倒くさい軽口も、今はこの重たい空気を和らげてくれるようでありがたかった。

 

 …まあ、神宮さんの場合、そんなことを狙って言ったわけでもなく、ただ本当にそう思ったことを言っただけなのだろうが…。


 問題は、如月の方だった。未だに如月の顔には恐怖の感情が色濃く浮かんでいた。それも当然だろう、一旦は脅威を退けたとはいえ、いつまたやってくるとも分らない。


「…私も大丈夫。…ありがとね涼風君、私を助けるために動いてくれて。」


 如月は全く大丈夫ではなさそうな顔でそう告げる。おそらく心配をかけさせたくないのだろう。俺に対するお礼の言葉といい、こんな状況でも他人を気遣ってしまう性質らしい。


「とりあえず、今日はもう家に帰って、ゆっくりしな。家まで送っていくからさ。」


「…うん、そうさせてもらうね。」


 そう言った如月の姿がひどく寂しげに見えた。きっと、こんな状況でも他人を気遣ってしまう如月は、このことを他の誰にも告げないだろう。告げることによって心配をかけてしまうことを恐れているのもそうだし、何よりも巻き込んでしまうことを恐れている。

 

 俺と神宮さんに事情を話してくれたのは、抑えきれない不安が溢れてしまったために違いない。しかし、今日のこの出来事で、事情を話すことによって事件に巻き込んでしまい、相手を危険に晒してしまうということを理解してしまった。もう、如月は抑えきれない不安を誰かに話すことすらできないだろう。


 もっと言えば、如月は俺と神宮さんに相談したことすら後悔しているだろう。それはなんて悲しい事だろう。相手を気遣うあまりに、人に頼るという自然な行為をにすら責任を感じてしまうなんて。いっそ、如月が誰も気遣うことのない人間だったならば、正当に色々な人に助けを求め、正当に不安を和らげることができたに違いない。


 人が良い人間ほど、抱え込まなくて良いことを人以上に抱え込んでしまう。そんな事はあまりに悲しい話だ。それなら、せめて事情を知ってしまった俺が、不安を肩代わりしてあげなければ。多くの人で背負い込むことができないなら、その分俺がたくさん背負ってあげなければ、如月は救われない。


 だから、自然と如月に手を伸ばしていた。

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