第06話 新たな仲間アリエス
城内での体感時間は、やたら短い。
「う~ん、もう朝だ……。ゆっくり休めた気がしないなぁ」
今回もまたリン達が番犬になるのだろうという、うんざりする予感が、羊少年の寝起きを最悪なものにしていた。
そして早起きのリンとギンが、廊下に現れた階段を見下ろしている姿に、眉毛を跳ね上げた。
「階段? 昨日はそこに出てなかったよね」
「黒いモヤモヤは、二階で戦ってた人たちが揃うまで、待ってたみたいだね」「二階で誰かが勝負しておったようだの。無事に勝利を果たし、三階まで上がってくるようだ」
「へえ、ボクたちよりも下の階に落ちてたヤツがいたんだ。なんか優越感~」
「昨日、お外にすごいスカートの切れ込みが入った女の子が、梯子を使って下りてきたよね。新しい勇者としてお城に入ってきたのかも」「もしや、昨日のゲラゲラ笑いながら現れた少女ではないか?」
「あ~も~、疲れが取れてない頭に君たちの会話が、まるで入ってこないよ~。今日も負ける気がする~!!」
ふわふわの頭髪をくしゃくしゃに搔きまわしていると、階段を上がってくるガシャンガシャンが聞こえてきた。
「この足音は、オーランド!」
羊少年が階段まで迎えに行くと、白銀の騎士オーランドの、少し後ろに、薄紅色の髪の美しい少女が階段を上ってくるところだった。
「その人、だれぇ? 綺麗な人だね~」
「アリエスだ。魔王の生贄なんだと」
「ええ!? なにそれ、かわいそう。そういう子はたまに森に入ってくるらしいけど、けっきょく衰弱して森の動物に食べられちゃうって聞いてた。でも、無事にお城に入れる子もいるんだ~。へ~」
アリエスの前の代の聖女は、三十年前に一人だけ現れたらしい。この羊の角のようなイヤーマフを付けた少年の話が、アリエスの国の聖女のことを差すのならば、どのみちこの森に捨て置かれていたことになる。
(聖女とは、いったいなんのために生み出されていたのでしょう……)
オーランドとアリエスが三階に上がりきると、階段がずるずると引き上がってきて、継ぎ目なく綺麗に床と一体化してしまった。これで一階や二階には下りられなくなってしまった……全員で番犬に敗北しない限りは。
黒いモヤがどこからともなく、五人を包み込んで、消えた。
「あ~、黒いモヤってほんと空気読めないよね。もっとアリエスちゃんとお話したかったのにさ~」
「私たちのうちの誰かが、たった今より番犬になったのですね」
「うわぁ、先に言うけどボクじゃないよ? せっかく可愛い女の子に会ったのに、第一印象が悪くならなくて本当によかった~」
「良かったね、メリオ君」「その手には乗らんぞ、子役のメリオよ」
「元、子役! もう意地悪言わないでよね、君らのせいでこんな下の階まで転がり落ちちゃったんだからね!」
目を剥いて抗議するメリオのすごい形相に、ちょっと驚くアリエス。十歳以下のような外見をしているが、ここで過ごすうちに精神だけがしっかりした子に育ってしまったのかもしれない。
メリオはアリエスの視線に気づいて、ごまかすような咳払い。そしていつでもフル装備の真面目騎士、オーランドを見上げた。
「あ~オーランド、君がまた復活してくれて本当に良かったよ。ギンかリンの話相手、してくれないかな~。二人がかりで一斉にしゃべるから、相手するのが大変でさ」
「カードのやり取りをするだけだろう? なにをそんなに疲労するんだ?」
「博士たちはいつも話したいことで頭がいっぱいなんだよ。しゃべって頭を整理するタイプなの。だから四六時中、会話の相手してやんなきゃならなくて。そこでさりげなくカードのやり取りも交えてくるから、もうボク、手の平の上でさ」
「それは……災難だったな」
傍から聞いていたアリエスは、どうやら博士らしきこの二人組セットの少年たちと、たった一人で相手をしてはならないのだと学んだ。羊少年はぱっと見はぽわ~んとしているが、顔立ちはキリッとしていて賢そうだ。その彼が
(ともあれ、勝負が始まりましたわ。いったい誰が番犬なのでしょう)
新人のアリエスでは、どうしても初対面で戦う人が出てくる。普段と違う言動があるなどの細かな機微は、オーランドたち旧知の仲である関係でしか気づけないものだ。
(誰かが普段と違う言動を取っているぞ、と私に教えてくれる人が、番犬ではない保証もありませんし……オーランド様の言うとおり、これは頭を使わなければ勝てませんわ。ああ、混乱しますわね! わくわくしますわ!)
アリエスは一人、はしゃいでいたのであった。
つづく
※「世界を変える運命の恋」中編コンテスト、応募作品です。
※コンクール期間内の作品で戦う勇者は、オーランド一人です。
※顔見せ程度に三人の勇者が出てきましたが、コンクール期間内では彼らと戦いません。
※詳しくは、「世界を変える運命の恋」中編コンテストの応募要項をご覧ください。
※お星様評価、お待ちしておりまーす!
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